表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/125

第28話 奪還作戦

鬼族主導で作った敵兵士の墓は、盛り上がって小さな塚になった。

中央には1mちょっとの岩が置かれ、その後ろに2本のサクラの苗を植えた。

先日の斥候たちの墓のすぐ後ろだ。


武器と鎧は外して回収してある。

この世界ではまだ金属はそれなりに貴重だし、土に還る物でもない。

なにより、死出の旅に武具を着けていくのは無粋というものだろう。

個人を特定できるような遺品も回収しようかとも思ったがやめた。

名前も知らない故人の遺族に渡せる当てもない。


死人といえば、俺のダンジョンでもそれなりに出ているようだ。

金目のものだけ回収した後は、ダンジョンが吸収して土に還している。

どちらも俺たちの命を脅かす敵という意味では変わりはない。

ただ、冒険者たちは自分の意思で俺のダンジョンに侵入している。

対してこの兵士たちはおそらく権力によって強いられた犠牲者だ。


冒険者たちもなにかしら事情があってのことかもしれない。

また、事情に関わらず死者は弔うべきものだとも思う。

しかし、侵入者を俺が弔うのはなにか筋が違う気がする。

彼らだって『魔族』より自分の家族や友人に弔われたいだろう。


そういえば初めて人を殺した時ほどの気分の落ち込みはない。

慣れてしまったのだろうか?いや、アウラエルのおかげだろう。

止めを刺したのが魔法だけだから、実感が薄いということもあるかもしれない。

接近戦での止めをガーディアンたちにやらせるのは我ながらずるいやり方だ。

もっと激しい戦いになればそんな二度手間の余裕もないだろう。


いけない。また思考が沈み始めている。

アウラエルの言うとおり、努めていつもどおりに行動しよう。

ヤブツバキを植えるためにさらに10アールほどの開墾を指示する。

とりあえず250本、1本あたり2m四方という計算だ。


あとはキノコ部屋の件をどうしよう?

手入れや収穫に鬼族の手を借りるために入り口付近に作るか?

しかし、高温多湿の環境はキノコだけでなくカビも発生しやすくなる。

居住エリアのすぐ近くというのは問題があるかもしれない。


カエデ「一樹!ちょっと話がしたい」


カエデとカシが俺を呼んでいるようだ。


一樹「どうした?」

カエデ「実は、頼みたいことがあるのだ」

カシ「まずは強行偵察部隊の撃退、お疲れ様でした。これでしばらくは向こうも手を出してこないでしょう」

一樹「カシの予測のおかげで助かったよ」

カシ「当たって欲しくない予測でしたがね。あまり兵を大事にする御仁ではないようで」

一樹「そのようだな。それで、頼みというのは?」

カエデ「奪われた村を取り返したいのだ」

カシ「村に居座る兵力は多くはないのですが、背後にある本陣を叩かなければいたちごっこになります」

一樹「なるほど。俺たちは『領域』の外では戦えないが、どうしたらいい?」

カシ「敵の本陣はあの丘の向こう、ここから二里半ほどの場所にあります。村の安全を確保するためには、そこに駐屯する500人ほどの部隊を後退させる必要があります」

一樹「『聖域』からの距離は?」

カシ「十二町ほどです」

一樹「つまり、俺がそこまで『領域』を拡張し、撃退戦に加勢すればいいわけか」

カシ「はい。ただ、基本的には我々鬼族が戦います。『聖域』側から兵を進めれば、ぶつかるのは敵本陣より『聖域』寄りの場所になるでしょう。一樹殿には後方の撹乱をお願いしたいのです」

一樹「わかった。今回は殲滅の必要はないんだな?」

カシ「ええ、敵の撃退が目的になります。包囲して死兵になられても面倒ですしね」

一樹「それなら少しは気が楽だな」

カエデ「相手は敵本隊だ。油断はしないでくれよ」

一樹「ああ」

カシ「無理にぶつかる必要はありません。これは我々の土地を取り戻すための戦いです。期待していないと言っては語弊があるかもしれませんが、基本的には我々の力のみで戦うつもりでおります。ゴブリンアーチャーで矢を射掛けるなどして敵の足並みを少しばかり乱して頂ければそれで十分です」


ジェシカたちを500人もの軍勢に突っ込ませるのは論外だ。

しかも主戦場が『領域』の外とあってはできることは少ない。


一樹「わかった。できる限りの援護はするつもりだが、大したことはできないかもしれないな」

カシ「問題ありません」

一樹「決行はいつになる?」

カシ「敵の動きにもよりますが、今のところ1週間後を予定しております」

一樹「1週間後・・・」


『領域』を細長く拡張すれば10km先でも数日で到達できるだろう。

主戦場は『領域』の外だが、敵陣地に『領域』をかぶせることはできる。

当日に何もできないなら、事前になにかできることはないだろうか?


