第68話 積層化
思えばヒトというのはひどく排他的な生物だ。
樹木を切り倒し、地面をコンクリートとアスファルトで覆い、殺虫剤を振り撒く。
森の中で他の生物を共存しようとはせず、ヒトだけが生きる土地に変えていく。
立ち入りが許されるのは農作物や家畜、猫やお花といった都合のいい生き物だけだ。
ヒトの生息域では生態系は壊滅的な状態になる。
しかし、今更森の中の洞窟や掘っ立て小屋で暮らせと言うのも無理な話だろう。
となると、環境保護と両立するためにはヒトの生息域の面積を減らす必要がある。
そういう意味では、ビルの巨大化や高層化、地下開発などは大いに応援したい。
国防とか防災という意味ではリスクが増えるから、そこは要注意だけどね。
そして、今の俺にとって森はダンジョンの魔力の大事な供給源だ。
可能な限り緑地面積を温存する為に、街の「積層化」を意識していきたい。
街の面積を最小限にしつつ機能や容量を増やす為、街は縦に拡張するのだ。
そして、俺には地下の構造物を簡単に作れる手段がある。
地上の物は最小限にして、地下に拡張していくことにしよう。
地上に置かなくてはならないものは何があるだろう?
まずは畑、庭園や公園、防衛施設、そして道路か。
この世界の主な輸送手段は馬車のようだから、道路はしっかり作ろう。
迎賓館なんかは見栄えも大事だろうし、馬車も来るから地上部が必要か。
また、人間はずっと地表で暮らしてきた生き物だ。
平面的な空間認識は出来ても、地下空間を立体的に把握するのは難しい。
地下空間だけでは迷ってしまうだろうから、ランドマーク的なものも必要だ。
一般市民が気軽に入れる商業施設を作り、「○○の地下×階」と表示しよう。
そういった施設を要所要所に作れば位置関係は把握しやすいはずだ。
子供が迷わないように居住区と学校にも地上部があったほうがいいかな?
そういえば、地球の高層マンションでは引き篭もりが問題になってたっけ?
高層部に住む人間ほど外出の頻度が落ちるというやつだ。
子供の心身の発達の遅れ、高齢者の筋力や脳の衰えの加速、欝傾向の悪化に繋がる。
これは地下マンションの下層でも同様の問題が予想される。
住人が気軽に外出できるようになるような工夫が必要だろう。
まずはあちらこちらにエレベーターやエスカレーターを作り、昇降の負担を減らす。
居住区付近では地上に児童公園を作り、地下と立体アスレチックで繋ぐ。
遊びながら地上に上れるなら、外出の意欲も上がりやすいのではないだろうか?
同じく居住区付近には地域の住民が無料で気軽に入れる公民館を設置する。
ボードゲームなどを置いておき、お茶やお菓子は住民たちで持ち寄ってもらう。
区画毎に町内会を組織して、公民館の管理をお願いしよう。
あとは、生活の中心が地下空間になると、陽に当たる時間も問題になりそうだ。
居住区と商業区は敢えて地下通路を繋げずに、一度地上に出てもらうことにしよう。
そうすれば毎朝通勤時・通学時に陽の光を浴びる時間ができるはずだ。
不特定多数が利用する商業区と隔てることで、居住区で不審者への警戒もし易くなる。
雨の日のために、通路に日差しを妨げない程度に屋根くらいは造って置くかな。
生活習慣病予防に軽度の運動習慣を推進するのも必要か。
地上には公園を整備し、山の中には緑の散歩道なども整備しよう。
ラジオ体操みたいな朝の運動とかもあった方がいいかな?
