表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救えば救うほど、世界は滅ぶ。それでも、俺の剣だけが滅びを断てる  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第6話 生きると、贖うと 

 戦いが終わっても、カイラは止まらなかった。

 怪我人に肩を貸し、泣きじゃくる子をあやし、散り散りになった人々を、てきぱきと一つにまとめていく。「大丈夫、もう大丈夫だから」。そう繰り返す声には、人を落ち着かせる、不思議な力があった。

 広場には、土埃と、人いきれのにおいが立ちこめている。さっきまで“無”が漂っていた場所に、生きている者の匂いが、少しずつ、戻りつつあった。

 俺は、その輪から少し離れて、立っていた。何をすればいいのか、分からない。影を断つことはできても、こういうことは、どうにも不得手だった。

 俺にできるのは、斬ることだけだ。あの黒い刃で、迫る“無”を断つこと。それは、守ることではあっても、誰かに寄り添って、その心をほぐしてやることとは、違う。カイラのまわりに集まる人々の、安堵した顔を見ていると、なんだか、自分がひどく場違いに思えた。

 人々が落ち着いたのを見計らって、俺は、踵を返した。まだ陽は高い。先を、急がなければ。

「ちょっと、待ちなよ」

 背中に、声が飛んできた。振り返ると、カイラが腰に手を当てて、こっちを睨んでいる。

「お礼も言わせないで、どこ行くつもり」

「……源だ」

 カイラの眉が、跳ね上がった。

「源って……まさか、沈みが湧いてる方? みんなが必死で逃げてる、あっち?」

「ああ」

「正気?」

 俺は、答えなかった。説明する気は、なかった。咎人の血が、とか、贖いが、とか——会ったばかりの娘に、話すことじゃない。

 黙って歩き出そうとすると、カイラが素早く回り込んで、行く手を塞いだ。

「待ってってば。あんた、さっき消えかけてたんだよ? あんな力の使い方して、その上、源だなんて……それ、死にに行くのと同じじゃない」

「……かもしれない」

「かもって!」

 カイラが、声を荒げた。けれど、その目に揺れていたのは、怒りより、もっと別の何かだった。

「あのね。あたし、嫌というほど見てきたの。沈みに呑まれて、消えていく人を。助けられなかった人を。だから……目の前で、自分から消えに行こうとする奴を、黙って見送るなんて、できない」

 その言葉に、嘘はなかった。気さくに笑うその顔の奥に、消えない傷があるのが、見て取れた。たぶん、彼女が誰かを助けようとするたび、助けられなかった誰かの顔が、よぎるのだろう。

 ぽつり、ぽつりと、カイラは話してくれた。彼女の故郷もまた、沈みに呑まれて消えたのだという。逃げ惑う中で、家族とも、はぐれた。気づいたときには、生き延びていたのは、彼女ひとりだけだった。

 それからは、散り散りになった同じ島の生き残りを捜して、一人、また一人と、繋いで回っているのだという。たった一人で、この壊れた世界を、ずっと。

「死んだ人は、還らない。でも、生きてる人は、まだ生きてる。だったら、生きてるうちに、助けたい。あたしにできるのは、それだけだから」

 飾り気のない言葉だった。眩しいくらいに。

 ——こいつは、俺とは、正反対だ。

 死んだ者への贖いに憑かれて、前へ進むことしか考えられない俺と。死んだ者を抱えたまま、それでも、生きる方へ生きる方へと、手を伸ばし続けるこいつと。

 同じだけの喪失を抱えて、どうして、これほど違う方を向けるのだろう。過去にばかり目を向けて、贖いへと沈んでいく俺。その同じ痛みを、明日を生きる力に変えている、こいつ。

 胸の底で、また、あの声が疼いた。生きろ、と。俺は、それを、押し戻す。

「……俺が源へ行くのは」

 気づけば、口を開いていた。なぜ話す気になったのか、自分でも分からない。

「沈みを、止めるためだ。元から断てば、もう、誰も消えずに済む」

 カイラが、息を呑んだ。

「……止められるの? あの沈みを」

「分からない。だが、やらなきゃ、世界は端から消えていくだけだ」

 しばらく、カイラは黙っていた。何かを、必死に考えるみたいに。やがて顔を上げると、その目には、さっきとは違う光が灯っていた。

「……それ、あたしのやってることの、ずっと先にあるやつだ」

 ぽつりと、彼女は言った。

「一人ずつ繋いでたって、世界そのものが沈んじゃったら、意味ない。元を止められるなら……それが結局、一番たくさんの人を、助けられる」

 その目に、もう、迷いはなかった。一人ずつ救うことの限界を、誰よりも知っているのは、彼女自身だったのだろう。だからこそ、“元を断つ”という言葉が、彼女の胸に、強く響いたのかもしれない。

 カイラは、ぱっと表情を変えて、弓を背負い直した。

「決めた。あたしも行く」

「……は?」

「だから、源。一緒に行くって言ってんの」

「だめだ」反射的に、俺は言った。「死ぬぞ。さっき、自分で言ったろう」

「あんた一人なら、ね。でも、二人なら? あんた、前は強いけど、後ろはがら空きだよ。さっきの戦い、誰が死角を守ったと思ってんの」

 言い返せなかった。事実、あの戦いは、彼女がいなければ、危うかった。

「それに」

 カイラは、少しだけ、声を和らげた。

「消えかけたあんたを、もう一回引き戻すのに、誰か傍にいたほうが、いいでしょ」

 その一言に、俺は、二の句が継げなかった。

 こいつは、本気だ。一度こうと決めたら、梃子でも動かない。そういう目を、している。

 断ろうとして、言葉が出てこなかった。一人で背負うと、そう決めていたはずだった。他人を、まして、こんな娘を、自分の罪に巻き込むわけにはいかない。そう思うのに。その決意が、彼女のまっすぐな目の前で、なぜだか、ぐらついていた。

 ……それに。正直に言えば。

 ずっと冷たいものしか感じてこなかったこの旅で、あの手の温かさは、嫌じゃ、なかった。

 そして、心のどこかで、思ってもいた。こいつなら、また俺が消えかけたとき、あの時みたいに、無理やりにでも、引き戻してくれるだろう、と。

「……勝手にしろ」

 俺がそう言うと、カイラは、勝ち誇ったように笑った。

「うん。勝手にする」

 こうして、俺の一人きりの旅は、終わった。

 隣で、やたらと喋る、お節介な道連れができた。世界が端から消えていくこの旅路は、相変わらず、寒々しい。それでも、隣に誰かの足音があるというだけで、その寒さは、ほんの少しだけ、薄らいだ気がした。


読んで下さりありがとうございました!

★★★★★評価と[[[ブックマーク]]]、リアクションお願いします!

Youtubeにて作品公開中!

http://www.youtube.com/@mizukara-h2z

ご感想やご質問など、ぜひコメントでお聞かせください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