表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/125

第41話 夜襲

王国軍は谷の入り口あたり、村から1kmほどの位置に陣を置いた。

使い魔から送られてくる映像には、それとは別に3隊の敵が映っている。


1隊目は山の陰、砦からは死角になる場所に100人ほどが集まっている。

フル装備の兵士たちが、明かりもつけずに闇の中で息を潜めている。


2隊目は森の中だ。

街道を東に逸れ、砦の東側を迂回しようとしているのだろう。

だが、人数はわずか8人、一様に黒尽くめで顔は見えない。


そして、いかにも厄介そうなのが3隊目。

街道の脇を、林の影に張り付くように進む黒ずくめの一団が見える。

彼らが静かに運ぶ黒塗りの梯子の長さは背丈のおよそ4倍くらいか?

およそ7~8mほど、うちの砦に登るのにちょうどいい長さだ。

この砦を攻略するためにわざわざ用意したということだろう。


一樹「なるみ、敵本隊はどうなっている?」

なるみ「今のところ動く気配はないっぽいね」


たった150人ほどの戦力でこの砦を落とそうというのか?

それとも、この夜襲は様子見でひと当てしようというだけか?

明日の本戦の前にこちらを寝不足にしようとしているとも考えられるか。


或いは、奇襲の成功率を上げるために敢えて本隊は動かさない、か。

今夜は戦う気はありません、というポーズを見せているわけだ。

もっとも、奇襲部隊はこっちに丸見えなんだがな。


一樹「せっかくだからカウンターを狙って引き付けてから叩こう。ジェシカ、鬼族に伝令だ。静かに屋上に上がり、向こうから見えない位置で待機するよう伝えてくれ」

ジェシカ’「はっ!」

一樹「山中の別働隊は、他と十分離れてからゴブリンをぶつけよう。東側に配置したゴブリン全部で一気に畳み込む」

なるみ「おっけー」

一樹「秋風、春風、お前たちも行けるか?」

秋風「はい」

春風「行けます!」


秋風と春風は忍者、砦の防衛線に適した兵種ではない。

しかし、今後のために少しでも戦闘経験は積ませておきたい。


一樹「無理はするなよ。直接の戦闘はゴブリンに任せて、援護に徹するんだ。危なくなったらすぐに撤退しろ。いいな?」

秋風・春風「はい」


ゴブリンソードマンの剣術スキルはそれなりに上がってきているはずだ。

それでも、人間との体格差による不利は簡単に覆せるものではない。

だが、それも明るい平地で戦った場合の話だ。

夜の森という条件はゴブリン側に大きく有利に働くだろう。


1対1ではまだ厳しいかもしれないが、今回は敵8人に対し25体。

さらに25体のゴブリンアーチャーの援護もある。

ダメ押しで忍者娘2人の援護もつける。

さすがにこれで負けるということはないだろう。


俺は村の北側の拠点を出て南側の砦の屋上へと向かう。


さて、敵の作戦はどんなものだろうか?

まず黒尽くめがなんとかしてこっちを引っ掻き回すんだろう。

そして、その隙をついて後続の100人が砦に肉薄する作戦か。

だが、どうやってこっちを引っ掻き回す?

夜に黒装束とはいえ、真正面から突っ込んで梯子をかけられるのか?


