いざ舞踏会に!⑪
レディオンはユリウスへと向き直ると、先ほどベランダで見せていたお茶目な表情を完全に消し去り、皇帝としての冷徹な怒りを込めて眼光を鋭くした。
「……ユリウス。どういうつもりだ?」
「ひ、陛下……っ! こ、これは……母上から『素晴らしいお嬢様がいらっしゃるから、ぜひご挨拶しておいで』と言われまして……っ!」
噛みまくりながらも必死に母親からの指示だったと説明するユリウス。
その話を聞き終えると、レディオンはレインと、彼の後ろで小さくなっているオリヴィアに向かって——深々と頭を下げた。
「……すまなかった、ヴァルハルト公爵。そして、オリヴィア嬢」
一国の皇帝が、一貴族に対して頭を下げたのだ。
レインの性格と怒りの深さを正確に理解しているからこそ、レディオンはレインが次の言葉を発する前に、真摯に告げた。
「この過ちは、後から必ず埋め合わせをする」
「……次はないぞ」
冷酷な低音で言い捨てるレインに対し、レディオンは静かに答えた。
「すまない。……礼を言う」
その光景を目撃していた貴族たちは、完全に思考が停止していた。
どちらが上の立場なのか、もはや分からない。皇帝が深々と頭を下げ、公爵は敬語すら使わずに上から言葉を叩きつけているのだ。
(皇帝陛下よりも……公爵様の方が立場が上なのか……!?)
(恐ろしい……! もし私たちが軽々しくあのお嬢様に近づいていたら、100%一族ごと殺されていた……っ!!)
周囲に底知れぬ恐怖を刻み込んだレインは、言葉もなく固まっているオリヴィアとマリアの肩にそっと手を置いた。
「……戻るぞ」
「あ……はい、お父様……っ!」
レインは二人を伴い、凍りついた会場を堂々と後にして歩き出した。
——しかし。
(……いやいやいやいや、俺本当になにしてんの!?!?!?)
表面上は完璧な冷酷公爵の威厳を保ちつつ、レインの脳内では過去最大級の大パニックと悲鳴が巻き起こっていた。
(皇帝相手に『次はないぞ』って何!? なんで俺まだ生きてるの!? 怖っ!! 自分でも自分が怖すぎるんだが!?!?)
推しであるオリヴィアと、彼女を支えるマリアが侮辱され、泣かされかけた瞬間、身体が勝手に動いてしまったのだ。前世の記憶があろうと、今の自分の中に深く根付く「冷酷非道な公爵」としての本能と、娘を愛する親バカな感情が融合した結果、とんでもない暴挙に出てしまった。
(やばいやばいやばい……! でも、オリヴィアを守れたから結果オーライ……なのか……!?)
内心で滝のような冷や汗を流しながらも、レインは隣を歩く愛娘に悟られぬよう、絶対のポーカーフェイスを崩さずに舞踏会を後にするのだった。
(((^_^;)




