それはほんとうの、はじまり (第15話)進行方向
<17番、どうしたの!?バイタル凄いことになってる>
<ザザッお静蟹!2番 (川島) ザー24番(村上)は底大気!ザザザー本とは>
<あー電波切れたか?>
昔ながらのアマチュア無線やラジオ放送を聞きながら山中を自動車で移動しているとよくあることだが、
電波が届くかどうかの境目付近ではノイズが酷く、内容を聞き取るのが困難なことがある。
<すみません。100番(鷹士)です。ドローン、バッテリー限界、慌てて下ろしているところでした。23番(相模)さんの傍です。>
今回のチームでは空中でドローンが中継していたため、これまで接続が安定していたが、中継器が着陸してしまったことで情況が変わってしまったようだ。
<100番(鷹士)、電池切れは了解。23番(相模)、見えそうですか?>
<すまないが、僕からは見えませんね。犬2号もいて応援が欲しいです。>
ドローンを降下させたい場所
獲物が通りやすい場所
見渡しの良い射撃ポイント
全て相模のいる尾根に集中してしまった形だ。
もっとも、川島やオカモトにしてみればここにいるのが村上や本山ではないのは僥倖であり、
それを見越しての配置でもある。
特殊な装備の回収、捕獲個体の記録やそのあとの回収または埋設、どれも全くのIT音痴や手際の悪い初心者には荷が重い。
<23番(相模)了解!でもいまはすみません!2番 (川島) と24番(村上)は見渡しの良いいところで待機お願いします。倒れたシカめがけて黒いのが来るかもです!>
存外、本当に危険な位置にいる人間に限って油断しているもので、今回の村上のように直前のトラブル(今回で言えば罠にかかったシカに関する混乱)から覚めて放心気味のところを熊に襲われてまともに迎撃できず死ぬ、等ということも起きるものだ。
とはいえ、他の人間に出来ることなど、熊の圧倒的移動速度の前にはせいぜい注意喚起の無線を入れる程度だ。
<17番、通り過ぎようとしていない?>
<いえ、私の針路は99番です!目を引かないように静かにお願いします!>
村上を川島に任せ、オカモトはリーゼの方に向かう方針のようだ。
先ほどのノイズが乗ったお静蟹はリーゼへの呼びかけだったらしい。
<いやー来ねーだろ。さすがに。だが、弾は込めとくか。いいな、24番(村上)?「はい!」よーし>
<5番(本山会長)だ。撃ったところに血は無かった。足は谷沿いに上だ。上ったとこの奴らは気をつけろよ。>
(方位も言ってほしい!東ですよね!?)
図上ピンクの線あたりを示しているのだろう。リーゼが作戦図に矢印を書き込む。
<5番(本山会長)、開拓地の畑方向に何か向かったということでよいでしょうか>
<おうよ>
<17番。スピードよりも息を整えることを優先して。熊が本気になったなら追い付けないし、見つけてもぶれてちゃあたらないよ。私は大丈夫だから。>
<(ハァ、ゼェ、ヒューィ、スゥ。)でもっ!ハァッハア。でも!>
<もう。仕方ないなぁ。大人しく待っててあげるから。しっかりして。>
<りょ、りょう了解>
実際のところ、状況把握や対応策の妥当性というのは様々な物理的、社会的、精神的ノイズにより、限定された激しい場面展開の中では必ずしも機能せず、最悪、未観測の脅威により視界の外からぶん殴られるのが、現実だ。
少なくとも、オカモトは山中での活動、捕獲に関わる中でそのような具体的被害損害、悲劇を見てきた。
大切なものを守るために、身を削ってでも駆け付け、盾になる。それくらいしかできないのだ。
<ヒューヒューお熱いねえ。悪いんだが馬に蹴られるようなこと言うぞ>
(え。)
<こりゃーオレを畑の横につけいてんだから嬢ちゃんの方突っ切れねえだろ>
位置関係的に、村上・川島に遭遇しないようなら、畑に突っ込むか、防獣柵を避けて南に回ってくれそうな経路が思い浮かぶ配置だ。
「あ。」(オカモト)
瞬時にそれを思いつかない程度には、山登りの身体的負荷と捕獲活動に関わるプレッシャーが彼の頭の回転を悪くしていた。
<2番(川島)。人が悪いぞ>
<そうは言うがな5番(本山会長)。命がかかってるしこればっかりはな。まあ、嬢ちゃん、帰ったら慰めてやってくれや。>
<99番了解。>
<お嬢様!そこは了解しないでええええ!!>(涙声)
膝をつき銃を握ったまま停止するオカモト。オカモトをやや引きながら前を走っているのによくわからないまま突然停止され混乱するアラン。
<17番、気づいてる?まずいよ。>
「おや?」
そう、こうして話しているということは村上・川島方面に危険は近づいていないのだ。
備えている場所に危険が及ばなかったのなら、他を警戒せねばならない。




