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第27話 襲撃

石の鏃が兵の頬に傷をつけた。

矢を放ったゴブリンアーチャーは即座に遁走する。

腐肉を塗りつけた矢での傷はじきに腫れ上がることだろう。


カシの予測どおり、50人ほどの部隊が山頂の屋敷に歩を進めていた。

進軍速度は地図上で時速1kmほど。

起伏の激しい地形、獣道しかない山の中での行軍だ。

加えて慣れない鎧に身を包み、腰に剣をぶら下げた状態では足も遅くなる。

現在は山の麓、山頂まではまだ地図上で1kmほど離れている。


発見したのは天使族のアウラエルだ。

俺のガーディアンは『領域』内なら不眠不休で見張りができる。

しかし、『領域』を出れば逆にほとんど活動ができなくなってしまう。

外敵への警戒に、空を飛べる味方がいるのは心強い。


俺はゴブリンアーチャーで散発的な攻撃を繰り返す。

ゴブリンの矢などよほど当たり所が悪くなければ致命傷にはならない。

例によって疲労とストレスを与え、撤退を促すのが目的だ。

進むごとに攻撃頻度を上げ、「ゴブリンの縄張りに入り込んだ」と思わせたい。


山歩きを見越してか、比較的軽装なので手足を狙えば傷はつけられる。

兵士たちが背に担いでいた盾を手にして周囲を警戒し始める。

ただでさえ遅かった進軍速度がさらに遅くなる。


山頂の屋敷では鬼族が迎撃の準備を始めている。

屋敷の屋上と左右には木製の盾が並べられている。

その後ろでは避難民の男衆が槍を手に待機している。

キキョウは弓を、ケヤキは長巻を手にして戦闘に備える。

彼らの指揮はカシが執るようだ。


カエデはダンジョン入り口の守りを担当してもらう。

ダンジョン1層が鬼族の避難所になっているからだ。

主戦場を離れることに不満そうではあったが、これも大事な役目である。


俺のガーディアンたちも配置につく。

睦月、如月、弥生は屋敷の屋上、卯月、皐月は屋敷の東側で待機する。

秋風、春風、海風、島風の忍者組は敵を挟むように森の中に潜ませておく。

ジェシカとエイミーはいつもどおり屋敷の警護、夏風、冬風はダンジョンに残す。

生産系のガーディアン(?)は作業を中止してダンジョンに退避してもらった。


敵の兵士たちは歩みを止めずにじわじわとこちらに近づいてくる。

すでに20人ほどが負傷し、数人の傷は大きく腫れているはずだ。

疲労に加え、一方的に攻撃され続けてストレスも溜まっているはず。

隊長に負傷させられればもっと消極的になってくれるかもしれない。

しかし、隊の中央辺りを歩く隊長らしき兵はなかなか狙いにくい。


敵部隊が屋敷から500m地点に差し掛かる。

相手がここを超えてきたら、『撃退』から『殲滅』に切り替えなければならない。

俺が魔法で隊長を狙撃すれば追い返せるだろうか?

それをやると「ゴブリンの縄張り」でないことを知らせてしまうことになる。

情報を持ち帰らせないことが目的のミッションでは本末転倒か?