その辺は人の手を使っておいおい整備していくことにしよう。
そんなこんなで、『経済特区』は600m*2000mほどの面積に収めることにする。
今後また施設が必要になるようなら、更に地下の階層を増やしていくことにしよう。
上に伸ばしてもいいんだろうが、それは造成や維持にかかる魔力がかなり大きい。
当面は地上は2階層までにしておくつもりだ。
ダンジョンを『経済特区』全域までフロア拡張し、更に地下に1階層拡張した。
そして谷の街道の東側、山の隙間に500mの間隔を置いて2本の大通りを通す。
その間に『経済特区』の各種主要施設を置いていく予定だ。
既に作った区役所、百貨店、浴場、2つのホテル、病院、倉庫に公営団地。
更に託児所、職業訓練所、小劇場兼演劇練習場、警察&消防、オークションハウス。
大通りの間からは外れるが、南側にリサイクルセンター、川の西側に監獄も作る。
もっとも、建物だけで人とか中身とかはまだまだこれからだけどね。
その辺が落ち着いたら、東側に500m四方の迎賓館エリアを整備する予定だ。
一部は一般開放し、散策したりパーティー会場に使えるようにしよう。
更に東側には大劇場とコンサートホール、更に東に遊園地を作る予定で居る。
現時点での『経済特区』の構想はそんな所。
開拓村の方にはホテルと迎賓館に加えて美術館、博物館、図書館も作ろう。
最近の日本でよく見るお茶しながら本を読めるカフェも街道沿いに作る予定だ。
街道沿いの土地は有償で貸し出せば、喫茶店や食事処などが出来ていくだろう。
そして更に北、バルバスの陣地跡は農園地帯にしようと思っている。
東側に更に森をきり開き、200~400ヘクタールほどの大農園になる予定だ。
労働力確保の問題は残っているが、食物自給率200%は達成できるだろう。
さて、『経済特区』に関して俺がダンジョンを操作する仕事は一段落した。
開拓村のほうの伐採を進めているがもうしばらくかかるだろう。
その間に生産系の仕事も進めておこう。
先日、踊り子ギルドの代表者というマティルデとセレーナという女が挨拶に来た。
どういうわけか、俺とローズが一緒に入っている最中の浴室に、全裸でだ。
この世界では踊り子と娼婦はあまり区別されていないらしい。
つまり、踊り子ギルドとは同時に娼婦ギルドでもあるわけだ。
実際、兼業している踊り子も多いそうだ。
訪問時にこの世界で広く使われている避妊ジェルという物を試させてもらった。
中に入れておくと精液をゴム状に固めてくれるらしい。
飛沫などは小さな粒となってつまみ出せなくて困るんじゃないかとも思った。
それらは後で解けて流れ出し、その頃には精子は不活化しているそうだ。
また、殺菌消毒作用などもあり、性病予防にも効果的なのだとか。
『経済特区』に色街を設置した俺としては、ぜひ国産化して安定供給したい。
一樹「これを国内生産したいんだが、出来るか?」
俺が持ってきたのは先日マティルダが使っていたのと同じ王国産の避妊ジェルだ。
アーネストさんに頼んで取り寄せてもらったのだ。
アルミ「避妊ジェルですか。成分を解析して化学的に再現するのは可能だと思います。ですが、本来は薬草を煮出して作るんですよね?」
一樹「ああ、そうらしい」
対応しているのはよれ気味の下着の上に白衣を羽織った少女だ。
見た目10歳前後の少女にこんなことを依頼するのはどうも気が引ける。
しかし、こんな見た目だが実際は魔道人形、遠慮する必要はないはずだ。
アルミ「なら、薬草を使うアプローチのほうがいいかもしれませんね」
一樹「そうかもな」
アルミ「デリケートな場所に使う物ですから天然成分の方が安心です。それに、よほど特殊な薬草でない限りはそっちのほうがコストもかからないと思いますよ」
一樹「なるほど。では、その方向で頼む」
アルミ「分かりました。ただ、薬草は専門外なのでちょっと時間がかかると思います。材料が分かれば配合の調整などはやれますが、私たちだけでは材料の特定がネックになるかもしれません」