一樹「承知した。なら、準備が出来次第夜襲を繰り返して、本番前に敵を疲れさせるのはどうだろう?」

カシ「それは有効かもしれませんね。では、クヌギ様にはそのように伝えておきます」

カエデ「ではその夜襲、私も参加しよう!」

一樹&カシ「駄目だ(です)」

一樹「危険だ。お前のような若い娘が敵に捕まったらどうなる?それに、10kmもの山道を毎晩往復するなんて生身では無理だ」

カシ「我々にはこの地に非難している民を守るというお役目があります。兵が勝手に持ち場を離れては軍は成り立ちません」

カエデ「むぅ。それをいうなら、一樹の手勢は若い娘ばかりではないか!」

一樹「今回は彼女らは使わない。カシの言うとおり今回はゴブリンメインでいくつもりだ。やつらなら不眠不休で問題ないし、昼間は茂みの中にでも潜ませておけばいちいち帰る必要もない」

カシ「カエデ様、現状で我々と一樹殿の共闘は王国軍には知られていないはずです。しかし、夜襲に鬼族が加わればいろいろと感づかれてしまうでしょう」

カエデ「鬼族と交戦中の部隊をゴブリンが襲撃すれば同じことではないのか?」

カシ「疑いはするかもしれませんね。しかし、この辺りではゴブリンの襲撃はそう珍しいものではありません。確信には至らないはずです」

カエデ「しかし、そのような危険な任務を一樹たちだけに押し付けるというのはどうなのだ」

カシ「そこは確かに気になるところではありますが、クヌギ様が判断されることです。それにこちらから戦力を出すとしても一樹殿のゴブリン部隊とは別行動になるでしょうし、人員は隠密行動の訓練を受けたものの中から選ばれるはずです」

一樹「カエデ、同盟を結んだ以上は共に戦う覚悟はしている。それに今回の俺たちは役目はあくまで補助的なものだ」

カシ「一樹殿、頼んでおいて言うのもなんですが、くれぐれもご無理はなさいませんように」

一樹「ああ、そうさせてもらおう」

カシ「カエデ様、我々は我々の務めを果たしましょう。さしあたっては伝令をお願いします。クヌギ様に今の一樹殿の提言についてお伝えください」

カエデ「分かった。行ってくる」

一樹「気をつけてな」

カエデ「こっちの台詞だ!」


少し頬を膨らませながらもカエデは素直に駆けていく。

無茶をしないか心配だが、あの分なら大丈夫そうか?


なるみ「今日もゴブリン?」

一樹「まだ検討中だ」


俺は拠点に戻って召喚アプリを起動した。

さて、夜襲にはどんなモンスターが最適だろうか?

