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狩猟。獣と銃と山とヒト  作者: 水底 宇宙
狩猟姫と泣き虫執事
29/55

エドの血涙

やっと、猟期最終日編、ひと段落です。このエピソード、本話は割と実話に近いので、もうちょっとディティールを書けるかとも思ったのです、ちょっとテンポ優先にしてます。


※本作品はフィクションです。


※実在の人物、団体、事件、地名、技術、科学的根拠を保証するものではありません。


※また、取材の過程で入手した情報が一部反映されていますが、


※別の地名・時代・人物の話を複合的に盛り込んでおり、実際の出来事や法律と一致するものではありません。


※法律・植生・科学的事実について裏取りが出来ていないものを含む「創作」「ファンタジー」であることをご理解ください。


※偶然書いてあることが何かに一致しても真実だったり嘘であっても著者は一切責任を負いません。




<この回を終わって今日は終わりだあ。納会の準備すっぺー>

参った。どうするか。明日は家で朝からのデスクワーク。それに、本当は自分の山を最後に少し見たい。この流れなら、・・・”居る”。


「お師匠様。」

「どうした?」


”ああ、そういえば。”みたいなちょっとした間を置いて師匠が振り向く。

「明日の予定は大丈夫か」

さすがだ。話を切り出す前に察してくれた。

「心苦しいのですが、朝から約束がありまして。」

「しょうがねえぇな。」

しょうがねえぇ、とは言いながら、これが演技なのを僕は知っている。

お師匠様は、この猟友会にゲスト参加でありながら完全にベテラン勢として運営に一枚噛んでいるのは伊達じゃない。

”チーム運営の継続性を持たせるための人間関係やスケジュールの調整”を自然にこなせるのだ。

僕にも、事前に”ジジイと違って仕事もあるだろうから、そういう時は盾になってやる”と言ってくれているのだ。

今回は、拝みながらメイン盾となっていただこう。

「申し訳ありません。本来なら今期の反省を確実にすべきところですが」

「おう。」

お師匠様は振り向くと、

「すまんな会長。うちのは明日仕事があるようでよ。若いから勘弁してやってくれや」

「おうおう。良く働けよ」

会長も、さすが分かってらっしゃる。何十年も続く組織というのは、この辺の柔軟性が備わっていないと、やはりダメだろう。


「おいおい、お前が主役なのにけえっちまうのか」

竹野さんだけが水を差す。

「いやー竹ちゃん分かってんだろ。オカモトがいるとオババどもがよ、みーんなあっち向いちまうんだ」

「そりゃあ違えねえ」

「こんな色男連れて行っちゃあいかんべ」


だんだん下卑た話になる中、お師匠様が背中越しにジェスチャーでさっさと行けの合図。

たいしたお人だ。ほんと。


「今年度はほんとにありがとうござました!皆さんのお話が聞けず心残りですが、失礼します!!」

「おう。しっかり働くんだぞ。」

お師匠様の言葉を受け取り、東京へ、帰途に就く。

しかし、当然だけれど、その間でやることがある。






そう、領地防衛だ。


----------------------------------------------------------------


もう今日は誰も通らない。

確信を持ちながら林道を進む。

路面状況は控えめに言っても、夕暮れに通る時間ではない。

林道に入った時点で、すでに日の入り40分前と言ったところ。

ここが、鹿の帰宅ラッシュ、最後の勝負時。

幹線道路からの一個目のカーブでは何にも合わず、荒れに荒れた林道を、氷に怯えながら進んで、4つめのカーブ。

右には大きく突き出した尾根があり、頂上の広場のようなところでは何度も撃ったことがある。


いや、しかし居ない。当然だ。この尾根の日当たりがいいのは午前から昼なのだから。

残りの林道は3分の1。でもこの先で見た回数は全体の中で過半数だ。

慎重に行く。

うかつに止まれば行動不能になる雪氷道。時計を気にしながら撒いたチェーンが頼もしい。

そろそろ集中力も最高潮という所だけれど・・・。

挿絵(By みてみん)

