扉の向こう
「扉を開けてもいいかの? 主様」
「うん、お願い叢雲」
アンデッドを倒して現れた扉。
迷宮によくある、モンスターを倒さないと現れない仕掛けというものらしい。
この大部屋をミニムラが探索しても他に出られそうな所がなく、かつアンデッドが動かずに待ち構えているという状態……それだとまず間違いなく部屋にいるボスモンスターを倒す必要があるらしいのだ。
扉に手をかけた状態で叢雲が僕に話しかける。
「儂が昔潜った時とは迷宮自体がかなり変化しておるのかもしれんな」
「というと?」
「いやな、こんな大部屋にアンデッドモンスターが一匹だけで待ち構えている場所は記憶にないんじゃ」
「うーんと、例えばあのアンデッドモンスターも、時間が経てば復活したりするものなの?」
「ああするぞ。復活」
「そっか。なら叢雲がこの場所に覚えがないということは、迷宮がかなり昔とは変わってしまったということなんだね」
「そうじゃな。だがな、今回は主様をピンポイントで狙ってトリネロが迷宮に引き摺り込んでおるからの……通常とは色々と違うのかもしれん。……つまり正直なところ、全く分からん。何も分からん」
「いいんじゃないかな。しょうがないことだよ。叢雲が迷宮に来たのは相当昔のことらしいし、それに叢雲の記憶だけに頼って迷宮攻略をしていって、もし肝心なところで記憶と違ったってことになるよりは、最初から『以前とは全く違う迷宮』っていう認識でいたほうがいいんじゃないかな」
「そうじゃな、その方がいい。儂も認識を改める。これは主様と一緒に初めて挑む迷宮攻略なのだ、とな」
「でも、モンスターを相手にした時とかは叢雲の経験に頼ることになると思うからよろしくお願いね」
「もちろんじゃ」
「じゃあ、行こうか」
「うむ、扉を開くぞ」
5メートル程あるだろうか。
かなり大きな鉄製の扉を叢雲が押し開く。
ギギギギギギ……という音を立てながら扉がゆっくりと開く。
「……気をつけろ。何かおる」
「うん叢雲」
扉の向こう、20メートル程だろうか?
何かが横たわっているのが見える。
「モンスター……なのか?」
「分からない。気を付けて近づいてみよう」
一歩ずつ歩を進める。
もし突然飛びかかってきてもいいように叢雲を構えながら近づく。
「…………レジーナ!!」
気付いた僕は警戒するのも忘れて飛び出していた。
レジーナだ。
間違いない。
「レジーナ! レジーナ!! しっかりして!!」
レジーナは気を失っているようだ。
耳を口の近くに当てると、息はあるようだ。
「大丈夫。生きてる。生きてるよ叢雲」
「どうやらレジーナも主様と儂と一緒に迷宮に飛ばされてきたか……あの時の位置関係じゃろうな。儂とレジーナが話しておる時に飛ばされたからの。まぁとばっちりじゃの」
「……そうだね。申し訳ない……巻き込んでしまった」
「レジーナも戦士団を目指しておる学院生じゃろ? 主様だけが責任を感じることはない。戦士になればどんな理不尽な戦闘にでも挑まなければならんのじゃからな」
「それはそうかもしれないけど……レジーナはまだ戦士団ではないし、それに今回は完全に僕に巻き込まれる形なんだよ」
「それでも、じゃ。レジーナは泣き喚いて誰かに責任を追求するタイプではないとは思うがの」
「……ごめんレジーナ」
「それよりもまずはこの新しい部屋の把握じゃ。レジーナに気を取られている間にモンスターに不意打ちされては最悪の展開になるぞ」
「……分かった。見た感じ、さっきの部屋と同じようにかなり広い部屋のように思えるけど……」
「うむ、大部屋タイプじゃな。視界が開けておる分、囲まれると厄介な地形なんじゃよな。狭い通路は目の前のモンスターを一匹一匹倒していけばいいんじゃが、少人数パーティだとこの手の大部屋は敵に囲まれやすい厄介な場所と言えるじゃろうな」
「でも、モンスターが見えないようだよ」
「そうじゃな。もしかしたらまた先程と同じようにボスモンスターが部屋の隅に待ち構えておるのやもしれん。……まずはレジーナの目を覚まそうぞ。抱えてはとても戦えん」
「分かった。……えっとレジーナ、起きて! お願い!」
名前を呼びながらパチンパチンとレジーナの頬を叩く。
これで起きてくれればいいのだけど。
「手ぬるいわ。貸せ」
叢雲は僕からレジーナの体をひったくると、何の遠慮もなしに胸をむんずと掴んだ。
「主様がお主の身体をまさぐっておるぞ! 狙っておるぞ! 早く起きんと取り返しのつかんことになるぞい!」
「ひ、ひゃあああああああああああああ」
レジーナが飛び起きる。
……んー? あれー?
