それはほんとうの、はじまり (第20話)ブレインストーム
「じゃ、課題票を例に、対策案を出してみましょう。オカモト。説明を。」
「かしこまりました。鷹士君、コンサルとか意識高い系で出てくる、ブレインストーミングはわかるかな?」
「付箋でアイディア貼る奴ですよね」
「そうそう。何かのテーマについて思いついたのをガンガン付箋に書く、発表する。
で、便乗して似たような派生アイディアを出してもよい。
ただし、結論に向かうんじゃなくて、あくまでいろんなアイディアをめちゃくちゃに出させる。
その辺がストーム(嵐)な感じなんだ。
あまり意識せず進めると、だいたい出てきた意見の批判や、結論に向かった収束を起こしがちなんだけど
ブレインストーミングでは敢えて発想を広げるため、収束や結論は避ける。できるだけ多様性と量を充実させていく」
「わかりました。今回の課題票は獲物検知の遅れとそのあとの失中でしたね。」
No.1
(1)日時:前回巻き狩り 8時42分
(2)タイトル:課題票 獲物検知遅れ
(3)遭遇者:相模
(4)ポジション:射手
(5)座標:D-2
(6)ラウンド内のタイミング:追い出し後(追加出没)
(7)課題・問題発声概況:熊の接近に気づくのが遅れた
(8)影響:対応の遅れと混乱により、軽傷
(9)危険度・深刻性:非常に危険(その後の展開次第で死の危険、大けがの可能性あり)
(10)危険に至った要素:別事象への注意が向かっていた。疲労。手近な目標達成による弛緩。(要追記)
(11)是正案または代替プラン:(後日の議題)
「そうだね。じゃあ悪いけど先に鷹士君からとりあえず10個くらい対策や改善案を出してみようか」
「はい。では
1.ラウンド終了まで回収と解体は我慢する
2.ドローンで先に見つける
3.犬を敢えて止めずに探させる
4.二人一組で見張りを立てる
5.自動カメラを増やして見つけさせる
6.経路を絞らず全部の射手に向かうパターンを例示する
7.索敵練習をもっとする
8.近づいてこないようにむしろ音を立てる
9.見つけるの遅れても撃てるようにもっと練習
10.当てやすい弾に変える」
「お。結構出尽くした感あって後攻の僕にはハードル高いね。」
オカモトは多少うろたえているようだが、
「本来は同時に1分程度付箋書きの時間を作るのが一般的だけれど、オカモトはわかってて後攻なのだから、それなりに出せるはずちよね?」
「では、僭越ながら。
11.当てやすい鉄砲に変える。便乗してみた案です!
12.開始前に広くセンサーネットワークで囲んで、事前見積もりを出し、危険があれば開始しない。これもやや便乗
13.見つけやすい位置、撃ちやすい位置、撃ちやすい角度での待機を徹底する
14.簡易構築物で突進されても大丈夫にする
15.ガンカメラ、ヘッドカメラ、マイクで本人以外にAIサポート索敵する
16.上記カメラとマイクを犬にもつける
17.環境DNAで事前に生息動物のあたりを付ける
18.事前の調査で居そうな獲物をもっと絞り込む
19.事前の調査でもっといそうな場所を絞り込む
20.探索時に索敵範囲の網羅度合いと潜伏確率をリアルタイムに把握する
21.銃以外のサブウェポン的な何か、特に射手本人以外が操作できるものでバックアップする
あ、突然詰まった!この辺が今思いついたものです」
「15はどういう内容かしら?」
「今回の話では射手の獲物検知能力、警戒度合いが問題になったので、その二つを外部化・自動化できたら面白いかと思いました。
常にカメラとマイクが使えれば、AIでも遠隔サポーターでもよいので何かしらサポートできるかもしれません。」
「じゃあ、そこから派生させてもう1アイディア出して。」
リーゼは淡々としたものだ。
一方のオカモトはかなり唸っている。
「派生・・・かは微妙なところですが・・・
22.AIに類似事例を挙げさせられないでしょうか。
潜在的故障の初期兆候を検知する工場系の仕組みがあったと思います。」
