みんなに紹介
「ダニエルとアズーレは、僕の大体の事情はエンリケから聞いているんだっけ?」
確か、決闘に至る経緯の中でエンリケは僕の事情をダニエル達に説明して、何とか僕を学院に受け入れてくれるように説得してくれていたんだと思う。
僕自身がエンリケに詳しく全ての事情を話したわけではないから色々と勘違いなどもあるかもしれないけど、大筋の事情は把握しているかと思う。
ダニエルが答える。
「あぁ、よく分からない部分が多かったがな。夏希は女神様の子供なんだろ? 女神様が人間の子供を産むってことにも驚いたし、それが普通にこうやって学院に入学してくるってのにも驚いた」
「うん、そうだよね。僕にとっては当たり前のことなんだけど、なかなか理解し辛い話だってのは分かるよ」
「それと、エリス様が夏希のお祖母様……? って話も驚いた。驚いたというか、何がなんだか分からないってのが正直なところだ。俺たちに説明してくれたエンリケも自分で言っててよく分からないって風だったしな」
「うん……お婆ちゃんって言っても、遠い昔の話らしいんだよね。僕の母親はミューズなんだけど、エリスがミューズの母親ってわけじゃないんだ。僕もよくは聞いてはいないんだけど、何百年か何千年か……そういう単位の昔の話らしい。僕の遠い遠い、本当に遠いお婆ちゃんがエリスなんだよ。うーん、言ってて自分でもおかしな話だと思うけど」
「……ま、女神様だからな。俺たちなんかにゃ想像もつかない事情ってやつがあるんだろうさ。ま、あれだ。夏希の生い立ちとかそういうことについては別に今詳しく聞く必要はないさ。長く付き合えば自然と分かっていくだろうしな」
「そうだね。そう思うよ」
「それと、だな。あれだ。ちょっと聞きたいことがあるんだけどな」
「何? 何でも聞いてよ」
「夏希、お前が持ってる刀……決闘の最中に喋ってなかったか?」
ダニエルが叢雲を指差しながら質問してくる。
聞こえてたんだね。
というかそりゃ聞こえるよね。
「そっか。叢雲を紹介しなきゃね。叢雲、人の形になってくれる?」
「はいよ、主様」
すぐに叢雲は刀から人の形になってくれた。
刀が消える代わりに、長い金髪の少女が現れる。
「叢雲じゃ。主様の守り刀をやっておる。学院では主様ともども色々と世話になることもあろう。よろしゅう頼むぞ」
叢雲はダニエルとアズーレ、それに後ろにいる生徒たち全員に向けて話しかける。
そうだね。
叢雲は家にいても学院にいてもいつでも僕と一緒にいるわけだし、これから色々とダニエル達にお世話になることも多いだろうしね。
「………………喋る剣、か………………」
「そう。喋れるんだよ。凄いでしょ叢雲。色んなことを知っているしね。確か、ずーっと昔からいるらしいよ」
「そう、だろうな。あー……えーっと、叢雲……様……? なんてお呼びしたらいいのか分かりませんが、あなたは俺たちが想像している通りの存在……なのですか?」
「主様同様に、儂にも気遣いは無用じゃ。様なんぞ付ける必要はない。儂は主様と共にあるだけのただの一振りの刀じゃ。それと、お主の疑問は、多分思っている通りのもんじゃよ、儂は」
「そうですか。叢雲……天叢雲剣……」
「確かにそうではあるが、ここ学院では関係なかろ? ここは純粋に己の実力を高めるだけの場所じゃろ。持っている刀がどんなもんであったとしても、主様自身の実力を高めることこそ肝要。そうであろ?」
「はい、確かにそうです。そうですが……夏希が天叢雲剣を所持していて……そしてあなた自身が夏希を主人と認めているということは……つまりは……」
「そういうのはいい。止めておけ。いくら考えてもしょうのないことじゃし、つまらん昔の話を思い出す。それに例え主様が何者か分かったら、お主は態度を変えるのかの?」
「いえ、そういうことではありません…………………………………………分かりました、あなたは叢雲。夏希の守り刀、そういう認識でこれからもお付き合い願います」
「それでええ」
……えっと、大丈夫かな?
