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迷宮都市のはしっこカフェ  作者: 佐倉涼@5作書籍3作コミカライズ


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火竜掃討作戦


 迷宮五十階層。

 そこは強敵蠢く死の世界で、力なきものが立ち入ってはならない弱肉強食の世界である。

 そんな場所に足を踏み入れた三人は、いつもと変わらない軽装だった。

 転移魔法陣付近の安全地帯から出ないようにしてフィンは周囲を見渡す。


「ヴィクターたちはどこだろう」

「迷宮は広れーから、こんな出入り口付近でキョロキョロしたって見つかるわけないんだみゃあ」

「確かにそうだけど、君はもうちょっと歯に衣着せた喋り方できないのか?」

「うみゃみゃみゃ」


 笑って誤魔化された感がある。


「これは、もうちょっと方法を考える必要がありますね。付与魔法(エンチャント)感覚強化(センスブースト)。これで見える範囲以上のものが感じ取れるようになったはずです」


 単なる五感の強化ではなく、身体中の神経、そして感覚が研ぎ澄まされたようだった。

 ピリリと肌を刺す、強力な殺意。焦がすような魔力の波動。


「……東の方角で、火竜と交戦する気配がある」

「オイラも感じてたみゃあ。数は、火竜が十五頭にニンゲンが二十人ってとこだみゃあ」

「火竜の数が多すぎる……!」


 一頭だって手に余る火竜が十五頭もいては、敗戦必至だ。いくら付与魔法があったからといって、勝てる相手ではない。


「キト、助けに行こう」

「フィンが一緒に戦うっつうんなら考えてやらんでもないみゃあ」

「んな!? 無理に決まってるだろ!」

「なんで決めつける? おミャぁの弟が絶体絶命のピンチなんだろ? なら戦うのはオイラじゃなくておミャぁじゃないのかみゃあ」

「それは……力があればそうしているさ」


 拳を握ってフィンは唇を噛み締める。

 フィンとて、自分に力があるのであれば、自らの手で剣を取り弟救出に向かう。

 だが実際問題フィンの剣の腕はへっぽこで、到底火竜に太刀打ちできるものではない。あっという間に灰になって燃え尽きるのがオチである。

 己の実力を正確に把握しているからこそ、フィンはこうしてキトにお願いをしているのだ。


「キトに僕の気持ちはわからない。才能があって、力に恵まれている君に、落ちこぼれの気持ちなんて……!」


 感情を振り絞るように叫ぶも、この後に及んでキトは鼻をほじっていた。ことの重大さが全くわかっていなさそうだった。


「君はふざけているのか!?」

「えーだっておミャぁたいそうなこと言ってっけど、結局自分で何かする気がねえんだなって。オイラ、そんな奴に力を貸すなんてごめんだみゃあ」

「そんなこと……!」

「フィンさん」


 思わずキトの胸ぐらを掴みかかろうとするフィンを止めたのはエマだった。

 服の裾をくいくいと引っ張る手は小さい子供のもので、迷宮五十階層に連れてくるのには場違いすぎる。


「フィンさんは、本当はご自身でヴィクターさんの救出に行きたいんですよね?」

「当たり前だ! 僕に相応の力があれば、そうしている!」

「なら、私も全力でフィンさんの力になりますよ」


 にこり。

 エマは天使のようなあどけない笑みを浮かべ、そしてーー両手をかざして呪文を唱えた。


付与魔法(エンチャント)潜在能力解放(リミットブレイク)魔法障壁展開(マジックバリア)身体精神強化(フルボディブースト)火属性無効化(ファイアキャンセル)氷属性大幅付与(フローズンブースト)


 種々の魔法がフィンの体を包み込み、あり得ないほどの力が無尽蔵に沸いて出る。

 底知れない力。

 これならば、今ならば、力になれるーー。


「エマ……ありがとう。今の僕なら、誰かに頼ることなく、助けに行ける気がする……!」

「はい。今のフィンさんは火竜ごときに恐れることはありません。思う存分力を使い、ヴィクターさんを助けてあげてください」

「そうするよ!」


 地を蹴ってフィンは走り出した。体が驚くほど軽い。

 研ぎ澄まされた感覚により、複雑怪奇な迷宮のどこにヴィクターがいるのかがわかる。途中で出会った魔物たちは、フィンのあまりの素早さに存在にすら気がついていないようだった。

 火竜の殺気が、そして弟の気配が近づいてきた。

 角を曲がった先の広がる空間。フィンの目に飛び込んできたのは、壊滅寸前の騎士団の一部隊と、圧倒的な力を持つ火竜たちの群れだった。


「兄上!?」

「ヴィクター、剣を貸してくれ!」


 普段着のまま丸腰で突然飛び込んできたフィンに驚くのも束の間、ヴィクターは即座に反応を見せた。握っていた剣をフィンに向かって投擲するヴィクター。それを華麗に掴むフィン。

 ヴィクターの剛腕によって放たれた剣を掴むなど、普段のフィンには出来もしないことなのだが、エマによって付与魔法マシマシにかけられている現在ならば造作もないことだった。

 おおよそ二年ぶりにまともに握る剣。対峙する強敵。

 フィンの心には一切の怖気はなかった。ただひたすら、目の前の敵を殲滅することしか考えていなかった。

 火竜の群れは全部で十五頭。

 だが、何頭いても今のフィンの相手ではない。

 ヴィクターから受け取った剣を手に駆ける。

 豪速で近づくフィンを脅威と見なしたのか、火竜たちが一斉にフィンに向かって炎のブレスを吐き出した。


「無駄だ!」


 フィンに付与された氷属性の魔法がいともたやすくブレスを弾く。

 速度を殺さず突っ込んできたフィンに、火竜たちが怯んだ。

 その、一瞬。

 フィンは剣を振り抜き、的確に火竜の首を切り落とす。

 多少の抵抗感があったとしても、振り抜けないほどではなかった。

 常温に戻したバターみたいに柔らかかった。

 バターのように柔らかい火竜の首を、フィンはスッパスッパと切り落としていく。

 急所を切られて一撃で命を落とした火竜たちは、血飛沫を吹きあがらせることもなく光の粒子となって地脈へと還っていく。

 後に残ったのは、いくばくかの素材と、呆気に取られている騎士たちのみ。

 フィンは、尻餅をついたままぽかんとこちらを見つめているヴィクターへ近づいた。


「剣、ありがとう。火竜討伐も完了したことだし、地上に戻ろうか」

「は、はい……」


 騎士の鑑とまで呼ばれているいつも精悍なヴィクターが、少年の頃のキラキラとした眼差しでフィンを見ている。

 それがなんだか無性にフィンの心をむず痒くさせた。


「フィンさんー!」

「無事かみゃあ?」

「エマ、キト」


 キトに肩車されたエマが角を曲がってやってくるのが見え、フィンはようやく肩の力を抜いたのだった。


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