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悪役令嬢の父親(冷徹非道)に転生した俺、前世の知識で娘の処刑フラグをへし折りに!  作者: シャロ


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いざ舞踏会に!③

レインが放つ「娘を見せつけたい」という強烈なドヤ顔——その凄まじい目力を、周囲の貴族たちは「少しでも不敬な態度を取れば一族郎党消される殺気」だと盛大に勘違いしていた。誰一人として怖すぎて近づくことすらできない。うん、これでいい。

会場の壁際にメイドを待機させ、主人公は緊張で固まる娘のオリヴィアを連れて皇帝陛下への挨拶に向かう。

「皇帝陛下……」

「皇帝」の二文字に拍車がかかり、オリヴィアの緊張は限界突破していた。救いを求めるようにメイドと主人公の顔を交互に見つめる。

メイドは優しく微笑み、「大丈夫ですよ、オリヴィア様」と頷いた。

主人公もオリヴィアの耳元に身を寄せ、静かに囁く。

「あいつは公務の時はそれなりに威厳のある皇帝だが、舞踏会や私生活じゃただのバカだ。緊張する価値もない」

その言葉に、メイドとオリヴィアは信じられないものを見る目で目を見張った。直後、オリヴィアの緊張がふっと解け、「くすっ」と小さな笑い声が漏れた。

二人は皇帝レディオン・テールと、その妻である皇后セレスティア・テールの前へと進み出た。主人公は周囲の目を意識し、他の貴族同様に隙のない洗練された動作で深々と礼を執る。オリヴィアもそれに続き、完璧で心洗われるような美しさでお辞儀をした。

「久しぶりだな。公務以外で顔を合わせるなど何年ぶりだ? まさかお前が舞踏会に足を運ぶとはな……しかも、娘を連れて」

レディオンが親しげに笑いかける。主人公はあくまで他の貴族と同じように、皇帝を敬う態度のまま言葉を返した。

「たまには、こういう場も悪くありませんので」

「おいおい、俺たちの仲だ。そんな敬語なんて使わなくていいぞ」

レディオンは呆れたように手を振ると、オリヴィアに視線を移して目を細めた。

「それにしても……お前の娘は実に礼儀正しく、顔立ちも素晴らしいな」

隣に立つ皇后セレスティアも、心から感心した様子で頷く。

「そうですわね。立ち振る舞いも美しく、本当にかわいらしいお嬢様ですこと」

セレスティアは一歩前へ出ると、扇を口元に当てて提案した。

「……ねえ、我が皇室の息子を紹介させてくださいな。本当なら第一皇子をご紹介したいところですけれど、あの子は生まれつき体が弱くてね。第二皇子はいかがかしら?」

レディオンも大いに賛同する。

「おお、それはいい! お前との娘なら信頼できる。どうだ?」

父親たちの会話を聞き、オリヴィアの顔が再び強張った。これまで屋敷に隔離され、友達一人いなかった自分に、突然「許嫁」の話が持ち上がったのだ。

その瞬間、主人公の脳裏に原作小説の記憶が鮮明に蘇る。

——原作において、数々の悪行が暴かれたオリヴィアを冷酷に処刑したのは、他ならぬ第二皇子だ。

未来で我が推しを殺す相手を、許嫁にするだと? ふざけるな。

主人公は躊躇なく敬語を捨て、冷淡な声で突っぱねた。

「……断る。まだ早い」

(原作の冷酷非道な公爵なら、皇室との繋がりを得て権力を伸ばす絶好のチャンスを絶対に逃さないだろうな)

頭の片隅でそんな冷静な計算をしつつも、感情が拒絶していた。

「なに? さほど早くはあるまい。十代で婚約を結ぶ令嬢などごまんといる。俺もそうだったしな」

「そうですわよ」とセレスティアも引かない。

「まずは一度、お顔を合わせるだけでも……第二皇子のユリウスは容姿にも恵まれ、とても優しい気質の子ですの。公爵、あなたにとっても決して悪い話ではないはずですわ」

確かに、皇子との婚約はこれまで以上の権力を公爵家にもたらす。

だが、主人公の目的は権力ではない。「推しであるオリヴィアを絶対に幸せにする」——それだけだ。

「断ると言っている」

公爵の頑なな態度に、セレスティアは首を傾げた。彼女の知る公爵は、権力に執着し、そのためなら政略結婚すら厭わない男のはずだった。

「……ならば、婚約を受け入れてくださるなら、あなたが望むものを一つ差し上げますわ。どこぞの鉱山でも、莫大な財産でも、望むままに」

その言葉が、主人公の導火線に火をつけた。

「……婚約はしないと言っているだろ。何度言えば気が済む?」

低い声が周囲の空気を一瞬で凍りつかせる。冷酷非道な公爵としての威圧感を全身から解き放ち、主人公はセレスティアを射殺さんばかりの目で睨みつけた。

「もし、俺の許可なく勝手に第二皇子と婚約でもさせてみろ。……あなたと第二皇子の首が、明日も胴体繋がっている保証はないぞ」

「——なっ!?」

あまりの不敬、明確な殺意に、周囲の護衛兵が一斉に腰の剣を抜き、主人公へ武器を向けた。

オリヴィアは目の前の光景にポカーンと口を開けていた。

皇室に対してここまでの暴言を吐いたことへの恐怖で背筋が寒くなる。しかし、同時に強烈な感情が胸を突き上げていた。——あの権力欲の塊のような父が、権力を捨て、皇室全体を敵に回してまで自分を守ろうとしてくれている。その事実が、たまらなく嬉しかった。

緊張が極限に達したその時、レディオンが重々しく手を挙げた。

「……兵たちよ、武器を引け」

「陛下!?」

「引くのだ」

レディオンは深いため息をつき、主人公に向き直った。

「……すまなかった、公爵。無理に婚約を進めようとした俺たちが悪い。お前がそこまで嫌がるとは思わなかったのだ。……余からセレスにもよく言い聞かせておく」

「ですが、陛下……!」

食い下がろうとするセレスティアを、レディオンは鋭い目つきで制した。

「セレス」

「……申し訳ございません、なんでもありませんわ」

セレスティアは悔しそうに口をつぐんだ。主人公はフンと鼻を鳴らす。

「分かればいい。その謝罪は受け取っておく」

それだけ吐き捨てると、主人公はオリヴィアの手にそっと触れ、元の場所へと歩き出した。

華やかなオーケストラの演奏が絶え間なく流れる会場内では、彼らの会話内容まで聞き取れた貴族はいなかった。

しかし、遠目からでもはっきりと分かった。あの「冷酷非道な公爵」が皇后陛下に一歩も引かず意見し、皇后が引き下がったという異様な光景が。

「おい、見たか……? 公爵が皇后様に逆らっていたぞ」

「皇室と公爵家の間に致命的な亀裂が入ったのでは……」

「やはりあの男、容赦がない……」

会場の隅で、貴族たちの不穏な噂話が波紋のように広がっていく。

そんな周囲の恐怖と困惑を背に受けながら、主人公はただ隣を歩く娘が二度と怯えないよう、その小さな手を取り直した。




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