それはほんとうの、はじまり (第19話)課題票
「はあぁ。参ったなぁ」
つい、ぼやきが入ってしまう。
「すみません、肝心な時に」
「いいやぁ、鷹士君は悪くないさ。あの状況に陥ったのは僕が色々制約条件を付けたせいなんだから・・・」
「そんなことないですよ。自分だってもっとやれることがあったはずなんです」
このやり取り、3回目である。
空挺降下猟犬、初陣から一日挟んだ火曜の夜9時、オンラインミーティングで反省会をしようと呼び掛けていたが
本山「9時ならわしゃもう寝とる」
川島「若いもんで頑張れ」
相模「すみません、ちょっとバタバタしていて」
村上(未読スルー)
オンラインミーティングに集まったのはリーゼ、鷹士、オカモトの3名だけ。
それどころか、オカモト邸の工房に3人とも集まっているのでオンラインですらなくなっていた。
リーゼの顔にも"こんな調子だからいつまで経っても児戯。日本の衰退も当然ね。"と書いてある。
さすがにいつもリーゼの顔色を見ることに血道をあげているオカモトはそれを見て更に参ってしまい、溜息。
「鷹士君。技術屋をやっているとね、一定以上の守備範囲と経験を積んでくると、自然、ミーティングや事業全体を活性化することの効果が大きくなり、自然と一番有能な人は司会進行で潤滑剤になるように言われがちなんだ。そうした司会進行により議論を活性化させる役をファシリテーターと言うんだけれど、ファシリテーターは自分の意見を押し付けたり、議論の誘導をしちゃいけないんだ。司会が誘導するとせっかく人を集めて時間にコミットさせたのに意見や発想の活性化を妨げるからね。」
「は、はぁ?」
「だからね、この場で司会とメインスピーカーとチーフエンジニアと総指揮が全部僕になったら、議論を戦わせる前から無様な敗残兵なんだ。」
こんなことを言われても、鷹士だって困る。
鷹士はドローンの整備と操縦、運用プランの立案を主に行っているが、別に猟の専門家でなければ、プロジェクト運営など陰キャの自分には無縁だ、というスタンス。狩猟や捕獲事業にしても、オカモトから基礎知識の説明を受けて図上演習をした程度で、全く話題についていけない。
「オカモト、全く通じてない。しっかりして。そもそも、来ていない四人は机上の戦いにはついて来られない。司会ができないならどうするか、仮にも総指揮だったのだから責任を取りなさい。」
当日は勢子長ということで現地での決断はオカモトの役目だったのであり、至極まっとうな指摘。
子供に諭される大人。しかも涙目で縋るようにリーゼを見つめているがこれ以上の助け舟が来るはずもなく、オカモト立つ瀬無し。
「はあ。ほんと仕様のない凡骨。司会進行は私が一度引き取ります。オカモト、時系列を遡りながらハンターたちの行動から問題抽出。鷹士は部外者、素人目線と、それをサポートする装備面から解決策。相模負傷時点から。はじめ!」
リーゼのジト目から始まるしきりと号令に、オカモトの丸まった背もぴしゃりと伸びる。
技術畑の3人しかいないので、普段よりやや辛辣だ。
「最終局面、相模さんが作業中の地点の一段下の広めの段から熊近づいてきたそうです。
エドは捕獲個体を噛まないように幹にリードを括り付けずみ。相模さんは銃をすぐそばに置いてナイフで血抜き作業中。
残念なことに我々との無線に気を取られている最中にエドが先に熊の接近を感知、
相模さんは熊の接近には気づかなかったもののエドの様子がおかしくなったことには気づき、慌てて銃を手に取ったそうです。
エドの異変に気付いた流れで左回りから熊の進行方向側から熊に照準を近づけていく形になるも、
引き金を引くのが遅れて第一射を失中。概ね胴に重ねて撃ったつもりだったとの事ですが、弾着は熊より後ろ。
慌てて全力で熊の進行方向へ照準を戻しながら第二射。これも胴体に照準が合うぐらいだったとのことですが、
当然弾着は熊より後ろ。幸いにして熊は二発の発射音に驚いたか、吠え始めたエドを意識したのやや下り側に進路を逸らし、
相良さんがいた尾根をやや下側に突っ切り北方面に消えていったとのこと。
3発目は逃げる背に一発撃ちこむも照準が甘く普通にハズレ。
最期は逃走経路の報告を裏付けるようにC16のセンサーカメラが検知。
そして、最後の一発を撃ったあと、ポケットから再装填しようとしたとき、解体時の返り血のせいか手を滑らせてしまい、
未使用の実弾を落としそうになり、なんとかキャッチするも体制を崩して軽く転んでしまい、
うっかりよくない形で左手をついて腕をひねってしまったとのこと。骨には小さなひびが入っていたそうですが、湿布だけ付けて安静にしていれば日常生活には問題ないそうです。」
「問題点・・・というより、もっとやりようがありそうなところは?鷹士から。」
「熊への射撃でしょうか。近距離で三発外しています」
「次にオカモト」
「熊遭遇前の状況把握がずれてましたよね。通信時の反応からも、完全に終わった気で血抜きや運搬の事考えてましたし。抽象的な抽出をするなら、多少精神論的聞こえ方になるかもしれませんが、相模さんはあきらかに警戒に向けるべき集中力を欠いていたので、可能な対策があれば、した方が良かったのかもしれません。」
オカモトの口ぶりはどうも歯切れが悪い。言い過ぎれば角が立つ半趣味半ボランティア半事業の絶妙な人間関係の中では反省会も行い辛い。その中を生き延びてきたなりの配慮というのが、逆にその制約を外されたとき思考の障壁として介入してくるイメージだろうか。




