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第40話 毒

一樹「お呼びたてしてすみませんね。納品していただいたハムル油についてちょっと確認したいことがありまして」

アーネスト「そうですか。どんなことでしょう?」


俺は開拓村の北の拠点にアーネストさんを呼び出している。

テーブルの上には、小さなグラスが1つ。


一樹「先日いただいた分と味が違うみたいなんですよ。ちょっと味見してもらえませんか?」

アーネスト「そうでしたか。植物も生き物ですから、味にも多少の振れ幅はあるものですよ」

一樹「それは承知していますが、そういうレベルの違いでもなさそうなんです」

アーネスト「それは申し訳ないことをしました。では、今回のハムル油については御代はけっこうです」

一樹「そうはどうも。ただ、難癖をつけていると思われるのも嫌なので、そちらでもちゃんと味を確認してもらえませんか?」

アーネスト「いえ、難癖などと滅相もないことです。一樹様を信用しております」

一樹「そうですか。では、俺はアーネストさんを信用しても大丈夫なんですかね?」


アーネストの顔に苦悩の表情が浮かぶ。

なぜ俺がこんな尋問じみたことをしているのか。

事は数刻前にさかのぼる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


コバルト「一樹、これを見よ!」


ロリエルフがよれ気味の下着に白衣という妙な格好で仁王立ちしている。

ちなみにパンツがよれ気味に見えるのはそういうデザインらしい。

俺が下着を買い与える金を惜しんでいるわけではないことは断っておく。


コバルト「一樹よ、わしの肢体が魅力的なのは分かるがパンツを眺めるのは後にせい」

一樹「いや、別にパンツが見たいわけじゃ・・・」

コバルト「パンツでもその下でも後で好きなだけ拝ませてやるから今はこれを見よ!」


コバルトがずいと差し出した試験管には、紫色の液体が入っている。


一樹「なんだ、これは?」

コバルト「毒物反応じゃ!一樹の持ってきたハムル油に入っておった」

一樹「毒物・・・」


毒を盛られるのは想定内だが、アーネストさんがやったのか?

そういうことをする人には見えなかったが・・・。

いや、納品時の様子が少しおかしかった気もする。

誰かに無理やりやらされた?


アルミ「経管吸収で神経系に作用する致死毒です。経皮吸収はされないはずですが、石鹸への加工は推奨できません」


おなじくよれ気味の下着に白衣を羽織った黒髪の少女が補足する。


一樹「けい・・・なんだって?」

コバルト「要は食えば死ぬということじゃ。石鹸に使う分には普通は問題ないが、口に入らんとも限らんし、傷口や粘膜から吸収される可能性もある」

ネオン「石鹸で洗った後で手を舐めても危険にゃ」


補足したねこ耳娘もおなじくよれ気味の・・・以下略。

なんなんだろうね、この研究室。


一樹「わかった。毒を入れられた経緯は探ってみる。油の方は廃棄するしかないか?いや、証拠品としてしばらくは保管が必要かな?」

アルミ「毒物が検出されたのは1樽だけです。残りの2樽は予定通り石鹸に加工可能です」

コバルト「証拠品としての保管は不要じゃろ。魔族が原告ではまともな裁判ができるとも思えんし、わし等が入れたと言われれば否定する術もない」

一樹「そうか」

ネオン「突っ返してやるにゃ!」

一樹「ん?」

コバルト「例の油壺に使おう。ガス状では大した効果はないじゃろうが、念のため味方には煙を吸わんよう注意しておけ」


例の油壺というのは、砦で敵にぶつけるためのものだ。

中に入れる油の調合をコバルトたちに依頼している。


一樹「わかった。一応他のと区別できるようにしておいてくれ」

アルミ「ではドクロマークでも描いておきますか?」

一樹「ああ、そうしてくれ」


ドクロマーク付は通路に投げ落とす分には使えないな。

風向きに注意しつつ、砦の前方に投げる専用にするか。


コバルト「よし!では約束どおりわしらのパンツを眺める時間をやろう!」


いや、アルミとネオンは約束してないだろ。


一樹「いや、せっかくだが毒を入れた奴への対応もしないといけないしね。また今度にするよ」

コバルト「一樹、おぬしは少し疲れておるんじゃないか?」

一樹「いや、そんなことは・・・」

コバルト「体の疲れはダンジョンの魔力で回復するはずじゃが、心の方はそうもいかんからの」


俺の右手に柔らかいものが触れる。

アルミが俺の手をむにむにと揉みしだいている。


アルミ「座ってください」

一樹「あ、ああ」


俺は言われるままに近くに椅子に腰を下ろす。

ネオンが左手もむにむにともみ始める。

心地よい刺激に心がとろけそうになる。


コバルト「いい顔になったではないか。それでよい。今は何も考えず、ぼーっとわしのパンツでも眺めておけ」

一樹「そう、だな。そうするか」


すぐに状況が動くような場面でもない。

5分か10分くらい、こうしておいても問題はないだろう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


二人のハンドマッサージで疲れを癒した俺は、開拓村に戻った。


問い詰めるならしっかりと裏を取ってからの方がよいのだろう。

しかし、今の俺にはそんな技術も時間もない。

アーネストさんが犯人という確証もないし、簡単なテストをしてみることにした。


テーブルの上に置かれたグラスには少量のハムル油が入っている。

毒物の混入に関与していないなら、素直に味見に応じるだろう。

当然だが、グラスには毒は入っていない。


毒がないことまで読んだ上で味見に応じる可能性もあるだろう。

状況次第では毒入りと覚悟の上で口にする可能性もあるか?

