平和な日常①
爽やかな秋晴れの日、約束通りレイン、オリヴィア、マリアの三人は王都へと繰り出していた。
目的地は、連日大繁盛を極めているカーマインの高級ドレスショップだ。店内に入るや否や、絢爛豪華なドレスの数々と、ノリノリなカーマインによる『オリヴィアお着せ替えショー』が開幕した。
「見て頂戴レイン! このシルクのドレス、オリヴィアちゃんの愛らしさを引き立てて最高でしょう!?」
「あ、あの……お父様、変ではありませんか……?」
可憐なドレスに身を包み、恥ずかしそうに裾をつまむオリヴィア。その瞬間、レインの脳内は木っ端微塵に大爆発を起こした。
(っっっっっっっっっ天使!!! 天使降臨!! 尊さの過剰摂取で心停止するわ!! なんだその破壊力は!? 似合いすぎている!! どのドレスも天才的な可愛さだ!! カーマイン、店にあるオリヴィアに合いそうな服、全色全種類買い占める!! 国庫が傾こうが知ったことか!!)
「……悪くない。店にあるものは全て買い取ろう」
「ええっ!? お父様、そんなにたくさん……!」
「あらぁ! 毎度あり~!」
表面上はクールに即決し、爆買いを敢行したレイン。その後、大満足(脳内)のまま一行は王都の隠れ家レストランへと足を運んだ。
重厚な革張りのメニューを開いたオリヴィアは、ずらりと並ぶ絶品料理の写真や名前に目を輝かせた。しかし、あまりの種類の多さに次第に眉をひそめ始める。
「う〜ん……どれも美味しそうで、どれにしたらいいか分からないです……」
「……好きなものを頼めばいい」
レインが静かに告げるが、オリヴィアは「でも……」とウンウン唸って悩み続けている。そこへ、隣に座るマリアが優しく声をかけた。
「オリヴィア様、どれとどれで迷っていらっしゃいますか?」
「えっとね……このグラタンと、オムライスで迷っていて……」
「でしたら、私がグラタンを頼みます! オリヴィア様はオムライスにしてください。出来上がったら半分こしましょう!」
「……! ホント!? うんっ!」
パッと顔を輝かせたオリヴィアは、嬉しそうにマリアに抱きついた。その愛らしいやり取りに目を細めつつ、レインも適当な肉料理を注文し、やがてテーブルにはできたての絶品料理が並んだ。
「美味しそう……! いただきます!」
オリヴィアは小さく手を合わせると、勢いよくオムライスを口に運ぶ。
「あちっ……! あつ、あついです……っ」
「む……」
出来立ての熱さにハフハフと口を動かす娘を見て、レインは手元のコップを手に取った。スッと指先をかざすと、微かな冷気が走り、水の中にカランと綺麗な氷の結晶が浮かび上がる。
「飲め」
「あ……ありがとうございます!」
差し出された冷たい水をゴクゴクと飲んだオリヴィアは、感銘を受けたように目を丸くした。
「すごい……! お父様、今お水の中に氷を作ったのですか!?」
「あ、私も初めて拝見しました……! 公爵様の魔法、なんてお美しい……!」
オリヴィアだけでなくマリアまで感動の声をあげる。レインは素っ気なく「大したことではない」と応じたが、内心では褒められて鼻高々であった。
食事が進むにつれ、オリヴィアの視線がチラチラとマリアの皿へと向かい始めた。それに気づいたマリアは微笑み、スプーンですくってオリヴィアの口元へと運ぶ。
「お嬢様、あーんしてください」
「ん……! あむ……美味しい! マリア、これすごく美味しいよ!」
無邪気に喜ぶ娘の姿を静かに見守っていたレインだったが、突然オリヴィアが自分のオムライスをスプーンですくうと、レインに向かって身を乗り出してきた。
「お父様も、あーんしてください!」
「……っ!?」
激震が走った。レインの脳内はパニック状態に陥る。
(あ、あーん!? 俺に!? 天使からの直食いプレゼント!? 落ち着けレイン! 呼吸を忘れるな! ここで失神したら父親としての威厳が失墜する!!)
「……ふむ」
限界までポーカーフェイスを装い、レインは差し出されたスプーンを一口で含んだ。
「……美味いな」
「本当ですか!? よかったぁ!」
花が咲くような笑顔を見せるオリヴィアは、今度はスプーンでもう一度オムライスをすくうと、自分にグラタンを分けてくれたお礼にとマリアへ差し出した。
「マリアも、あーん!」
「えっ……!? あ、私にもですか……!?」
まさかの展開にマリアは顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうにパクリと口を開けて食べた。しかし、食べ終わった後もマリアの顔はリンゴのように赤いままだ。それを見たオリヴィアが不思議そうに首を傾げる。
「マリア、顔がすごく赤いけど……熱かった?」
「えっと、その……お、熱さではなくて……か、かんせつキス……と言いますか……っ」
恥ずかしそうにモジモジと俯くマリア。その言葉を聞いたレインは、淡々と静かな声で告げた。
「気にすることはない。……それとも、嫌だったのか?」
「そ、そうではありません……! ただ、私……そういう経験が一度もなくて、その……っ」
顔を加熱させて慌てて首を振るマリアの横で、オリヴィアがくすくすと可愛らしく笑いながら、嬉しそうに呟いた。
「ふふ、なんだかマリアとお父様、恋人同士みたいだね」
「〜〜〜っっ!? お、お嬢様!? 冗談はやめてくださいませっ!!」
さっきよりもさらに顔を真っ赤に染め上げたマリアは、湯気を吹き出しそうな勢いで手をぶんぶんと振った。
(……いや、実は俺も前世含めてそんな経験一度もないがな? てか、女の子と間接キスしたのって、もしかして俺もこれが人生初なのでは……!?)
「……そうだぞ、オリヴィア。へんなことを言うものではない」
内心で妙な動揺を覚えつつも、レインは何事もなかったかのように平静を装った。
明日かなり短いです。分けるの下手でごめん。