「起きたか。迷宮で眠りこけるとはいい度胸じゃのレジーナ」
「ひゃふううううあぁぁぁぁああああ! な、夏希さん! そういうのは落ち着いた所でええええええええええええ」
「まだ寝ぼけておるのか。儂じゃ、叢雲じゃ」
「はええええ叢雲さん?? 何で叢雲さんが私のおっぱいを……???」
「眠っておるお主を運ぶのは面倒じゃからな。とっとと起きてもらっただけじゃ」
「ふえええええ酷いです…………」
「大丈夫じゃ儂は一応は女じゃし、緊急事態じゃから今回はノーカンじゃ。お主はまだ清純じゃ」
「そうでしょうか……なら……ありがとうございます……」
話がまとまってしまった。
……まぁ別に全然構わないけどね。
レジーナを手早く起こすのが最優先だったからね!
でももうそういうのはやめて欲しいかな!
「うむ。では、まず確認するぞ。レジーナ、お主は状況をどこまで理解しておる? ここがどこだかは分かっておるか?」
「あ、はい……あの、ここが迷宮なのかな、というのは……分かっています。確か……皆さんと一緒にいて……叢雲さんとお話をしていて……それで、突然目の前が真っ暗になって、気付いたらここにいました……」
「なるほど、では迷宮に飛ばされてずっと気を失っていたわけではないということじゃな? 何で気を失ったんじゃ?」
「あ、それは……最初は怖くて震えてたんですけど……それでも、このままだと死んじゃうと思いまして……どこかに出口がないかどうか探そうと思ったんです……怖かったんですけど……で、ちょっとずつちょっとずつ進んでみたんです。そうしたら、部屋の奥の方に何かいるらしいというのは分かったんですが……」
「……ほう。それで?」
「もう……ダメでした。姿を確認したわけじゃないんですけど……あれは……見ただけで私が壊れちゃうと思いました……それで、とにかく逃げたんです……逃げて……そうしたら怖さと疲れで……気を失ってしまったようで……」
「なるほどの……部屋の奥にまた何かおる、ということか……」
「…………夏希さんと叢雲さんが来てくれて…………本当に良かった………です」
「ああ、そうじゃな。レジーナは1人だったんじゃな。不安なんてもんじゃなかったろうの」
「はい……ありがとうございます」
レジーナが深々と頭を下げる。
違うんだよ、レジーナ。
本当は迷宮に飛ばされるのは僕だけで済んだはずなんだ。
レジーナがお礼を言う必要なんてこれっぽっちもないんだ。
……絶対に守らなければ。
もし自分の身を犠牲にしてレジーナが助かるという場面があったら、迷わずそうしよう。
それだけは今ここで決心しておこう。
それで僕の子供達としての封印が壊れてしまったとしても、それでもそうしよう。
レジーナの手を握る。
「レジーナ、僕が必ず守る。命に変えても」
レジーナの目を見て宣言する。
これは子供達としてでも女神の子供としてでも何でもなく、1人の男としての決定だ。
僕の都合に巻き込んでしまったレジーナだけは僕が守らなければ。
「にゃふ! は、はい! ……お、お願いします夏希さん…………! 私の命、夏希さんに……お預け致します……」
うん、預かったよレジーナ。
「しかし、レジーナが見たモンスターの正体が気になるの。大抵のモンスターはレジーナより強いじゃろうから、見て恐怖を覚えるのは当たり前といえば当たり前じゃが」