敵部隊が屋敷から500m地点を通過する。

その背後で、ゴブリンソードマンが静かに包囲網を閉じる。

兵士50人にゴブリン20体をまともにぶつけても勝ち目はない。

彼らはあくまで足止め役、攻撃するのは俺とくのいち部隊の役目だ。


兵士たちが山頂の屋敷に近づいていく。

キキョウの放った矢が兵を掠めて通りすぎる。

二射、三射とわざと外して矢を放つ。


睦月やケヤキたちは少し後方で身を低くして待機している。

山の勾配と森の木々、並べた木製の盾が敵の視界を遮っている。

敵に見えているのは小さな砦と腕の悪い射手、腰の引けた農兵2人のはず。

こちらはすでに『殲滅』モード、敵を挑発しているのだ。


敵部隊はそのままじわじわと数十mまで距離を狭めていく。

どうやら戦うつもりでいるようだ。


指揮官「突撃ー!」


指揮官の号令に、敵の兵士たちが俺の屋敷に殺到する。


一樹「ストーンバレット!」


俺は背後から石の弾丸で敵の指揮官を狙撃した。

これでもう撤退命令を下す者はいないわけだ。


睦月「フリーズアロー!」

弥生「マジックシールド!」


茂みに隠された低い柵が敵兵士の足を取り、速度を鈍らせる。

キキョウの矢が一射ごとに確実に敵を屠って行く。

敵の矢は高低差と木製の盾に阻まれてなかなか届かない。

数人の敵魔道師の攻撃は弥生がうまく防いでいる。


屋敷に迫る敵兵士は、鬼族の農兵が柵の中から槍で牽制している。

負傷した者は、下がればすぐ後ろで卯月と皐月が治療しているはずだ。

柵の両端はケヤキとジェシカ、エイミーが抑えている。


樹上から飛び降りた秋風の短刀が敵魔道師の喉に食い込む。

短刀はそのままに即座に身を翻して茂みの中に消える。


一樹「ストーンバレット!」


秋風を狙う射手を念のため倒しておく。

続けて敵の魔道師、射手を中心に攻撃していく。

樹上からは春風たち、左右からはゴブリンアーチャーも攻撃を加えている。


疲労困憊の上、指揮官を失い、前後左右に加え上からも攻撃される敵部隊。

数は劣るものの、準備万端でこれを迎え撃つ鬼族と俺たち。

カシの推測によれば相手は様子見の捨て駒部隊、敵ながら哀れではある。

しかし、カシによれば情報を持ち帰らせないために『殲滅』が望ましい。

もう決めたことだ、やらなければ。


総崩れとなり、逃げ出そうとする敵兵士をゴブリンソードマンが阻む。

まともにぶつかれば突破されるのだろうが、頭上から島風たちの攻撃も加わる。

ぶつかり合って混戦となった場所には俺が割ってはいる。

俺が棍棒で敵の肩を砕き、足を折って回ると、ゴブリンたちが止めを刺していく。


見ればキキョウが武器を薙刀に持ち替えて敵を追い立てている。

左右にはケヤキとジェシカ、エイミーの姿も見える。

包囲殲滅作戦はそろそろ完了のようだ。


一樹「なるみ、味方の被害状況は?」

なるみ「ゴブリンソードマンが6体と、ゴブリンアーチャーが2体やられたね。鬼族が何人か怪我したみたいだけど、全員軽症で治療済み。後遺症もなさそうだよ」

一樹「それだけか?」

なるみ「あとは、森が踏み荒らされたこととか、柵が壊されたこととかかな」

一樹「そうか。討ち漏らしはないか?」

なるみ「たぶん。補足した敵は全員倒したよ」

一樹「ならひとまず終了かな。おつかれさま」

なるみ「おつかれさまー!後片付けはゴブリンたちでやっておくから、おにぃちゃんは休んでて」

一樹「ああ、頼む」

なるみ「おっけー!」


鬼族たちが勝鬨を上げている。

俺も右腕を上げて応えながら、拠点に戻った。

「魔族の下級兵」の衣装を脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。


血の匂いがしているのは俺の手だろうか?鼻腔の方か?

何度か鼻をかんでいるうちに、鼻腔に血が滲むのを感じる。

これではもう分からない。


ゴブリンアーチャーの数をもっと増やせばよかったのだろうか?

あるいはゴブリンじゃなくてオークにすればよかったか?

負担は大きいがオーク兵を50体並べることもできなくはない。

いや、それじゃ撃退できても本格的に討伐軍を派遣されてしまうか?


コンコンッと浴室のドアがノックされる。


少し前から女性型ガーディアンが日替わりで俺のシャワーに入ってくる。

最近は全裸での近状報告まで加わるようになった。

今日はだれだろうか?こんな日にまで律儀なことだ。

まあ、気を紛らわすにはちょうどいいのかもしれない。


一樹「どうぞ」


まずは浴室のドアを全開にして服を脱ぐところからだ・・・ん?


一樹「ど、どうしたんだ?」


姿を現したのは全裸のアウラエルだった。


アウラエル「皆さんいつもシャワーに呼ばれているようでしたので。ダンジョンの守り手の一員として、私も参加させて頂こうかと思いまして」

一樹「そ、そうなのか。いや、別に無理はしなくていいんだぞ」

アウラエル「無理などと。この身はすでに主様に捧げたもの。好きにしていただいてかまいません。それに・・・」


アウラエルが浴室に入り、俺の胸に手を当てる。


アウラエル「主様はどこか不安そうです」

一樹「そうか」

アウラエル「慣れるものではありませんよ」

一樹「ああ、そうなんだろうな」

アウラエル「こういうときは努めていつもどおりに過ごすといいですよ。いつも、シャワーで何をしていますか?」

一樹「体を洗っている」

アウラエル「互いの体を?」

一樹「ああ、そうだ」

アウラエル「こうですか?」


アウラエルが前から手を伸ばして俺の背中をこする。

柔らかいものが俺の胸に当たる。いや、当てられている。

アウラエルの細い指が俺の尻に食い込むのが妙にこそばゆい。

続けて前のほうを洗い終えると、改めて胸を押し付けてきた。


アウラエル「今度は私のほうをお願いできますか?」

一樹「ああ、分かった」


アウラエルの背中を洗い、さらに下のほうに手を伸ばしていく。


一樹「こういうことをするのであれば、石鹸が欲しいな」

アウラエル「石鹸ですか。買ってきましょうか?」

一樹「あるのか?」

アウラエル「ええ、人間の街に行けば売られていますね」


そういえばデイジーも石鹸がどうとか言っていたか。


アウラエル「貴族の嗜好品ですね。1つで銀貨1枚ほどでしょうか。庶民が気軽に買えるものではありませんが、特別高額というほどでもありません」


銀貨1枚というのはどの程度の価格だろうか?

女の子といちゃつくとき用ならちょっと高いものでもかまわない。

しかし、本来の用途である体の洗浄に関してはそうもいかない。

単にさっぱりするというだけでなく、伝染病や食中毒の予防のために有効なものだ。

俺が作る街では、庶民が気軽に日常的に使えるものにしていかなくては。


アウラエル「なにか思いつきました?」

一樹「ああ、石鹸を作ろうと思う。金を渡すから、街で人気のある石鹸をいろいろ買ってきてくれ」

アウラエル「承知しました。明日にでも行ってきますね」

一樹「ああ。あと油も何種類か頼む」

アウラエル「はい」


庶民向けの石鹸が出回っていないのであれば、それは商機になりそうだ。

そういえば、この世界には病原体となるウイルスや細菌はいるんだろうか?

仮に居たとして、地球のそれと同じように石鹸で退治できるのか?

森や川を見る限りでは生態系は地球とそう大きく変わらないっぽいか?


石鹸は確か油と灰汁を混ぜて乾燥させるんだったかな。

細かい製法が分からないし、製品開発ならいろいろ試す必要がある。

俺が直接いろいろやるより、だれか任せられる人間を探したほうがいいか。

召喚アプリにアルケミストというのがいたが、あれでいいんだろうか?


アウラエル「主様、お先に失礼しますね」

一樹「ん?ああ、わかった」


アウラエルの姿が脱衣所に消える。

右手には彼女のおしりの感触の余韻が残っている。

しまった、ちょっと惜しいことしちゃったかな?

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