どうやらダニエルは色々と勘違いしているらしい。
叢雲は、女神の子供に受け継がれてきた守り刀なんだよね。
子供達に。
だから、叢雲を所持しているってのは女神の子供だよ、っていう意味以上のことはないんだ。
僕が何者かとか関係ないよ。
いわば女神の子供証明書みたいなもんだ。
あぁでも叢雲自身は刀剣の中の序列一位とか言ってたから、切れ味は凄いけどね。
でもそれも僕とは関係のないことだからね。
胸も大きいけどね。
「さて、私も話に入っていい?」
ミューズが後ろから僕を抱きしめながら会話に入ってきた。
肩のとこからヒョイっと顔を出す格好だ。
……もう、やめてよそういうの……
「私は女神ミューズ。夏希の母親だよ……って、それはもう説明するまでもないか。よろしくね、ダニエルにアズーレ、それと他の生徒のみんなもよろしくね」
ミューズがニコっと笑顔でダニエル達に話しかける。
「あ、はい、こちらこそよろしくお願い致します、女神様!」
……あー、みんな顔真っ赤になっちゃったよ。
ミューズは外見いいからなぁ。
なんというか、人間離れした外見の良さだからなぁ。
いや人間じゃないんだけど。
女神なんだけど。
労務場で働いていた時に街で評判の美人さんを見ることがあったけど、なんというか……ミューズの足元にも及ばない感じだった。
失礼な話だとは思うけど。本当に失礼だと思うけど。
自分の母親をそこまで言うのはおかしいと思うけど。
やっぱ女神なんだよなぁミューズって。
「私もこれから夏希と一緒に学院に通うことになるからね。叢雲も一緒だけどさ。ダニエル達とは毎日顔を合わせることになると思うよ」
「はい、光栄です女神様」
「君たちにはとても期待しているから。夏希のことをね」
「期待、ですか。はい。夏希とはお互い切磋琢磨し、1日も早く戦士としての実力を備えることができるよう努力致します」
「あ、うん。そういうのももちろん期待しているよ。うん、戦士としての実力ね。大切だよねそれ」
「……他にも何か私達に期待していることがあるのですか……?」
「あるよ、もちろんあるよ沢山あるよ。まず君たちが男ってのはいいよね。うん、とてもいいと思う。夏希に男の友達ができたってのはとても良いことだよ。いやね、学院に来て初めてできた知り合いがレジーナだったもんでね、ちょっと心配してたんだよね。レジーナ胸大きいし。これからも知り合う人間がみんな女の子で、ハーレムルートを爆進したらどうしようかと思ってたんだよ。次にできた知り合いも女の子だったし。エンリケだっけ。そんなこんなで、ダニエル達は男だからね。綺麗な青春を夏希と一緒に送ってあげてよ」
「は、はぁ……」
「男同士じゃないとできない経験がたくさんあるでしょう。いやね、夏希くらいの年頃の男の子だと女の子と知り合いになって遊ぶことが全てなような感覚になるじゃない? それが青春だと思っちゃうじゃない? そうじゃないんだよねぇ。何も分かっていないよね。女遊びなんて後からいくらでもできるのにね。分かってないよね」
「は、はぁ…………」
「夏希と一緒に健全な学院生活を送ってあげてよ。頼むよ。私からお願いするよ。あ、もちろん年頃の男の子だから女に興味が出るのは分かるよ? 女の子と話したいって思うよね。それはしょうがないことだからね。だからそういう時は私や叢雲が……」
「ちょっとミューズ黙ってて!!!!」
思わず叫んでしまった。
もう僕の顔は真っ赤っ赤だ。
乙女か。
「恥ずかしいから! 本当に恥ずかしいから! 本気でやめてそういうの!」
「恥ずかしい? 私は夏希の学院生活が健全なものになるように、夏希の友達に挨拶を……」
「そういうのが恥ずかしいって言ってるの! それにダニエル達は僕と友達になってくれたけど、レジーナだって大切な友達だから! それにエンリケとだってせっかく知り合えたんだし、これっきりになることなんてないから!」
「ぶーぶー」