「はい……ええとあの、怖かったです。でも、なんというか私に向かって襲い掛かってくるとかそういうことはなくて、じっとしているだけでした……」
「先ほどの部屋のアンデッドと同じじゃな。……ということは、この部屋の主もアンデッドということかのぅ」
「アンデッド……ですか? あの、不死の存在……ですよね? 特殊な武器や呪文を使わないと倒せないと言われている、あの……」
「そうじゃ、そのアンデッドじゃ。武器に関しては問題ない。儂がおる。問題はどの程度のレベルのアンデッドか、ということじゃ」
「アンデッドにも強いとか弱いとか……あるんですか?」
「もちろんある。さっき主様が倒したアンデッドは麻痺と混乱の咆哮を使ってきたが……まぁ大したアンデッドではなかった。この部屋もそうであるといいんじゃが」
「混乱と麻痺……ですか? 学院で……勉強したことがあります。座学でですが。人数が少ないパーティの場合には麻痺と混乱には特に……気を付けなきゃいけないって……」
「そうじゃの。まぁ儂はあらゆる状態異常耐性を持っとるから、主様とレジーナが状態異常でヘロヘロになっても抱えて逃げてやるわい。心配せんでええぞ」
「それは……とても頼もしいです……ありがとうございます。ええと、それで……あの……強いアンデッドというのは……」
「下位のゾンビから始まり強いアンデッドにはヴァンパイアなんていうのもいるの。油断ならぬ相手じゃ」
「ヴァンパイア……本で読んだことは……あります」
「はてさて、この部屋はどんなもんがおるのか……話しておってもしょうがない。進むぞ。レジーナが見たモンスターがいる場所に連れて行ってくれ」
「あ、はい……こちらです……この方向に真っ直ぐ進めば……いいだけです」
レジーナが歩き出す。
強い子だ。
僕と叢雲が一緒になったとはいえ、さっきは見ただけで自分が壊れてしまうとまで思った相手のところへ再び行こうとしている。
もちろん迷宮から出て学院に戻るためにはモンスターを倒す必要があるのだけど、それを分かっているとはいえなかなか出来ることじゃない。
「レジーナ、無理しないで。もし怖ければ方向を教えて貰えれば僕と叢雲だけで行ってくるよ」
「……いいえ、大丈夫です……ありがとうございます夏希さん。私も……一緒に行きます……もしかしたら、ほんの少しでもお役に立てるかもしれませんし……迷宮で足手まといには……なりたくないです」
「ありがとう。もし不安になったり歩けなくなったりしたらすぐに言って。無理はしないようにね」
「はい……ありがとうございます」
ここから先の迷宮踏破は、レジーナのペースに合わせなければ。
僕達は今回、迷宮の最奥に至るのを目的にしていない。
とにかく3人揃って迷宮から出られればそれで勝ち。
ならばレジーナを大切にしていかないと。
「……主様、見えた。恐らくあれじゃな」
「…………白い。白い服……? を着ているね。見たことのない服だ」
上下一体となっているような形の服を、腰の辺りで縄で縛って固定するように着た……先程のアンデッドよりはかなり小さい……僕と同じくらいの身長のモンスターがそこに見えた。
詳しく確認しようと僕達が近づくと……
動いた。
ゆらりと、長い服の袖を揺らしながら……手をこちらに向ける。
なんだ? 何か攻撃しようとしているのか?
手から何かを放出するつもりだろうか?