一樹「薬草に詳しい者が必要ということか」
アルミ「はい」
一樹「分かった。ちょっと探してみよう」
アルミ「では、とりあえず成分の解析だけ進めておきますね」
一樹「ああ、頼んだ」
さて、避妊ジェルの作成には薬草類に詳しい人間が必要らしい。
石鹸の香り付けのためにハーバリストが欲しいという話もあったな。
シュバルツのクッキーに合わせるハーブティーの開発も必要だろう。
先延ばしになっていたが、いい加減にハーバリストを召喚すべきか。
なるみ「ほほう、ようやくハーバリストの召喚に踏み切りますか」
一樹「ああ、ちょっと先延ばしにしすぎたな。季節的にもハーブ園の準備はぎりぎりか遅すぎるくらいか」
なるみ「あー、確かに。けど、植えてすぐ使えるわけでもないし、当面は乾燥した奴の取り寄せか自生してるハーブの採取になるんじゃない?」
一樹「それもそうか」
なるみ「んで、デザインはどうするの?やっぱねこ耳?」
一樹「いや、植物関連といえばやっぱりエルフのイメージだな。悩みどころはおっとり系の白エルフか快活系の黒エルフかだ」
なるみ「んー、どっちも捨てがたいねぇ。いっそどっちも召喚しちゃえば?」
一樹「それもいいんだが、名前をどうしたもんかな」
なるみ「名前?」
一樹「いや、なんでもない」
なるみ「おっとり系だとローズさんとかパンジーさん、デイジーさんもいるし、バランス的には快活系かな?」
一樹「そうだな、屋外作業も多そうだし、黒エルフにしとくか。じゃあ、こいつを21人な」
なるみ「そんなに召喚するなら分けてもよくない?」
一樹「いいんだ。服装は・・・」
ピシッ!
打ち合わせを終えた俺たちの前に放電とともに21の光の繭が浮かぶ。
そしてその中に浮かんでいるのはいつものように目を閉じた裸身の女だ。
エルフ特有の尖った耳、微かに日に焼けた健康的な小麦色の肌がまぶしい。
その一方で、同じ顔が並ぶ様はやはり異様な印象を拭い切れない。
控えめな胸を見せ付けるようにゆっくりと回転する21人の胸元に虹色の光が走る。
11人の胸にはかわいらしいブラジャーが現れたが、残り10人の胸は露なままだ。
続けて小さめのお尻を見せ付けるようにゆっくりと回転し、腰周りに虹色の光。
11人のお尻にはブラと合わせたパンツが現れるが、残りの10人はそのままだ。
最後に全身を虹色の光が包み、衣装を完成させる。
先頭の1人はちょっとオシャレ系の作業着だ。
ノーブラ組の10人は臍の辺りにスリットの付いた昔ながらのスクール水着。
大きなつば広の麦藁帽子と大き目のサングラスで顔はほとんど見えない。
残りの10人は下着の上から直接白衣を羽織り、顔は謎ゴーグルで隠れている。
あの研究室はなぜか下着に白衣がユニフォームみたいだから仕方ない。
一樹「名前はマーガレットにしよう。スク水組はハーブ園の整備と森での採集、白衣組は地下研究所でアルケミストとともに石鹸やハーブティー、避妊ジェルの開発を頼む」
マーガレットたち「了解しました、ご主人様!」
スク水組と白衣組みがそれぞれ移動し、唯一顔を出している1人が残される。
マーガレット「ご主人様、私は何をしましょう?」
一樹「ハーバリストたちのまとめ役を頼む。俺への報告や提案、要請などあればこまめに教えてくれ。あとは手の足りてないところを手伝ったり、街を回ってハーブで改善できそうなものがないか考えてみてくれ」
マーガレット「はい、承知しました!」
メインダンジョンのある小山の1画、ひとまず10アールほどをハーブ園に当てる。
森は出来るだけ削りたくないが、畑の類はそういうわけにもいかない。
とりあえず南側の斜面にしたけど、種類によっては北側がよかったりするのかな?
或いは逆に温室が必要なものもあるかもしれない。
その辺も報告を受けつつ順次調整していくことにしよう。




