品評会と買い物③
俺はゴホンと咳払いをして体勢を立て直すと、小さく縮こまっているオリヴィアの方へと視線を向けた。そして、耳の先をほんのり赤くしながら、威厳を保ちつつも照れくさそうに言葉を絞り出した。
「……どれも、非常によく似合っている」
「……っ!?」
その言葉を聞いた瞬間、オリヴィアの胸の中で何かが大きく跳ね跳ねた。
(えっ……? に、似合わないから『次』じゃなくて……どれも完璧だったから……!?)
今まで「自分は父に失望された」と思い詰めていた分、その衝撃と嬉しさは爆発的なものだった。冷酷に見える父親の瞳の奥に込められたまっすぐな称賛を感じ取り、オリヴィアの頬はぽっと朱に染まる。両手を胸の前でギュッと握りしめ、パッと輝かせた翡翠色の瞳には、あふれんばかりの歓喜と喜びが満ちていた。
一切の感情を読ませない無表情のまま、俺は静かに立ち上がり、商人たちへ威圧感を込めて言い放った。
「……これと、これ以外。全部だ」
「「「え……?」」」
大広間全体の時が止まった。商人たちも、マリアも、そして「どれも似合わない」と諦めかけていたオリヴィアすらもぽかんと口を開けて固まっている。
(言ってみたかったやつ!! 大金持ちみたいに『それ以外全部買おう』!! これで毎日違う可愛すぎるオリヴィアが見られるぞ!!)
俺は混乱する商人たちを冷徹な眼光で見下ろし、低く命じた。
「来週までにすべて仕立てろ。……一着でも遅れれば、どうなるか分かっているな?」
「「ひぃぃぃぃっ!! か、畏まりましたぁぁぁ!!」」
悲鳴を上げながら平伏する商人たち。 そんな中で、念を押すようにカーマインが呆れたように肩をすくめた。
「ちょっと、念のために言っておくけれど、奢りは『私の店』の衣装だけだからね!?」
「……ふん、構わん。この中で一番の店はお前の店だ」
淡々と、しかし当然のように告げた俺の言葉に、カーマインは目を丸くして固まった。
「……っ! あら……」
まさかあの偏屈で冷酷なレインから、デザイナーとしてこれ以上ない絶賛の言葉が出るとは思っていなかったのだろう。カーマインは一瞬だけ驚きに目を見開いた後、扇子で口元を隠しながら、今日一番の嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ふふっ……言うじゃないの。いいわ、王都一番のデザイナーの名にかけて、最高のドレスに仕立て上げて見せるわ!」
カリスマあふれるカーマインの頼もしすぎる背中に、先ほどまで「処刑されるのではないか」と怯えていた他の仕立屋たちは熱い涙を流し、まるで救世主でも仰ぐかのように一斉にひれ伏した。
「カーマイン様……っ! 一生ついていきます……っ!!」 「全員命拾いしたんだ……! あのお方は僕たち仕立屋の救世主……いや…神なんだ!」
「あらあら、この子達は何を言ってるのかしらねぇ? まぁ、私が神のように神々しいのは百も承知だけれど?」
フフッと扇子を鳴らしながら優越感たっぷりに呟くカーマインの姿に、商人たちはさらに崇めるように頭を擦り付けている。
(勝った……!! これで毎朝最高に可愛いオリヴィアを拝める……ッ! サンキューカーマイン、持つべきものは頼れるオカマ友だな!!)
と心の中でガッツポーズを決める俺だった。
……そのとき、ふとカーマインが扇子の陰から、こちらをチラリと見て不敵に微笑んだ気がした。
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