いずれにしろ、それなら挙動に何かしらの不自然さはでるはずだ。

先ほどまでのやり取りで、俺の中ではすでにクロと確定している。


アーネスト「もうしわけありません」

一樹「なぜこんなことを?」

アーネスト「ある、やんごとなき御方からの圧力がありまして、一商会主では断り切れませんでした」

一樹「だれです?」

アーネスト「それは、ご勘弁を」

一樹「ここに来てそのやんごとなき御方とやらに義理立てする必要がありますか?誇り高い貴族様が敵をこっそり毒殺なんて、けっこうなスキャンダルでしょう?今この村に2000人の王国兵が向かってますが、どさくさにまぎれてあなたのことも殺す気なんじゃないですかね?」

アーネスト「覚悟の上です」

一樹「なぜそこまでするのです?」

アーネスト「王都には私の妻と息子がいるのですよ」

一樹「あなたが約束に殉じたとして、その貴族様があなたの家族の面倒を見てくれるとも思えませんが?」

アーネスト「ええ。ですが裏切れば確実に殺されます。私に選択肢などないのですよ」


俺がアーネストさんの家族を保護できるならいいんだけどな。

俺の力は『領域』の内側でしか発揮できない。

それに仮に体の安全を確保したとしても、商売は続けられないだろう。


一樹「俺以外の住民たちの分には、毒は入ってないでしょうね?」

アーネスト「ええ、そのはずです。少なくとも、私は入れておりません」

一樹「他にこのことを知る者は?」

アーネスト「うちの従業員は知らないはずです。ただ、護衛の冒険者の方はわかりません。今回は2組のパーティーに護衛をお願いしました。女ばかり3人の『白百合』は過去にも何度か取引があるので信用してよいでしょう。もう片方の4人組は初めて見る顔なのでわかりませんが、あるお方の紹介状を持っていたので無碍にする訳にもいきませんでした」

一樹「例の『やんごとなき御方』ですか?」

アーネスト「いえ、別の方です。もっとも同一派閥の下位貴族ですので、繋がっていると見てよいでしょう」


首謀者は『やんごとなき御方』とやらか。

紹介状という証拠の残る仕事は下の奴にやらせたわけね。

4人組の冒険者はアーネストさんの監視役だろうか?


いや、おそらくそれだけじゃないだろう。

戦いが始まったらきっと村に火をつけるとかして騒ぎを起こすんじゃないだろうか?

そうやって俺たちを混乱させつつ、騒ぎに乗じてアーネストさんを殺す、か?


そいつらは監視を貼り付けておくとして、アーネストさんをどうする?

俺が独力で毒も王国軍も跳ね除けたことにすればいいのだろうか?

いや、毒を盛ったと言う事実が残れば、アーネストさんが責任を押し付けられるのか?


一樹「あなたは毒を盛ったが、俺は気づかなかった、ということにしましょうか」

アーネスト「それは・・・さすがに不自然ではありませんか?」

一樹「油の使い道は食用ばかりではないでしょう?それに、人間の毒が魔族に効くとも限らない」

アーネスト「そう、、ですね。他に手もなさそうだ」


「確かに毒を盛った」という彼の言葉が信用されるかはわからない。

毒のことを彼が密告したから俺が油を他の用途にまわした、という見方もできる。

俺の提案は彼やその家族の安全を保障できる内容とはいいづらい。

まあ、事情はあれど毒殺の実行犯だ、この程度のリスクは負ってもらおう。


一樹「ではその線でいきましょう。差し当たっての問題は例の4人組ですね。おそらく、戦いが始まったら村で騒ぎを起こし、それに乗じてあなたを殺すつもりでしょう」

アーネスト「ええ、考えられますね」

一樹「毒の件を気づいていない態で行く以上、あからさまには動けませんが、不自然でない程度に宿屋周辺の警備は増やしておきましょう」


今はアーネスト商会の3人が村の宿屋に泊まっている。

冒険者2組にはそれぞれ空き家を1軒ずつ宿泊所として提供した。

念のため連携が取りづらいように、できるだけ離れた空き家を選んでいる。


アーネスト「ありがとうございます。ここへは何の用で呼ばれたことにしましょうか?」

一樹「じゃあ、ルビーの件を催促されたとでも言っておいてください。そうだ、あと花の苗をもらえますか?」

アーネスト「どんな花でしょう?」

一樹「大きな樹になるやつがいいですね。人の背丈よりずっと大きくて、春には葉が茂る前に小さな花がいっぱい咲いて、樹全体が花の色に染まる奴が欲しいんです。できれば白かピンクで」

アーネスト「庭園用ということですか」

一樹「それもいいですが、街道沿いに植えたいんですよ。ずらーっと」

アーネスト「なるほど、それは面白いですね。わかりました、探しておきましょう」

一樹「ええ、お願いします」


俺は宿に戻るアーネストさんを見送る。

舞い散る花びらを浴びながら桜並木を歩きたい。

なぜか急にそんな想いが込み上げて来る。


人間相手の戦いってのはどうも面倒だね。

どうせ異世界転生するなら、凶悪な魔物なんかを後腐れなくぶっとばしたかった。

俺TUEEして、賞賛されて、ちやほやされて、女の子といちゃいちゃして。

はあ、、、、めんどくさいな。

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