いざ舞踏会に!➁
ギギギ……と重厚な音を立てて、会場の大扉が開かれる。
シャンデリアの眩い光、色とりどりのドレスを纏った貴族たち、そして軽快な音楽が流れていた会場——そのすべてが、一瞬にして凍りついた。
音楽が途切れ、人々の話し声がピタリと止まる。
静寂が、大広間全体を支配した。
何年もあらゆる社交界の招待を無造作に蹴り続け、「血も涙もない冷酷無比な公爵」として誰もが恐れる男——レイン・ヴァルハルトが、そこに立っていたからだ。
周囲の貴族たちが青ざめ、引きつった笑みを浮かべながら、息を殺してヒソヒソと小声で囁き合い始める。
(あ、あのヴァルハルト公爵様が……なぜここに……!?)
(何年ぶりだ……? まさか気に入らない貴族を粛清しに来たのでは……)
(おい、見ろ……隣にいるのは……一体どなただ……!?)
ひそめられた怯えの視線が、レインの隣に寄り添う少女へと集中する。そして次の瞬間、会場の誰もが呼吸を忘れた。
夜空よりも深いミッドナイトブルーの正装に身を包んだレイン。その冷徹なまでの圧倒的な気品と美貌。
そして、その隣で静かに微笑むのは、カーマイン特製の深緑のドレスを完璧に着こなした少女・オリヴィアだった。艶やかな髪と、胸元の宝石のように輝く翡翠色の瞳。過度な装飾を削ぎ落とし、彼女自身の純粋な美しさを極限まで引き立てた装いは、まさに物語から抜け出してきた聖女か妖精そのものだった。
銀髪の冷徹な公爵と、深緑を纏った可憐な天使。
絶妙に調和した美しすぎる親子姿に、圧倒された貴族たちは言葉を失い、ただただ見とれるしかなかった。
(息を呑むほどお美しい……)
(まるで絵画だ……あの冷酷公爵に、これほど可憐なお嬢様がいらっしゃったとは……!)
会場の空気すら支配するほどの美貌と存在感。
その圧倒的な静寂のただ中で、エスコートするレインの脳内は——。
(見たかぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!! これが俺の娘!! 天使の中の天使、オリヴィアだぁぁぁぁぁッ!!!!! カーマインのドレスも最高に映えてるだろ!! ドヤッ!! 見惚れて声も出ねぇだろ!! 好きなだけ拝むがいい、俺の天使の可愛さをなぁぁぁッ!!!!)
鼻高々でドヤ顔の極致に達していたレインだったが、表面上はどこまでも冷徹で、近づく者すべてを凍りつかせるような氷の威厳を保ったまま、静かに会場の中央へと踏み出していくのだった。
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