人鹿追う道お犬はどこへ
※本作品はフィクションです。
※実在の人物、団体、事件、地名、技術、科学的根拠を保証するものではありません。
※また、取材の過程で入手した情報が一部反映されていますが、
※別の地名・時代・人物の話を複合的に盛り込んでおり、実際の出来事や法律と一致するものではありません。
※法律・植生・科学的事実について裏取りが出来ていないものを含む「創作」「ファンタジー」であることをご理解ください。
※偶然書いてあることが何かに一致しても真実だったり嘘であっても著者は一切責任を負いません。
僕と師匠を乗せて、車がすいすい進む。
「会長も元気だよなぁ。あれで83だぞ?」
「凄いですよねぇ」
「冬は山に入って鉄砲を撃ち、春から秋は畑仕事。駐車場のまわり、あれ一面会長の奴だぞ」
感心しながら周りを見渡すと、いやいやいや、すいすい進んでないじゃないか。
林道に続く坂道に入ったころには、もう1速ですっかり遅くなっている。
「前の車の方がよかったなぁ?」
「いやほんとその節は」
「いいってことよ。けんどもエンジンだけ詰み替えられたらよかったやな」
「ええ。本当に。」
シカ猟期延長分の最後の日、ここでは雪解け直後の、年明けからまだ入っていない山を狙う。
途中の経由地で、作戦を確認する。
「今日はタツ2の勢子2しかおらんべ。けんどほら。」
そう言って会長が指し示した道端に、経過時間半日未満の鹿の足跡。
「入口の川はライフル持ちのワシ。そんで川島はいつもの遊撃。竹野は今日は勢子やんだろ?んで岡本はわんこと下れや。」
会長の指図で、大まかな配置が決まる。慣れた山での猟だから、歩きやすい道も、鹿が来やすい道も熟知している。
4人なら4人なり、という動きに。
この回はまだ僕が慣れていない狩場を使うことになったので、運転は師匠。
「俺は例によってぐるっと回る。竹野どんについてっていう事聞いたらええ。」
「分かりました。竹野さん、よろしくお願いします。」
「この前はすぐ離しとったけどなぁ、犬は追わせたいアトまで引っ張って行かにゃあならん。言うまで離すなよ。」
「・・・気を付けます。」
これはフラグだなと思い、一瞬口ごもってしまう。
こういうとき、絶対フラグですよね、と言えないのが猟友会の辛いところ。
尾根筋を通るコンクリの綺麗な作業用道路から降りると、斜面に氷はなく、基本的には多少の雪と雪解けのドロドロ。
凍結交じりの危なさを何度か体験した後だと、まだ、マシという状況。
幸い、お決まりの道があるらしく、獣道をたどると緩やかでまばらな樹木が捕まらせてくれて簡単。
「んーじゃ俺はこの獣道を辿る。お前はエド追っかけろや。」
竹野さんの指示に従って、エドを行かせ、ついていく事にする。
解放された喜びで走り回るエド。
足跡と糞を見つけて尻尾フリフリ。
でも鳴くまでは行かない・・・。
と思うと、一気に走り出す。
困ったことに、短足のエドにすら雪山では全くかなわない。あっという間にロスト。
<竹野さん、エド、視界の外です。鳴いていません。>
<またかよ、しょうがねぇな。追いかけろや。>
<ほんとすみません。了解。>
谷を三つ越え、あからさまにシカの痕跡の密度の高い獣道を見つけて辿り始めたことで、一鳴き聞こえる。
<鳴きました。>
<どっちだ>
<竹野さんの逆です。>
<そうか。おい、川島、どうだ。>
<中腹、入れたところから右、残念ながら、俺はもう下だ。>
師匠とは入れ違いになってしまったらしい。
<会長、川島はそのままタツにしていいか>
竹野さんからの確認に、応答が返って来ない。
待機場所は明らかに何の危険もないし、会長は基本待ちの一点張り。
つまり・・・。
ドオオォォォゥゥゥンンンンン
いつものライフル音が響く。
<悪ぃ。外した。川島、そっち行くかもしんねぇ。>
<了解>
どうやら、エドが騒いだことでシカが出たらしい。
巻狩り的には悪くない展開だけど、今の形勢は良くない。
全頭、布陣の外じゃないか。
案の定、15分程の間に、僕がエド方面の中腹からタツ待機場所の師匠を視認。竹野さんが会長と合流。
<お開きだ。イヌ捕まえたか。>
会長はもう、次に行くつもり。やっぱり猟師はせっかちだ。
<いえ。僕一人で待ちましょうか。>
<そうさな。俺と竹野、川島で次だ。>
<おう、運転で疲れたろ。車で休んで、のんびり待っててええぞ。>
師匠の言葉に甘えて、車に戻って休憩になる。年長の3人は会長の軽バンに乗って流し撃ちになるかな。
もう一度、エドを呼び、反応がないことを確認して、車の窓を開けてときどき呼びかけながら昼寝。
今頃思う存分走っているに違いない。
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「戻らない子って、大変ね。車の事故や猪との遭遇、見当違いの山へどんどん行く可能性もあるもの。」
「いえ、当時のエドも、そこまで酷くはないんですよ。狩モード開始からしばらく話聞かないだけで、数時間で必ずこっちを探しながら戻りますし。」
「でも、ツール開発の理由に十分な困り振りね。」
そういいながら前髪を払った彼女に、ため息交じりに応える。
「おっしゃる通りです。お嬢様。」
そう、結局のところエドを鍛え切って指示一つで戻る猟犬にすることが僕にはできなかったというのは、
猟師生活の中で何度かあった大きな敗北の中でも、特別重要な一つだった。
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アクセスが少ないなーと思って見てみたら、ブックマークが無さ過ぎてジャンル別ランキングの最下位にすら載ってないという事実に気づきました。
ちょっと切ないので、続きを読んでもいいなーと思った方はブックマークいただけると嬉しいです・・・
補足 合法GPS首輪等が入手できなかった頃の時代感覚です。
さすがに今の装備だとこの展開で猟犬使いが車で待機というのは現実味がないです。
とはいえ、遠征ハンターの体力は常に厳しい状況にあり、早朝に数時間も犬と歩き回ると限界がきて小休止を挟みたくなるのもまた悲しい事実。