エド「ご主人様、奴らです!」

「捕捉してる」

とは言っても場所が最悪。右前方から林道を横切って登る鹿に対して、車両停止見込みの場所から距離は30m程度で理想的でも、真下の路面が鏡面上の氷で、この場でブレーキを引くわけにはいかない。

まだ運転の方に集中力を割きながら、銃へ意識をわずかに移す。なんとか氷を抜けたところで正常停止。

なんとかドアを空け放って道路から離れなきゃいけない。


シカは1頭じゃなかった。先頭は厳しくても、最悪だって一頭、一発は間に合うはず。

最速で銃を取り出し、車両を飛び降り、合法な射撃地点を確保する。その時点で先頭が射程外。

3頭目を狙って引き金を引く。強くひき過ぎて射撃直前に銃口がわずかに下がる。

同時に、脳内の思考が加速して群れの規模と構成を追う。

先頭が年長だった。少なくとも2頭はメス。残り2頭は小さくて分からない。いや、うしろに小さいのがもう1頭。5頭だ。

<射撃音1>

あたりが揺れる。

弾丸は目標の上方10cm、左方5cmに逸れる。

リロードしながら「ちっ」舌打ちが零れる。


でもこれは強烈にツイてる。さすがの鹿でも、この急斜面、人間は四つん這いでも厳しい勾配。

5頭もいれば、最後の一頭くらい!!


不覚にもリロード時に上がりすぎた愛銃の銃口をもう一度下げ、肩口に付ける。

大丈夫、今度は正しい位置に構えたはずだ。


<射撃音2>

弾丸は正しく目標に向かうも、木の幹に阻まれてしまう。

苦い。「ここまでか」つぶやいてしまう。

エド「ご主人様!どうして仇が目の前に居るのに行っちゃ駄目なんですか!?

 バジルも!パセリも!奴らが!奴らが殺ったんですよ!!