なるみ「かずきおにぃちゃん、火事だよ!例の4人組が火を点けたみたい」

一樹「尻尾を出したか。貼り付けていたエイミーと鬼族で対応しろ。殺していい」

なるみ「らじゃっ!」


この状況での放火なら、殺されても文句はあるまい。

アーネストさんの護衛はパーティー『白百合』の3人に頼んである。

村のほうは任せて大丈夫だろう。


なるみ「かずきおにぃちゃん、敵が動いたよ!」


黒塗りの梯子を担いだ黒尽くめの一団が地面を滑る様に砦に迫る。

かすかな音を立てて梯子がかけられると同時に後方の男たちが駆ける。

わずかな助走で梯子に飛びつくと、ものの数秒で駆け上がった。


速い!しかし、、、

砦の屋上に降り立った黒尽くめを、待ち構えていた鬼族が一刀の下に切り伏せる。

続いて登ってくる敵の兵士たちを鬼族の戦士たちが黙々と切り捨てていく。

相手の黒尽くめは奇襲と速攻に特化した軽装の兵士たちだ。

真っ向勝負ではフル装備の戦士に対抗するのは難しいだろう。


遠くから金属のぶつかる音がする。

山陰に隠れていた部隊が砦に殺到しようとしている。

隠密行動はここまでということか。


カラリとガラスが石にぶつかる音がした。


鬼族「閃光!」


刺すような光が俺の両目を襲う。

その隙に敵の黒尽くめたちが次々を梯子を登って来るのが気配で分かった。

間近で金属のぶつかり合う音が響く。


おぼろげに見えてきた視界の中に、鬼族たちが敵兵士を抑えているのが見える。

最近まで奴らと戦って居ただけあって、鬼族たちは反応が早いようだ。


一気に数が増えた黒尽くめが、そこかしこで鬼族の戦士と切り結んでいる。

もっとも、多少数が増えたところで、装備と体格の差は大きい。

屋上の敵兵士を殲滅するのにそう時間はかからないだろう。


だが、それは相手も承知のこと。

すでに後続の部隊が砦に取り付き、梯子に足をかけている。

黒尽くめのような速さはないが、しっかりとした鎧と武器を装備している。


一樹「壷を落とせ!」


俺は黒尽くめを棍棒で叩き伏せながら指示を飛ばす。

鬼族たちの刃渡り3尺の太刀と比べると全長60cmの棍棒は頼りなく見える。

だが、普通の人間を相手にする分にはこれで十分だ。


梯子を上る敵兵士の直上から、油の詰まった壷を叩きつける。

直撃した兵士が落下し、後続の兵士と梯子が油に濡れる。

壁に埋め込まれたゴーレムたちが火を噴いた。

梯子は炎に包まれ、取り付いていた兵士たちが転げ落ちていく。


突如、白い霧が敵兵士たちを包み込んだ。

ゴーレムの噴く炎が白い霧に弾かれる。

炎魔法のための防御魔法か?


砦に次々と追加の梯子がかけられる。

霧の向こうから怒号が聞こえてくる。

どうやら敵の本隊も迫ってきているようだ。


どうにも切りがないな。

このまま本格的にぶつかり合うのは御免だ。

この日のために準備した魔法を披露するとしよう。


一樹「砂塵よ、わが敵を抱いて踊り狂え!サンドストーム!」


縦横に吹き荒れる砂混じりの嵐が王国の兵士たちを包み込む。

名前を聞けば分かるだろうが、やすりの様に無数の砂粒を叩き付ける魔法だ。

普通の魔道師なら対象は1人、広範囲だと目潰し程度にしかならないらしい。

だが、潤沢な魔力の供給源を持つ俺なら広範囲にそれなりの威力で展開できる。


戦場では敵は殺すより戦えない程度に負傷させた方がいいと聞いた。

負傷兵は手当てや介助を必要とするし、水や食料も消費する。

殺せば戦力的には1が0になるだけだが、負傷ならマイナスにできる。


そして何より、殺さずに済むならその方が俺の気が楽だ。

敵兵だって、生きて帰れば治療が済み次第元の生活に戻れるだろう。


命の心配はないが戦えない程度の負傷、となると手足の骨折辺りが理想だ。

しかし、大人数が相手ではそうそうピンポイントでは狙えない。

腕が折れる程度の攻撃を広範囲にばら撒けば、けっこうな死人が出るだろう。


そこで考えたのがこのサンドストームだ。

盾や鎧を貫通することはできないが、無数の砂粒を防ぎきるのは難しい。

手足にひどい擦過傷を負えば、やはり戦闘継続は難しいだろう。

顔面に直撃すればむごいことになるだろうが、そこは頑張って防いで欲しい。


嵐が収まると、街道は一回り広くなっていた。

予想はしていたが、街道沿いの木々にもけっこうなダメージが行ったようだ。

この戦いが収まったら、ちゃんと整備して植樹とかしないといけないな。


敵兵士たちのくぐもったうめき声が聞こえる。

暗くてちょっと分かり難いが、想像していたよりもけっこう「赤い」か。

擦過傷だからダメージ範囲が広くても傷が深いとは限らないけどな。


一樹「武器を捨てて立ち去れ!すぐに街に戻って清潔な環境で養生すれば回復するだろう。しかし、戦場にとどまれば苦しんで死ぬことになるぞ」


せっかく手加減してやったんだ、敗血症で大量死なんてのは勘弁してくれよ。

あれ?負傷兵が素直に帰ったら、マイナス戦力にはならないのか?

まあ、殺さずに敵戦力を減らせるなら、それはそれで良しとするか。


屋上の黒尽くめの掃討はすでに完了している。

こちらの損害は軽微、数人の鬼族が軽症を負った程度だ。

敵さんも短刀1つでフル装備の鬼族の戦士と戦うなんて無謀なことをするものだ。

まあ、向こうとしてはそういう予定ではなかったのか。

それに、後続の部隊が間に合っていれば結果も違っていたのだろう。


そういえば、東から迂回した別働隊がこっちの横腹を突く予定もあったんだっけ?

やっぱり索敵って大事だね。


一樹「なるみ、森の中の連中はどうなった?」

なるみ「敵は全部やっつけたよ。けど、こっちも損害が大きくて、ゴブリンソードマンが12体、ゴブリンアーチャーが3体やられちゃった」


あの条件でゴブリンソードマンが半分もやられただと?

相手は相当な手錬だったと言うことか?


一樹「秋風と春風は無事か?」

なるみ「大丈夫。秋風ちゃんが少し怪我をしたけど、もう回復したよ」


秋風が負傷だと!?

嫌な予感はしていたが、もっと慎重に行くべきだったか?

