帝国の歴史
内心でそんな補足をしつつ、レインはオリヴィアに向かって問いかけた。
「オリヴィア、お前は皇帝と四大公爵家の成り立ちや関係を知っているか?」
「いえ……知りません」
「マリアは分かるか?」
指名されたマリアは、すっと背筋を伸ばして答えた。
「はい。初代皇帝陛下とともに、この帝国を築き上げた偉大な4つの名家……とお聞きしております」
「ふむ、大体はあっているが、それではいささか大雑把すぎるな」
レインはオリヴィアを膝の上に抱き上げ、優しく頭を撫でながら静かに語り始めた。
「帝国ができる前、今からはるか昔の出来事だ。……少し長い話になるが、聞くか?」
「聞きますっ!」
「私もぜひお聞きしたいです、公爵様」
目を輝かせる二人を確かめ、レインは昔話を聞かせるように言葉を紡いだ。
「かつてこの大陸には、一匹のあまりにも凶悪なドラゴンが存在した。その龍は『厄災』や『魔王』と称され、恐れられていたのだ。その名に違わず、ドラゴンは数え切れないほどの国を滅ぼし、犠牲となった者の数は世界を埋め尽くすほどだったという」
オリヴィアとマリアはゴクリと唾を飲み込み、レインの言葉に耳を澄ませる。
「そこで立ち上がったのが、一人の勇者と、その四人の仲間たちだった。他の国々もドラゴンを討伐すべく立ち上がり、多くの戦士が戦いに参加した。そして、いま我々が住んでいるこの帝国の地こそが、ドラゴンとの最終決戦の場となったのだ」
「決戦の場……!」
「ああ。あまりに凄惨な戦いだった。多くの犠牲を払い、死闘の末に勇者はドラゴンの尻尾を切り落とすことに成功した。しかし……それでもなおドラゴンは強大で、完全に滅ぼすことは不可能だと判断された。そのため、勇者たちは総力を挙げてドラゴンを封印したのだ」
「封印……」
「そうだ。こうして世界に束の間の平和が訪れた。戦いを生き抜いた勇者と四人の仲間は、決戦の地であったこの場所に、共に新たな国を建国した。勇者は初代皇帝となり、共に戦った四人の仲間たちは『四大公爵家』となった。これこそが、皇帝と四大公爵家の真の繋がりなのだよ」
話を聞き終えたオリヴィアは、感無量といった様子で目を丸くした。
「すごすぎます……! なんだか絵本の中のお話みたいで感動しました……!」
「私も、四大公爵家にそのような壮大な歴史があったなんて……心から驚きました」
深く感心する二人を見て、レインはフッとミステリアスな笑みを浮かべた。
「だがな……この話には、まだ続きがある」
「続き、ですか……?」
「ああ。……もしも将来、またあのドラゴン のような恐ろしい怪物が現れたら、この世界はどうなると思う?」
レインの問いかけに、オリヴィアは少し考えてから真剣な表情で答えた。
「……世界が、崩壊しちゃいます」
「そうだ。二度とあの悲劇を繰り返さぬため、世界を守る強き者を育てる必要があった。……そのために作られたのが『王立学園』なのだよ」
「王立学園が……! そんな深い理由でつくられていたなんて、知りませんでした……!」
オリヴィアが驚きの声をあげると、マリアも深く感服したように胸に手を当てた。
「そこまで見据えられて作られていたとは……公爵様のお見識の深さには、いつも感服させられます」
(まあ、これも全部原作小説の『設定資料』に書いてあった知識なんだがな!)と内心でドヤ顔を決めつつ、レインは温かい手でオリヴィアの頭を撫で続けた。
「だからこそオリヴィア、お前が学園で学ぶことには大きな意味がある。焦らず、一歩ずつ強くなっていけばいい」
「はいっ、お父様! 私、お父様やみんなを守れるくらい、いっぱいお勉強して頑張ります!」
悲しみと不安は完全に吹き飛び、オリヴィアの瞳には未来への希望とやる気がみなぎっていた。その愛らしい決意を前に、レインの脳内では再び「可愛すぎる!! 天使!!」の大爆発が巻き起こっていたのであった。




