表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救えば救うほど、世界は滅ぶ。それでも、俺の剣だけが滅びを断てる  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

第9話 邂逅

 島を離れても、あの守り手の最期が、まぶたの裏から消えなかった。

 腕に残った、重さの不在。骨ばった、冷たい手の感触。守れ、という、掠れた声。それらを抱えたまま、俺たちは、再び、沈みの濃い方角へと歩き出した。源へ。そして、楔を壊して回る“連中”の、向かった先へ。

 異変に気づいたのは、海沿いの崖道を、半日ほど進んだ頃だった。

 前を行くカイラが、不意に足を止め、腕を横に出して、俺を制した。崖の陰から、そっと、先をうかがう。

 その先に、人影が、あった。

 三つ。いずれも、丈の長い、灰色の外套を、頭からすっぽりと被っている。顔は布で覆われ、見えない。背は、人のものより、わずかに高い。崖の縁、半ば沈みに呑まれた、小さな社の跡。その前に、そいつらは、静かに、佇んでいた。

 動かない。風が外套の裾を揺らしても、彼らは、その場に縫い止められた影のように、微動だにしない。生きているものが持つ、あのかすかな揺らぎが、まるで感じられなかった。呼吸も、体重の移動も。

 あたりには、あの匂いの無さが、漂っていた。生きているものの気配を、根こそぎ奪った跡。間違いない。あの守り手が言っていた、顔を布で隠した連中。各地の楔を、壊して回る者たちだ。

 体の奥から、何かが、ぐっと、せり上がってきた。気づけば、拳を、固く握りしめていた。

 あいつらが、あの島を。あの守り手を。そして、俺の故郷と同じものを、これまで、いくつも消してきた。

 足が、ひとりでに、前へ出かけた。

「待って」

 カイラの手が、俺の腕を掴んだ。低い声で、囁く。

「数も、相手の力も、分からない。飛び込むのは、無謀だよ」

 その通りだった。頭では、分かっている。だが、それでも、握った拳の震えは、止まらなかった。

 だが、その時。

 灰色の外套の一つが、ゆっくりと、こちらを向いた。布の奥の、見えないはずの視線が、まっすぐに、俺を射抜く。

 気づかれた。

 隠れていても、仕方がない。俺は、崖の陰から、進み出た。カイラが、小さく舌打ちして、それでも、すぐ後ろに続く。弓に手をかけながら。

 三つの影が、こちらを見据えている。逃げるでも、身構えるでもない。ただ、静かに。その不気味さに、背筋が、ざわついた。

「……お前たちが、やったのか」

 声が、低く、掠れた。

「この島の核を、壊したのは。守り手を、殺したのは。お前たちか」

 しばらく、沈黙があった。やがて、中央の影が、口を開いた。くぐもった、奇妙に平坦な声だった。

「壊した、のではない」

 その言葉は、感情というものを、まるで持たなかった。

「返した、のだ。盗まれたものを、あるべき姿へ。それだけのこと」

「……何を、言っている」

 意味が、分からなかった。盗まれたもの。あるべき姿。こいつらは、いったい、何を言っている。

 問い返そうとした、その時だった。

 影の一つが、すっと、手を上げた。その手の先、外套の袖から、黒いものが、にじみ出る。あの“無”によく似た——闇の、塊。

 とっさに、刃を、握っていた。渦巻く闇を圧し固めた、黒い一振り。それを見て、影たちが、初めて、わずかに、動きを止めた。

「……その力」

 中央の影の、平坦だった声に、初めて、揺らぎのようなものが、混じった。

「お前、何者だ。なぜ、人の身で、“あちら”の力を、宿している」

 あちら。その言い方に、引っかかりを覚えた。だが、問い返す暇は、なかった。

 影が放った闇の塊が、俺へと、飛んでくる。

 刃で、払った。黒と黒が、ぶつかり、弾ける。手応えは、なかった。だが、相手のそれも、俺の刃に触れた一点で、消し飛んだ。

 二合、三合。影たちの動きは、速さこそ大したことはない。だが、その攻撃は、掠めるだけで、触れたものを蝕んでいく。まともに食らえば、あの守り手と同じように、消えてしまう。

 俺が前で影の攻撃をしのぎ、カイラが、横合いから、矢を射る。一本が、影の一つの肩口を捉えた。影が、よろめく。だが、傷口からは、血の代わりに、黒い靄が、漏れ出した。

 人じゃ、ない。あの守り手の言葉が、よみがえる。人だったのか、どうかも、分からん。

 三つの影は、互いに、声も合図も交わさない。それでいて、淀みなく、連携してくる。まるで、一つの意志に操られているかのように。じりじりと、押される。

 守り手の最期が、頭をよぎった。あの、安堵した目。すがるような手。——許せない。

 気づけば、俺は、踏み込んでいた。代償も顧みず、刃に力を注ぎ込もうとした。

「ヴェイン!」

 カイラの、鋭い声が、飛んだ。

「一人で、突っ込まない!」

 その声で、我に返る。あの戦いの時と、同じだ。我を忘れて、自分を見失いかけた俺を、カイラの声が、引き戻す。

 俺が踏みとどまったのを見てか、あるいは、別の判断が働いたのか。影たちは、すっと、後退した。

 中央の影が、最後に、俺を、じっと見据えた。

「お前のことは、報告する。人の身で“あちら”を宿す者……興味深い。いずれ、また」

 言い終えるや、三つの影は、崖際の靄の中へと、溶けるように、姿を消した。後には、波の音と、半ば消えた社の跡だけが、残された。

 張り詰めていたものが、ふっと、緩む。俺は、膝に、手をついた。全身に、嫌な汗が滲んでいた。さっき、我を忘れて踏み込んでいたら、今ごろ俺は、あの守り手のように、消えていたかもしれない。カイラの声が、なければ。

「……何だったの、あいつら」

 カイラが、弓を下ろし、掠れた声で言った。その顔にも、隠しきれない戸惑いが、浮かんでいる。

「人が、相手じゃなかった。あんなの、初めて見た」

 平静を装ってはいたが、その声は、わずかに、強張っていた。気丈な彼女でも、あの不気味さは、応えたのだろう。

 分からない。だが、はっきりしたことが、いくつかあった。

 あれは、ただの災いじゃない。明確な意志を持って、各地の楔を壊し、滅びを早めて回る、ひとつの“組織”。そして、奴らは、人ではない、何か。盗まれたものを、返すのだと、そう言っていた。

 そして何より、奴らは、俺の存在を、知った。この身に宿る“無”を。人の身で“あちら”を宿す者、と。

 あの言葉の意味は、まだ分からない。なぜ、俺の力を“あちら”と呼んだのか。盗まれたものとは、何なのか。

 だが、確信もあった。その答えもまた、源にある。奴らが向かう、その先に。

 俺は、奴らの消えた靄の彼方、沈みの最も濃い方角を、見据えた。


読んで下さりありがとうございました!

★★★★★評価と[[[ブックマーク]]]、リアクションお願いします!

Youtubeにて作品公開中!

http://www.youtube.com/@mizukara-h2z

ご感想やご質問など、ぜひコメントでお聞かせください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