そう思案していると……突然、白い服のモンスターが目の前に現れた。
「下がれ主様!!」
叢雲の絶叫。
我に返った僕は全力で下がる。
レジーナを最後尾にしておいて良かった。
「……今のは? 気付いたら目の前にいた。高度な歩法を使うアンデッド……?」
「…………違う。歩法ではない」
「だとすると……単純にスピードが速いということ?」
「それも違う。今のは、歩法でもスピードでもない。『場所を入れ替えた』んじゃ」
「場所を入れ替えた? 何それ。魔法の一種?」
「魔法ではない。『容器変換』…………仙術じゃ」
「仙術? だってあれはアンデッドなんじゃ……」
「アンデッドじゃ。尸解仙。仙人とも呼ぶ。ヴァンパイアを超える数少ないアンデッドじゃよ」
「尸解仙……」
「しかしおかしい。おかしい。おかしいんじゃ。尸解仙はアンデッドの一種ではあるが迷宮に出るようなもんではない。モンスターではないんじゃ。道教というスキルを極めた者が到達し、深山で更に術を磨く為に修行を続けている存在のはず。迷宮で戦うような相手では……」
叢雲が考え込む。
どうやら目の前のアンデッドは、アンデッドでありながらモンスターと呼ばれるような存在ではないらしい。
確かに、さっきの部屋で戦ったいかにもなアンデッドとは違う気がする。
「不死化によって自らアンデッドとなった者が、こんな所にいていいはずがないんじゃ……」
更に考え込む叢雲。
「叢雲。考えるのは後にしよう。確かに尸解仙というのは……モンスターとは違うのかもしれない。だけど、こうやって迷宮で出会ってしまった以上は……敵として認識しないと僕達が危ないよ」
「……済まぬ主様。主様の言う通りじゃ」
「どう戦う?」
「うむ、尸解仙がどの程度の仙術を使ってくるかによるんじゃが……万が一……儂が知っておる仙術をフルに使えるようであると……今の主様では戦闘と呼べるものにすらなるかどうか……」
「つまり、めちゃくちゃ強いんだね」
「強い。繰り返しになるが、こんな所にいていい存在ではないんじゃ。人間界のいざこざに出てくるような存在ではないんじゃ。この世界では龍に次ぐ存在のはず。それが迷宮の一室の守護をしておるなどと……」
次の瞬間、また尸解仙が『容器変換』を使い目の前に現れる。
……確かに歩法でもスピードでもない。
今自分がいる場所と任意の場所をを、直接入れ替えている……そうでないと説明がつかない動きだ。
叢雲を振るう。
すると尸解仙は今度は後方に『容器変換』を使い後退する。
……攻めと守り、両方に使えるのか、あの術技は。
後方に下がった尸解仙は、両手の手の平をパン! と合わせる。
何をする気だ?
手の平をこちらの向け、何をするでもなくそのままジッとしている。
「気功じゃ! 見えなくてもいい! 儂を使って目の前の空間を切り裂け!」
「うん、分かった!」
言われた通り、でたらめに叢雲を振るう。
すると尸解仙は手を降ろし、また動かなくなった。
「……尸解仙の使う気功はあらゆる効果を込めることが出来る……状態異常なら可愛いもので、中には相手に不死創造を仕掛けるものもあると聞く……」
「洒落にならないよ。何その理不尽な攻撃は」
「うむ、理不尽じゃの。そうなんじゃ。尸解仙と主様との実力差は、象と蟻、山脈と砂場の山、隼と雀、そのくらいの差があるはずなんじゃ」
「その通りなんだろうけど……」
「にしてはおかしいと思わんか? それだけの実力差があれば、最初に『容器変換』で近づいて来られた時に、既に主様は死んでおったと思わんか? 今気功を仕掛けられた時に、抵抗など意味をなさなかったと思わんか?」
「確かに、そうかもしれない」
「本来はこんな所にいるはずのない高次の存在……それに、それに見合わない主様への攻撃……」
「何か分かった?」
「……………………もし、儂の仮定が正しければ、トリネロは……なんということを……」
「迷宮の主であるトリネロが関係している?」
「分からん。まだ分からん。ただ、そうであれば……どれだけこの世界を冒涜すれば気が済むのか……」
「……叢雲?」