ゴブリンアーチャーの弓は射程が短いという問題点がある。

待ち伏せするならいいが、拠点への攻撃には不向きだ。


ジェシカや睦月たちではすぐに敵に囲まれてしまうだろう。

偶発的なモンスターの襲撃を装うという話とも離れてしまう。

オーク兵を50体ほど突っ込ませれば効果としては十分だろう。

しかし、それを使い捨てにできるほどの余力はさすがにない。


そういえば、鬼族にはこっちからはゴブリンが行くと伝わっているのか。

鬼族の隠密部隊と現地で鉢合わせる可能性も考えなければならない。

まだ訂正の余裕はあるかもしれないが、基本ゴブリンで検討するべきか。

本格的に戦闘をするわけではないし、騒ぎを起こすだけなら十分だろう。

なら、今回は先日召喚した40体を使いまわせばいい。


なるみ「お、アルケミスト?」

一樹「石鹸を作らせたいんだが、アルケミストでいいのか?」

なるみ「うん、だいじょうぶ。香り付けもしたいならハーバリストもいたほうがいいかも」

一樹「ならそっちも近いうちに召喚しないとな」

なるみ「うんうん」

一樹「それはいいとして・・・」


アルケミストはどういうわけか皆よれ気味の下着に白衣を羽織った格好だ。


一樹「なんだこの格好は?」

なるみ「なんというかこう、研究に没頭するあまり服装に無頓着なサイエンティストって感じ?」

一樹「スカートも履かないのか。これじゃ人前に出せないだろう」

なるみ「だーいじょうぶ!白衣の前を閉じれば分かんないって」

一樹「あのな・・・っつか、わざわざよれ気味にする必要があるのか?」

なるみ「真新しいぱんつもかわいいんだけど、たまにはこういうのも生活感があっていいかなーって。どう?」

一樹「いや、わからん」

なるみ「むー。どうしても気になるっていうんなら、かずきおにぃちゃんがプレゼントするのもいいんじゃないかな?真新しいかわいいぱんつ」

一樹「いや、それは・・・」

なるみ「ブラは60のAだよ」

一樹「まあ、これはこれでかわいいかもしれんな」

なるみ「わかればよろしい!」


特に人目につく仕事でもないし、容姿に特に制限はないか。

基本的に頭脳労働だから体も小さくて問題ないだろう。

召喚コストは普通にかかるが、体が小さいと維持コストは少なくてすむ。

子供の姿は産業スパイ対策としても面白いかもしれない。


一樹「この3人にしよう」

なるみ「おっけー!」

一樹「召喚実行」


ターンッと中指の腹でリターンキーを弾く。

中空に光の繭が現れ、少女の裸体が浮かび上がる。

ゆっくりと回転しながら胸に虹色の光が走る。

小さな胸をブラジャーが包むと、今度は腰に虹色の光。

同じく小さなおしりをちょっとよれ気味のパンツが包む。

最後に全身を虹色の光が包み、服もとい白衣を完成させる。


一樹「名前はコバルト、アルミ、ネオンだ。よろしく頼む」

コバルト「うむ、よろしく頼むぞ」

アルミ「よろしくお願いします」

ネオン「よろしくにゃー」


コバルトはエルフ型、アルミは『魔族』型、ネオンはねこ耳だ。


一樹「一応代表者を決めておこう。コバルト、お前が主任研究者だ」

コバルト「わしか。わかった、任せておけ」


技術指導など、外部と話す機会があればコバルトにやってもらう。

長命種のエルフなら、子供の姿でも違和感は少ないだろう。


一樹「まずは石鹸を作って欲しい。領民全員が日常的に使えるような、安くて大量に安定供給できる石鹸だ。それがある程度形になったら、改良を加えつつ並行して貴族向けに見た目や香りのいい石鹸も作っていって欲しい」

コバルト「わかった。では、わしらの研究所を見せてくれ。あと、油の種類ごとに近隣の生産量と価格のデータも欲しい」


しまった、人間族の街の商業データはまったく把握していない。

それどころか、通商もまだ実現の目処が立っていない。


一樹「油の生産量とかについてはおいおい調べておく。近くの街で買える油については何種類かサンプルを用意しておいた。あと、椿油は自国で生産していく予定だ」

コバルト「安くで安定供給というオーダーなのに原料の供給データが無いのはやりにくいのー」

一樹「すまん」

コバルト「とりあえず今あるサンプルで試作してみよう。それで、研究室はどこじゃ?」

一樹「すまん、それもまだだ」

コバルト「なんじゃと?」

一樹「とりあえず、上の屋敷のキッチンを使ってくれ」

コバルト「キッチン?アルケミストを3人も集めておいてキッチンじゃと!?」

一樹「あー、すまん。研究室は近いうちに必ず作る」

コバルト「頼りないスポンサーじゃのう。まーやれるだけやってみよう」

一樹「ああ、頼む」


コバルトがひらひらと手を振りながら部屋を出て行く。

アルミがぺこりとお辞儀をしてそれに続く。


一樹「あー、外部の人間が居るときは前を閉じてくれよ」

アルミ「わかりました」

ネオン「了解にゃん」


なかなか癖の強いのを喚んでしまったようだ。

いや、実際に計画性がなさすぎたのは否定できないか。


さて、研究室をどうしたものか。

化学実験をするなら地下室ではなく通気性のよい地上がいいだろう。

しかし、地上への階層拡張は地下へと比べて魔力消費が桁違いに大きい。


鬼族への支援準備が必要な今、あまり大きな出費はできない。

石鹸作りは鬼族の戦いが一段落した後でも問題ないだろう。

待て、それを言うならなぜ今アルケミストだったんだ?

戦闘準備を最優先しなければならないこのタイミングでなぜ?

まさか、無意識に戦闘準備を避けていた?


落ち着け、今回は殺す必要はないんだ。

少なくとも「俺は」、誰も殺さなくていいんだ。

鬼族も人間族も、できるだけ死なないでいい方法を考えよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