ランバルド家の希望の星
迷宮都市キルデアは、街の中心に迷宮を擁する特殊な作りの都市だ。
都市を統括するのはハロディング王国でも五指に入る名家ランバルド公爵家。
公爵家の領地は広いが、領館があるのはキルデアだ。
まだ迷宮が攻略されていなかった頃、当代当主がキルデアに居を構えて迷宮主打倒に心血を注ぎ、その後は迷宮都市の発展に尽力するためキルデアに住み続け、いつしか都市は公爵領最大の都市となった。
未攻略の迷宮というのは人類にとって恐怖そのものだが、攻略されて人の手で管理がされている迷宮は素材の宝庫である。
特に五十階層を超え、あらゆる地域が迷宮内に集まっているとあれば尚更。
キルデアは交易盛んな都市になり、さまざまな物資を王国中に輸出する一大貿易都市となった。
そんな都市を統括するランバルド家には現在二人の息子がいた。
一人はフィン。剣の才能に乏しく、ランバルド家の落ちこぼれとの噂に名高い長男。
もう一人はヴィクター。ランバルド家を継ぐに申し分のない剣の腕を持ち、才能あふれる次男。
人はヴィクターのことをこう呼び、口々に褒めそやすーー「ランバルド家の希望の星」と。
次期公爵家当主はヴィクターに違いないと誰もが確信を込めて言う。
いくら長男とはいえ、家を捨てて逃げ出したフィンに公爵家を継ぐ資格はない。
いいやそもそも、騎士の名家の生まれでありながら剣の腕がないなどお話にならない。
次代のランバルド公爵はヴィクターで決まりであろうと、ランバルド家の家臣も騎士団の部下も口を揃えて言うのだ。
しかしそう告げられた時のヴィクターの表情は、決まって晴れやかではない。
「けれど兄上、俺は……」
顔をしかめるヴィクターの、心の奥底に秘めた気持ちに気がつく者はいるのだろうか。
あるいは次期公爵をはっきり指名しない両親には、わかっているのだろうか。
「…………」
うつむくヴィクターの耳に騒々しい足音が聞こえ、続いて扉が開いて部下の騎士が姿を表した。
「報告します。迷宮最下層にて、火竜の群れの発生を確認!」
「また竜種の軍勢が? この前キト殿が駆逐したばかりだろう」
迷宮最下層は千万無量と呼ばれ、強力な魔物が跋扈する魔宮である。
魔物の中でも特に強力なのが竜種だ。
一頭でも手を焼く竜が群れをなして襲いかかってくる様は、端的に言って地獄絵図。選りすぐりの騎士や熟練の探求者が挑んでも討伐には時間がかかり犠牲が出るのが普通だ。
前回の土竜大発生時は、たまたま伝説級の探求者『肉球拳のキト』がその力を十二分に発揮してくれたおかげでことなきを得た。
しかし、そうそう助けを期待しても無駄だろう。
伝説級の探求者は気まぐれだし、余程のことがない限り頼りにされることを嫌がる。
それに、なるべく自分達で解決しなければ、ランバルド家自慢の騎士団の名が廃るというものだ。
「直ちに竜討伐に特化した部隊を編成しろ。俺も行く」
「はっ」
ヴィクターは自らが先頭に立って討伐をするべく、支度をし、外へと出る。
すると騎士の一人がめざとくヴィクターの姿を見つけ、にじり寄ってきた。
「おや、ヴィクター様自らが出陣でございますか? これはこれは、またしても武勲を立てることになりますな。次期公爵様の座も目前というわけで……」
「くだらない話はするな。爵位を継ぐのは出生順、ならば兄上が次代のランバルド公爵だ」
「ヴィクター様さえその気になれば、覆せるかと」
ヴィクターは冷ややかに騎士を見下ろした。
上背のあるヴィクターは、大抵の者を見下ろせる。どんなに背の高い騎士がいたとて、ヴィクターには敵わない。
「その言葉、公爵家をみだりに掻き回す狼藉者と受け取るが良いか」
「ひっ、滅相もございません」
「余計なことは言わないことだ」
ヴィクターはフンと鼻を鳴らすと、早足でその場を去った。




