それはほんとうの、はじまり (第16話)不可識
<おい23番(相模)。お前もだ。わかってるか。>
<え。こっちですか?>
<東に来ていないということは・・・?まさか!23番(相模)。注意してください!!>
ドローン回収と猟犬回収、捕獲個体対応で頭が占められていた相模も、
リーゼ・川島・村上ラインの危険にフォーカスしていたオカモトも、
完全に熊か何かが東へ直登する思考に染まっていた。
最初に注意を喚起したリーゼは当然それを見据えた役回りだ。
走って撃って心拍数が上がっていては視野を広く保ち的確な判断を下すハードルは当然上がる。
一方で、メンバーや設備から上がって来る情報だけでは山の気配やセンサーが向けられていない異常を感知することは極めて困難だ。現場で判断をするオカモト、情報の統合と助言を行うリーゼ、一歩引いて指揮系統をサポートする川島・本山という布陣は誰かの判断力が低下するシチュエーションを織り込んだ布陣だ。
ドン!ドン!
ドン!
早速銃声が響く。この状況なら相模か、川島だろう。
<ドローン回して!あ!!あああダメだ電池いいいいい>
残念ながら、空中に飛ばせる電池の容量は重量のせいもありかなり厳しいのだ。
肝心な時に動けないことはよくある。
そして、電池の積み替えのできる都合のいい状況を毎回設定できるとは限らない。
<17番落ち着いて。移動しながら23番(相模)の報告聞くのを最優先、>
残念ながら予備機もなく、発砲者本人の報告を待つしかない。
(結局こうなるのだから、全員にカメラ、バイタルモニタまでつけてしまえばいいのに)
リーゼにしてみれば、なぜ縛りプレイをしているのかわからない。
「残念ながら、私たちが向き合っているのは装置のテクノロジーではなく、生身の人間のスキルですから。そこに存在する人間を受け入れて、ベストを尽くすしかないですよ」
オカモトの現状追認ともとれる発言を聞いたときは、日本という国の後進性、捕獲事業の非合理性の絶望的閉塞感に呆れていた。
とはいえ、IT装備がアマチュア無線だけだったところから、オカモトが今日指揮している猟隊は大分前進しているのも事実だった。
(私なら、こんなチームは組まないし、とても出猟などできないのだけれど。)
しかし、少子高齢化も、IT音痴も、獣害に押し込まれて消えていく集落も、現実なのだ。
(オカモトは、ここで戦っているんだ)
リーゼには共感できない帰属意識が、オカモトにそうさせるのだろうか。
リーゼに尽くしたいと言っていた彼の、完全に的外れな暗中模索は、妙に真面目な道化なのか、ある種の信仰に基づく修行なのか、エキゾチックかもしれない、と不思議な感慨があった。