「確かめるぞ、主様。いいか。簡単な話じゃ。主様は今自分でできる最強の攻撃を仕掛ける。それだけじゃ。もしそれが通用するようなら、奴は尸解仙ではない」
「どういうこと? 偽物なの?」
「……簡単に言えばそうじゃな。……偽物というか……まぁいい。話は後じゃ。分かっておるな主様。今主様ができる最強の攻撃じゃぞ」
「分かった。無拍子で近づいての紫電だね」
「そうじゃ。無拍子も紫電も剣技の極致と言えるもんじゃ。本来の使い手が振るえば真性の尸解仙にも通じるものではあるが……主様の使うそれはまだまだ未熟。途上。それが通用するとなれば」
「分かった。僕なんかの無拍子と紫電が通用するようなら、奴は尸解仙ではない」
「その通りじゃ」
僕の無拍子と紫電は、女神の加護(極)より得られた、過去の子供達の記憶。
かつての子供達が運命に抵抗するために編み出した術技。
彼らの記憶を手繰り寄せて術技を使うことはできても、それは極めたと言えるものには程遠い。
長い時間と経験でもって、自分のものにしていくしかないんだ。
まずは歩法。
そして呼吸。
歩法と呼吸によって無拍子に至る。
見えてもいても見えていない。
近くにいるのが分かっていてもそれが認識できない。
意識の裏側に潜り込むかのように、剣の間合いに入っても敵は何もできない。
紫電。
燕返しの袈裟斬りと返しの太刀を『同時に』振るう術技。
不可能であるはずの現象を、過去の子供達は運命への抵抗のためだけに完成させた。
……偽物?
偽物がこんな所で何をしているんだ。
尸解仙という高レベルのアンデッドの偽物を僕にけしかけ、迷宮は何をしたいんだ。
イラつく。
僕を殺して開放されたいのか。
過去の子供達達の人生全てを奪っておいて、それでもまだ足りないのか。
斬り裂く。
無拍子により、尸解仙は僕を認識できない。
叢雲による紫電は、紙切れを裂くよりも容易く尸解仙の身体を3つに分けた。
「……なんなんだろう、こいつは一体……」
「主様、ようやった。やはりこやつは尸解仙ではなかったようじゃ。ナリと術技を真似ただけの偽物じゃったの」
「……何がしたかったんだろう……」
「恐らくは、全てトリネロの仕業じゃろうな……この世界の高次の存在を自ら作り上げて主様にぶつけた。ただそれだけのことじゃろう。ワイバーンで足りなかったから、それよりもより高レベルの存在を、とな。なんという世界に対する冒涜じゃろうか」
「……」
「しかし、なんじゃろうな。今の尸解仙の偽物なら、ワイバーンの方が遥かに強い。何がしたかったんじゃろうの」
そこへ、勝負が終わるのを確認してレジーナが近づいてきた。
「あの……もしかして……途中……とか……?」
叢雲が答える。
「途中、とはなんじゃ?」
「え、あの、すみません……ただ、何となくそう思っただけで……私なんか……何もしらない私なんかが……ごめんなさい」
「レジーナ、続けてみよ」
「え、その……尸解仙……でしたか……? あの、本当は物凄く強いんです……よね? それがあっけなく倒されたものですから……もし偽物? なんだとしたら……本命は……まだあるんじゃなかって……ただそう思っただけなんですが……」
「……本命……」
「す、すみません! 私なんかがでしゃばったことを言ってしまいました!」
「いや、いい。レジーナ。いい着眼点じゃと思う。そうか。まだ途上だと……したら……この世界の高次の存在を真似て作っておるモンスター……か……」
「もしそうなら……怖い……ですね……」
「主様を迷宮に引き摺り込み、世界の最強種の偽物を作り主様にけしかけ……そして……主様を殺して封印が解ければ、それらを世界に放つつもりか……?」
「え……」
「どれ程の憎しみがそうさせるのだろうの」
叢雲はそう言うと部屋の奥を見て黙ってしまった。
……最強種の偽物。
僕がいなくなり迷宮の封印が解けたら、それが地上に放たれる?
なんだそれは。
トリネロは、この迷宮の開放ではなく世界の破滅を望んでいるのか?
一体トリネロってのはどういう存在なんだ。
迷宮も塔も城も、一体どういう存在なんだ。