「子供か! 女神らしくしてよもう!」
ミューズがいる時点で綺麗に終わりにならない予感はしてたけどね。
予想の範囲内だけどね。
「レジーナとエンリケも、これからよろしくね。ミューズの言うことは気にしないで。友達に男だからとか女だからとか関係ないもんね」
レジーナとエンリケの2人に話しかける。
まったく、ミューズには困ったもんだよ。
レジーナは最初に僕の友達になってくれたし、エンリケも最初は気の強い子だと思ったけど、僕の事情を話したら理解を示してくれたし、2人ともこれからもずっと友達として大切にしていきたい。
「あ、はい……もちろんです……! 私のほうこそ、よろしくお願いします! 夏希さんのお友だちになれたの、とっても嬉しいです……」
「そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとうレジーナ」
レジーナは最初に話した時、あまり友達が多くないようなことを言っていたから、これを機会にエンリケやダニエル達とも仲良くなってくれると嬉しいな。
「夏希さん、改めて謝罪します。お互いに大きな怪我もなく済みましたが、今回決闘という形になったのは少なからず私の責任です。最初に夏希さんの事情も知らずに食って掛かったのは私ですしね……夏希さんは私と友達になってくれるとおっしゃっていましたが、もし本当ならこれから私はその償いをさせて頂きますわ」
「エンリケは、妥協点として決闘という形に持っていってくれたわけだよね。ありがたいと思いこそすれ悪い感情は持っていないよ。もし決闘にならなかったとしたら、何の機会もないまま僕は学院の中で爪弾きにされていただろうしね。ありがとうエンリケ」
「そう言って頂けると心が楽になります……なりますが、何かしらの償いをするというのは私の気持ちです。何ができるか分かりませんが、それは了承して頂きたく思いますわ」
「そう……そういうことなら……でも、無理はしないで。学院の学友として一緒に戦士を目指してくれるのなら、それは僕が望む一番のことだからね」
「はい。ありがとうございます夏希さん」
「あ、それとこういうことは僕から言うことじゃない気もするけれど……レジーナとエンリケ、2人が友達になってくれたら僕としては嬉しいな。本当にお節介だなとは思うのだけど、もし2人がこれから戦士を目指して頑張っていくのなら、技術を磨き合う相手というのは多い方がいいと思うんだ。それに僕が2人に付き合ってもらう時にも、レジーナとエンリケが友達同士なら色々といいと思うしね」
「え、あ……はい……あの……私は……私なんかで良ければですけど……」
レジーナがエンリケの方をチラっと見る。
「夏希さんがそうおっしゃるなら……というわけではないわね。夏希さんの言う通り、学院に席を置き戦士を目指す以上は切磋琢磨する相手は多いに越したことはないわ。それにレジーナさんのボルジア家は武家として鳴らした家系……今の当主様は戦士団ではないようだけれど……私もレジーナさんから吸収できることは多いと思うわ」
「あ、ありがとうございます……よろしくお願いします、エンリケさん」
「こちらこそよろしく、レジーナさん」
僕にとって貴重な人間の女の子の友達2人だからね。
できれば仲良くして貰いたいと思っていた。
良かった。
「(夏希さんが……私達と……付き合う…………? ええぇぇ……ふぇぇぇ……それって……)」
レジーナが何か考え込んでいるようだけれど……
あ、そうか。
この中で僕の事情を詳しく知らないのはレジーナだけってことになる……のか……?
エンリケには話してあるし、ダニエル達もエンリケから大体の事情は伝わっているはず。
レジーナはミューズや叢雲のことは知っているけれど、これから僕がやろうとしていることは何も知らないんだ。
そっか、それは不満も出るだろう。
ごめんレジーナ、心遣いが足りなかったようだ。




