品評会と買い物⑤
(ふぅ……これで服の準備は整ったな)
自分の胸元に輝く水色のクリスタルに触れながら、俺は隣で嬉しそうにドレスのサンプルを眺めるオリヴィアを見つめた。
(待ってろよ舞踏会。我が天使の可愛さを、世界に見せつけてやる……!)
冷酷な仮面の裏で、親バカな野望を密かに燃やす——そんな俺の横で、ふいに気配が静まり返った。
「……? オリヴィア?」
不思議に思って視線を落とすと、ドレスの生地を愛おしそうに撫でていたオリヴィアの手が、ぴたりと止まっていた。
その拍子に、翡翠色の瞳からポロポロと大きな涙の粒が溢れ落ち、絨毯に小さなシミを作っていく。
(っ!? 泣いたーーーっ!? なんで!? 俺なんか変なこと言ったか!? ドレス気に入らなかったか!?)
脳内が大パニックを起こしてポーカーフェイスすら決壊しかけた俺の前で、オリヴィアは小さな両手で必死に涙を拭いながら、しゃくりあげる声で言葉を紡いだ。
「あ、あの……ご、ごめんなさい……っ。悲しいんじゃないんです……っ! ただ、すごく……すごく、嬉しくて……っ!」
「嬉しくて……?」
「はい……っ。今までのお父様は……私のことなんて全然見てくれなくて……一緒にお部屋にいることも、こうして私のために服を選んでくださることも、褒めてくださることも……何一つ、なかったから……っ」
ぽたぽたと溢れ出る涙を止められないまま、オリヴィアは胸の前で拳をぎゅっと握りしめ、顔を上げた。真っ赤にした目と鼻で、けれど心からの幸せを噛みしめるように、健気に微笑んで見せたのだ。
「ずっと……お父様に嫌われているんだと思っていました……っ。だから……今の夢みたいな時間が……お父様が私にくださるたくさんの愛情が……嬉しくて、嬉しくてたまらないんです……っ!」
(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっっっ!!!!!!)
致命傷どころの騒ぎではない。心臓を直接握り潰されたような衝撃と、激しい愛おしさが胸を突いた。
過去の自分(前世の自分が入る前の冷酷だったレイン)の仕打ちを思い知らされると同時に、こんなにも純粋に自分を求めてくれていた娘の想いが痛いほど伝わってきた。
俺は一瞬だけ立ち尽くしたあと、感情を隠すようにそっと視線を逸らし、ポケットからシルクのハンカチを取り出すと、オリヴィアの頬の涙をぎこちなく、けれど優しく拭った。
「……泣くな。俺の娘に悲しい顔など似合わん。」
低く不器用な声でそう呟くのが精一杯だった。
そんな感動的な親子のやり取りを、横で腕を組んで黙って見ていたカーマインが、急にジト目になって不快そうにハァーッと深いため息をついた。
そして、扇子をパチンと閉じると、俺に向かって鬼の首でも取ったかのような鋭い視線をギロリと向けた。
「……あんたねぇ」
「……何だ」
「アンタがどれだけ不器用で言葉足らずなのは昔から知ってたけれど……こんな天使みたいな子を、今までどれだけ不安にさせてたわけ? 本当、親として最低最悪の冷血漢ね!」
「……っ」
カーマインの容赦ない正論のナイフが俺の背中にグサグサと刺さる。ぐうの音も出ない。過去の俺がやらかした放置プレイのツケとはいえ、カーマインのジト目が痛すぎる。
「お嬢様、あんな言葉足らずな分からず屋のパパなんて忘れて、私が最高のドレスで世界一幸せなお姫様にしてあげるからねぇ!」
「ふふっ……カーマイン様、ありがとうございます」
カーマインに優しく抱きすくめられ、くすくすと嬉しそうに笑うオリヴィア。
(カーマインの言う通りだ……。俺はもう二度と、この子にこんな涙を流させちゃいけない……!)
ハンカチを握りしめながら、冷酷な公爵の仮面の裏で、娘を一生かけて甘やかし倒すことを心に固く誓う俺だった——。
頑張るぞヾ(@゜▽゜@)ノ




