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第19話 ジャイアントボア

鬼族に提供する住居のために、まずは全力で『領域』を拡張する。

といっても、俺は1日数回マウスをポチポチするだけだ。

魔力が溜まるのを待つ間、それ以上やれることはない。


待っている間に食料提供の準備を進めよう。

ジャイアントボア狩りだ。


ジャイアントボアは3~5mほどにもなる大きなイノシシだ。

召喚した狩猟人では攻撃力が足りないので俺がアタッカーになる。

肉を傷めないようにできるだけ頭を狙うことにする。

それでも俺の力ではやりすぎると胴までくだけてしまうらしい。

木の幹を砕く程度の力を意識して、倒木でなんどか練習をした。


場所は解体作業がしやすい川辺だ。

渓谷というほどではないが、小さな谷の淵で俺はジャイアントボアを待つ。

狩猟人のアネモネがこっちに追い立ててくれる手はずだ。

下流から轟音と共に巨体が迫ってくるのが見える。


俺は大きな木の幹に足を掛けてみがまえた。

魔力で力と防御力が強化されているが、体重はどうにもならない。

木の幹を蹴って正面から飛び掛り、相対速度を稼ぐ。

最初のころはしばしば足場を踏み砕いたが、その辺の加減は覚えた。


突進するジャイアントボアに正面から飛び掛る。

眉間に棍棒を振り下ろすその刹那、ボアが首をひねる。

急所をはずれ、打撃のタイミングをずらされた攻撃は浅い。

次の瞬間、衝撃が俺を宙に放り上げた。


茂みに投げ込まれ、そのまま藪の中を転がる。

常人なら死んでいるところだろうが、大したダメージはない。

俺はすぐさま起き上がってジャイアントボアを追う。

首の振り上げだけでこれほどの衝撃とは・・・。

突進を正面から受けるのは御免こうむりたい。


急追した俺は今度は上から踊りかかる。

脳天に振り下ろした棍棒に、今度こそ手ごたえがあった。

しかし、踏ん張りのきかない空中での攻撃は反動も大きい。

俺の体はピンポン玉のように前に弾かれる。


今度は前回り受身で危なげなく着地を決める。

秋風たちとの受身練習の成果はあったようだ。

ジャイアントボアはまだ立っているが、突進は止まった。

よたよたと数歩を進んだ後、その巨体は地響きを立てて倒れた。


なるみを通じてアネモネ、ミカエル、カブリエルを呼び寄せる。

アネモネ主導の下で血抜きと解体を進めていく。

ミカエルとガブリエルは本職ではないが、サポートくらいはできるようだ。

俺たち男3人はアネモネの指示に従って持ち上げたり運んだりを担当する。


体長4mちょっとのジャイアントボアから500kgほどの肉が取れた。

樽6つに分けて塩漬けにする。

痛みやすい部位はその日のうちに焼いて食べた。

人間が食べられない内臓も、ゴブリンにやると喜んだ。

一通り作業が済むともう夕方、俺の体は血と脂でべとべとだ。


一樹「じゃあ、みんなで拠点に戻ってシャワー浴びるか」

ミカエル「いやぁ、あっしらは必要ありません。おかまいなく」

一樹「そうか?」


見れば俺以外の3人は特に汚れは目立たない。

俺が不器用なのか?経験の差が出たのかもしれない。

とはいえ、さすがに女の子はそうも行かないだろう。

アネモネはたくさん動いて汗もかいたはずだ。


一樹「じゃあ、アネモネ、行こうか」

アネモネ「え?はい、分かりました」


カエデのために作った部屋に案内し、シャワーを浴びるよう指示する。

俺自身もコントロールルームに戻ってシャワーを浴びる。

とりあえずこれで鬼族との約束は果たせるか。

念のためもう2~3頭狩った方がいいのかな?


一樹「なるみ、アネモネはどうしてる?」

なるみ「アネモネさんなら、かずきおにぃちゃんに言われたとおり・・・」


モニターにアネモネの裸体が映し出される。


なるみ「シャワールームでセクシーポーズ取ってるよ」

一樹「なんでだ!?っつか見せるな」

なるみ「えー、せっかくアネモネさんがんばってるのにー」

一樹「俺は体を洗えと言ったんだ。セクシーポーズどっから出てきた?」

なるみ「だって、ガーディアンの汚損・破損は自動修復されるから入浴や洗濯の必要はないんだよ。必要もないのに服を脱げって言われたたら、『見たいの?』って思うじゃない?」

一樹「わかった。もういいからアネモネには上がってもらってくれ」

なるみ「アネモネさーん、もういいって」

アネモネ「はーい」


アネモネがモニター越しに手を振ってシャワールームを出る。


一樹「音声つながってたの?」

なるみ「基本的には向こうからの一方通行だよ。繋げる?」

一樹「いや、いい」


こっちに手を振ったところからして本当に見せるつもりでやっていたのか。

アネモネは見せ付けるように、やけにゆっくりと体を拭いている。


今回のジャイアントボア狩りで、肉以外にもいくつか収穫があった。

1つは魔石。

ダンジョンの魔物でなくとも、大きな獣などは持っているものらしい。

魔道具の動力源として使うことができる。


1つは爪と牙。

これらは工芸品などの材料として使えるそうだ。

これは鬼族に進呈しよう。


1つは皮。

ジャイアントボアの皮は丈夫で、素材としていい値で売れるらしい。

通常なら矢傷などで穴だらけになるところだが、今回はきれいに取れた。

ただ、なめし作業は皮職人の職分で、うちにはその設備もない。

これも鬼族に進呈するか。


1つは腱。

これは武器やガーディアンの素材として有用だという。

なるみに預けておけば戦力強化の役に立つ。


そして最後にスカーフスライム。

ジャイアントボアの体表に寄生する2cmほどの小さなスライムだ。

垢や抜け毛などの汚れを食べているという。

どうやって区別しているのか、肌や生きた毛は傷つけないのだか。

ジャイアントボアと共生するべく進化したということなのだろう。


人間を襲わないのでダンジョンの守りとしては使えない。

しかし、毛穴のお掃除など美容目的で使われることがあるのだとか。

ドクターフィッシュ的な使い方ができるということか。

ただ、金に換えるには人間族との接点が必要だ。

とりあえず、くず肉と骨を与えてキープしておくことにする。


アネモネは下着姿のままで丹念に髪を梳かしている。

椅子があるのに立ったままなのはヒップがよく見えるようにということか?


今回入手できた肉が約500kg。

鬼族64人が仮に1日500gずつ食べたとして半月分くらいか。

冬越しの食料を全部こちらで用意する必要はないだろう。

それでも、やはりもう2~3頭くらい狩ってもいいかもしれないな。

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