いや、今後のためにも戦闘経験は積ませなければならない。

心苦しいが多少の怪我は覚悟してもらわなければ。


一樹「わかった。ゴブリンは補充しておいてくれ」

なるみ「うん、わかった」

一樹「卯月と皐月を屋上へ。鬼族たちの治療を頼む」

なるみ「もう向かってる。すぐに着くよ」

一樹「そうか。例の4人組はどうなった?」

なるみ「全員やっつけたよ。こっちの損害はほぼなしだね」

一樹「それはよかった」


敵本隊が後退していくのが見える。

眼下では負傷した兵士たちが足を引きずりながら立ち去ろうとしている。

戦死者と動けないものは置き去りか。


こっちで回収して治療するしかないな。

とは言っても、まだ敵が近いから門を開けるわけにも行かない。

少し時間を置いて、敵が十分に遠ざかるのを待つとしよう。


ん?そうすると、この負傷兵たちはこっちのマイナス戦力になるのか?

やられた!敵とはいえさすがに眼前の負傷兵を放置するわけにもいかない。

死なない程度に治療したら、早々につき返してやらなくては。


それにしてもこうもあっさりと負傷兵を置き去りにするとはね。

だが、その非情さのおかげで敵である俺がこうして困っているわけだ。

戦場では俺ももっと、こういった非情さを持つ必要があるのだろうか?

このまま、この負傷兵たちを見殺しにすべきなのか?


いや、それはできない。

人として、その選択肢は有り得ない。


今俺を困らせているのは、敵の非情さというより狡猾さなのかもしれない。

敵の砦の眼前では、負傷兵を置き去りにしても言い訳のしようはある。

だが、俺が彼らを見殺しにすれば、敵味方双方から非難を受けることになる。

敵は自らの評価を落とすことなく、俺に負傷兵を押し付けることに成功したのだ。


鬼族「一樹殿、奴らをどうします?敵とはいえ、放って置く訳にもいきますまい」

一樹「それを今考えているところだ。どの道、敵が十分遠ざかるまでは門を開けるわけにはいかない。少し時間をくれ」

鬼族「わかりました」


さて、どうする?

どこまでが奴らの計算だ?

負傷兵を押し付けるところまで計画していたなら、スパイも紛れ込んでいるだろう。

例の4人組のように、今後の戦闘中に村の内部で暴れられたら厄介だ。


それでなくとも、この村には牢のような施設はない。

即席の捕虜収容所で住民たちの安全が確保できるのか?

いや、それ以前に建物の絶対数が足りない。

なんとしてでも突き返してやる以外に方法はない。


一樹「王国の負傷兵たちよ!これからそちらに行くが、心配する必要はない。諸君らを殺すつもりはないし、拘束するつもりもない。仲間のところへ帰って欲しいだけだ。そのためにこれから簡単な治療を行う。どうか抵抗せず、大人しく従って欲しい。諸君らと戦場でまみえるのは今回が最後であることを祈っている。健やかであれ」


俺は魔法で拡張した声で敵兵たちに呼びかけた。

変に気取った言い回しになってしまったか?

けど、あんまり砕けた言い方も変だし、こんなもんだろ?


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


馬の代わりに簡素なゴーレムが引く馬車(?)が夜の街道を南に進む。

馬車はアーネストさんが食料を運ぶのに使ったものを買い取った。

馬を渡すのは嫌なので、使い捨ての簡易ゴーレムに引かせている。


荷台に乗っているのは死なない程度に応急処置した負傷兵たちだ。

馬車が王国軍陣地の手前まで進むと、ゴーレムが俺の声を大音量で流す。

負傷兵を突き返すついでに、休眠中の兵士たちを叩き起こそう。


一樹の声「王国の兵たちよ!置き去りにされた負傷兵たちをお返しする。簡単に手当てはしておいたが重傷だ。しっかりと治療してやるといい。馬車はくれてやる。負傷兵の後送に使え。戦死者たちについては・・・」


灼熱に焼けた岩塊がゴーレムに直撃して爆ぜた。


王国兵「王国軍の勇士達よ!魔族の奸計に惑わされるな!我等は決して仲間を見捨てたりはしない!置き去りにされた負傷兵などいるはずがないのだ!そして魔族は、見た目が人間そっくりの魔物を作り出すことができる。それによって置き去りの負傷兵をでっち上げて諸君らの動揺を誘い、魔物を潜り込ませようとしているのだ!王国軍の勇士達よ!魔族はかくも卑劣な存在である!我ら人類が、諸君らの家族が、安心して暮らせる世界のために、今こそ奮起しようではないか!王国に栄光あれ!」


芝居がかった演説に、各部隊の指揮官らしきもの達が呼応する。

次第に喚声が王国軍を包み込んでいく。

どうも、見通しが甘すぎたようだ。


それはそうと、人間型ガーディアンを作れることは知られているらしい。

やつ等はダンジョンの情報をどこまで掴んでいるんだ?

こちらの手の内は知られていると考えておいた方がいいのかもしれない。


そうなると、結局力押しになるかね?

面倒くさい。

つくづく面倒くさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