「うん。悪くない。鷹士君、今のオカモトとのやり取りの間に思いついたものを出して。」
「あまり元のアイディアと変わらないですが、
23.ドローンのカメラ及びマイク性能向上
24.ドローン、着陸後もセンサーカメラとして稼働
25.センサーネットワークに関連して、ドローンからのプローブ投下
26.対岸からの広角望遠カメラ
27.柵による侵入阻止
28.柵による侵入経路操作」
29.衛星写真による事前チェック
・・・29は解像度が厳しいでしょうか」
「大丈夫だよ。ブレインストームだから。沢山出せて偉いね。さすがドローンマン。」
よかったぁ、と鷹士が安堵の息。
「じゃあ、オカモト、さらに追加」
やや虚を突かれるオカモト。"これは終わった"という慢心があったようだ。
「人の追加はもう出たし・・・
30.人の追加
31.ドローンの追加
32.移動経路制限のための草刈り
33.逆襲による危険地帯を作らないような罠追加
34.即時展開可能な罠や網
あと・・・唐突なんだけど、
35.領地防衛・巡回ロボ」
だんだん発言のペースが遅くなってきたオカモトだったが、それなりの数はでたのでリーゼは満足したようだ。
「よし、荒唐無稽なのも含めてそれなりに発散したね、
やっぱり、このメンバーだと元々言いやすいのもあって
固定観念に捕らわれている度合いは老人多数の時よりは低いって見ても良いかな。
うん。二人の顔色も、そろそろ第一弾を閉めて良さそうね。」
ブレインストーミングという手法は、第二次世界大戦の前に、アメリカで使われ始めていたらしい。
当初は広告代理店の社員が行っていたのだとか。
日本ではコンサルティング等の際に依頼元である事業主体、端的に言えばコンサルに応援してもらいたがっている会社
で、通常の業務から切り離すとか、いつもと違うメンバーを集めるだとかしてアイディア出しをさせるのに使われてきたようだ。
発想の制約が少ない人や普段から視野の広い人間からすれば、一見、おままごとの次元にも取れる、
至極単純なツールだが、定常業務に最適化されすぎて思考停止と固定観念に汚染され切った現場では
ブレインストーミングという契機で、自由闊達議論を行う舞台装置に登場人物として組み込まれることで
案外、現場からは多様なアイディアが出てくるものだ。
それこそ、なぜ今まで言わなかったのか!と上司が不満を持つ程に。
しかし、今まで言わなかったのもまた、最適行動なのだ。
こと、提案に対する批判ばかりで成果を得るのが難しく、さらには成果は報酬で報われない組織であるならば。
それは権威主義的な社会での上申の難しさでもあり
定型業務化と効率化の権化である大量生産型の工場労働の美しい、無駄なき精勤でもあり
非正規労働と受け入れ側の事なかれ主義的本業からの責任逃れでもあり
100年単位の澱であり、檻でもあるのかもしれない。
そう、恐ろしいことに年齢の壁を越えてそれぞれの世代に当然のように存在する。老害等と侮れない。
社会科学分野、特に心理学の他分野への応用、武装としての現実社会への投入、実証や運用としても
固定観念の排除が必要、舞台装置によって克服する、等というのはカビが生えた話題だといっていいはずだ。
しかし、実際のコミュニケーションのレベルがそれ以前であって、
あまつさえ予断や偏見の存在自体にさえ盲目になっているとすれば、現代の社会問題どころか近代以前にまで後退している。
捕獲事業においては銃・無線・自動車・紙の契約という第二次世界大戦レベルの科学技術で止まっているどころか
コミュニケーションが近世や中世にあり、契約すら守れないとあっては、獣害対策どころではない。
さすがにそれでは悲惨すぎる。
大前提としてあらゆる場面において現代日本を敗戦以降で語っている以上、
せめてインターネットを駆使する現代人として、公開されている一般技術を集めて先進的ではないまでも現代的な狩猟を行いたいところである。そんな思いが、オカモトを動かしていた。