 あんな奴ら、殺すしかないんです!!」

全力で吠えてる。檻で暴れながら。

「エド、待て。そこまでだ。僕らは無法者ではない。法にのっとって領地を守る狩人だ。

 復讐のために何でもして良いわけではない。」

エド「でも!!」

「武装解除の時間だ。お前を行かせて失うわけには行かない。」

エド「ご主人・・・。」

「済まない。だが、僕らには明日もあるんだ。君も、今日はもう3戦目だ。命にかかわる。」

エド「う゛あ゛あ゛あ゛ああああああああ」

日も落ちた。完全に暗くなると、さすがに走行が危ぶまれる。

残念だけど、わずかでも夕日が残るうちに帰るしかない。



----------------------------------------------------------------

「エド、ラスト10分でも追わせてあげれば良かったんじゃない?」

「このころは日没間際に獲物を追い始めると、泊まり確定だったんです。それどころか、1週間までは覚悟せよという風潮でした。」

「酷い物ね。GPSくらいあったのではなくて?」

「技術的には。しかし当時の実勢価格は安物でも20万円、自作で5万円程度でした。自作したものは試運転の最中でしたが…。」

「そうね。当時の市場に出回っている無資格使用が可能な通信装置には、要求水準を満たすものが無かった、と。」

「そうです。その上、霧、植生、地形条件(尾根等)によって届かせるのが難しい状況でした。」

「そこまで行くと、同情より、憐憫と言った方が良いかもしれないね。」


「そもそも、2発も外したのは距離に問題があったのかしら?距離は?」

目を潤ませながら「40メートルです。」

「当日使っていたレミントンM870スラッグ弾、40mの集弾性は?」

「その距離なら半径10cm以内です。私は」


「まさかこんなことが頻発していたの?」

「これが、狩猟の現実だったんです。」

「オカモトのね。まさか、ベテランでもこんなだったとは言わないよね?」

「はい。確かに、上手くやってる、または割り切って運用しているベテラン勢も居ました。

しかし、残念ながらこのチームではベテラン勢が運用していた猟犬たちにも問題があったんです。」

「続けて。」


「この時のチームの猟犬は和犬で、割と主人の聞き訳が良いと言っていい部類でした。」

「であれば問題ないのではなくて?」

「いえ、それが、もっと根本的なところに問題がありまして。」

「追え、戻れ、待て、のうち戻れが出来るのなら他も全て問題なさそうだけれど。」

「残念ながら・・・追えの命令は受け付けるのですが、正しく追うことは出来ませんでした。」

「つまり・・・そこでエド。」

「はい。エドだけが数km圏内の全追い出しが出来る犬で、他の犬は追う事の方が絶望的でした。」

「プロの仕事ではないのね。いえ、プロではないからこそ、なのかしら。」

「はい。勢力圏の候補地を巻狩りで一通りラウンドするには、とにかく戻りが良い方が、都合が良かったのです。」

「頭の痛くなる話ね。」

「これは関東東部のイノシシ犬チームではまるで逆で、ほとんどがエドと同類、つまり追ったまま簡単には戻って来ませんでした。」

「もはや、文化の違いと犬種の違いが一致していたけど、さすがに戻るだけの犬では狩にならないという状況ね。」

「そうですね。それと猟期に生まれて猟期外に鍛え損ねた犬というパターンもあったようです。」

「有害鳥獣駆除に入り損ねたり、使い損ねれば、自ずとそうなるわね。」

「お察しの通りでございます。お嬢様。」


「猟犬の情報装備とドローンで本当に変わったのね。・・・、狩りにいこっか。今の話を聞いていたら、私も猟欲を刺激されてしまったわ。」

「かしこまりました。お嬢様。作戦行動を開始しましょう」


-----------------------------------------------------


「本日の編成を紹介させていただきます。

猟師11番、お師匠様です。遊撃にあたります。進行役をお願いしています。

20番に田中さん、22番に相模さん、25番で村上君。彼らは基本的に固定位置のタツマです。

猟師100番は私が務めさせていただきます。今回は勢子長です。

機械化猟犬がエドのみ、田中さんのところのサブロー君もいます。

ドローンはファルコン1番機。ホーネット1~3と5番機です。

今回、お嬢様は前線拠点で情報統括をなさるということで伺っておりましたが、よろしかったでしょうか。」

「続けて」

「主な注意点としては、空中常駐指揮用ドローンがメンテナンス中で使えません。

そのため、ドローンは単独運用のローテーションになる想定です。通信ハブは私の車から伸ばしているアンテナ直結です。

地形上はおおむね問題なさそうです。比較的狭いですし、尾根上にいて、目立つ尾根は挟まないので。

タツマについては、銃へ直接の射撃管制が入っていないメンバーで、11番と20番がライフル、他はスラッグです。

命中率への期待は控えめでお願いします。」

「ベテラン勢の11番・20番のところに追い込むのが勝算が高いかしら。」

「そのように思われます。」

「事前偵察は?」

「ファルコン1の観測結果からは、山頂と低木地帯に居ないことが確認できています。

今回は10時開始というのがやはり時期的なシカ滞在場所と嚙み合わせが厳しいようですね。ファルコンは再充電を終え、出撃可能です。」

「地上は?」

「先ほど入ってきた情報では”12時間以内に入っている”と”出ている足はない”です。」

「雪の状態は?」

「100%カバー、新雪ですので、情報はおそらく合っています。」

「それでは始めましょう。本当の狩猟を。」



いかがでしょう?「猟師はせっかちなんですか?」への回答である猟期最終日編はこれでひと段落です。

猟の内容や中身はフィクションですが、なんとなく最終日で急いで何か所も回る急かされ感は伝わりましたでしょうか?


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燃料になって頑張れます!!

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