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たのしい…食堂

 レジーナと友達になれた。

 友達になって下さい、なんていう普通なら引かれてしまってもおかしくない僕の申し出を、レジーナは快く受けてくれた。

 

 凄い……友達、できちゃったよ。

 凄い。

 できるんだ、僕にも。


 本来なら、同じ教室で学んでいるうちに自然と親しくなっていくものなんだろうけど……それでも、初めてできた友達ということに変わりはない。

 あ、ちょっと浮ついてる。

 自分でも分かる。

 僕って、今、友達いるんだ。

 なにこれ凄い嬉しい。

 今なら空の色も変わって見える。

 多分。


 さて、そんな初めての友達ができた僕なのだが……

 ちょっと状況的に……居心地が悪い。

 なぜなら、席順が


   レ

   ○

ミ○    ○叢

   ○

   夏

 

 ……という風になっているから。

 うん、ミューズが来たんだね。

 突然に食堂に来たんだね。

 思ったより早く来た。


「……夏希は酷いよね。私を誘わないで先にご飯を食べてるなんて。あーあ、いいなー叢雲。夏希と一緒にご飯食べられて。ここの食堂のご飯は美味しいからって、さっき事務室で話を聞いて楽しみにしてたんだよ? 夏希と一緒に食べよー! って。あーあ、あーあ」


「……ごめんなさい。なんか、ミューズも一緒になってから食べようと思ってたんだけど、気付いたら注文してた」


「儂が付いていながら面目ない。いや、儂もなんか気付いたら目の前にスパゲティが置かれておった」


「あーあ、まぁ今から私の頼むからいいけどさー、初めての○○ってのは、私も一緒じゃないとダメだと思わない? ねえ夏希。そうじゃない? 記念ってそういうものじゃない?」


「うん、ミューズの言う通りです……ごめんねほんとに。これからの初めてはみんなミューズも一緒にしていこうね」


「うん、そうしよう! もう、食堂の件はしょうがないけどー、夏希はもっとこう、ママを求めるというか、必要とするというか、そういうのが必要だと思うんだよね、うん」


「はい、ごめんなさい」


「うん、今度からは一緒にね。さて…………で?」


「うん?」


「……で? こちらの子はどちら様? いや、学院の子だってのは見れば分かるよ。それはいいの。問題は、何で夏希と叢雲と一緒にお茶してるわけ? さっき私と別れてから1時間もしてないよね?」


「ああ、ごめん紹介するね。こちらはレジーナ。レジーナ・ボルジアさん。子爵様のお嬢様だよ。見ての通りこの学院の生徒。僕と叢雲はこの学院のことを何も知らないからね。色々と教えて貰うと思って声をかけたんだ」


「へー、ナンパしたんだ」


「ナン……! そんなんじゃないよ! ただ、レジーナが話しやすそうだったから……!」


「あー確かに、なんか断れなさそうだもんねこの子。頼めば何でもOKそう」


「いやそういうことじゃなく! あ、それにレジーナは僕の友達になってくれたんだよ! 僕の初めての人間の友達だよ! 今まで僕の周りは人間率が限りなく0だったからね。これは凄いことだよ」


「人間じゃないと嫌なの? 夏希は。女神が周りにいちゃ迷惑?」


「え? いや、そういうことじゃなく……なんで怒り気味なのミューズ……」


「いや別に? 夏希は人間の友達じゃないと嫌なのかなーって思ってさ。どーせ私は女神ですよ。友達じゃないですよ」


「ミューズは僕の母親でしょ……もう、そんなところで怒らないでよ。僕とミューズはどうやったって切れない縁なんだから」


「! そうね……! ね、夏希、今のもう1回言って」


「そんなところで怒らないでよ」


「そこじゃない!!」


「僕とミューズはどうやったって切れない縁……ってとこ?」


「そうそう。そうそう。そうそう! えへ~、そうだね~。ま、夏希も友達の1人や2人作ってもおかしくない年だもんね~。いや、私が立ち会えなかったのは残念だけど。えっと、レジーナだっけ?」


 ミューズが唐突にレジーナに話しかける。

 うーん、これレジーナは緊張するだろうなぁ。

 なんか悪いことしちゃった。


「は、はい……! 初めまして、女神様! わ、私レジーナ・ボルジアと申します! あ、あの、夏希さんとは先程友達にならせて頂きました……! 女神様の許可もなく、た、たいへん失礼致しました……!」


「あー、いいよそんなに硬くならなくて。私はミューズだよ。夏希の母親。これから宜しくね」


「はい! よろしくお願いします!」


「ねーねー、夏希になんて言って声かけられたの? 夏希から声かけてきたんでしょ?」


「え、え? 夏希さんにですか? えーっと……確か……他の人じゃダメなんだ、とか……君がいいんだとか……夏希さんは言っていた気がしますけど……」


 レジーナさん?

 そんなこと……言った……言ったんだよな、うん。

 じゃあしょうがないか。


「夏希」


「はい」


「どういうこと?」


「……あの……レジーナに……学院のことを……色々聞きたいかな、と思いまして……」


「うん。でも、ただのナンパだよね?」


「そう言われると、確かにそう見えてしまっても仕方なかったかと……」


「夏希が女の子ナンパした! ナンパしちゃったよ! しかも成功してる! 初回から成功だよ! しかもレジーナ、なんかまんざらでもなさそう! こりゃもうハーモニーに報告するしか……!」


「やめて! そういうのハーモニーは一番厳しそうだからやめて! 真面目だから! ハーモニー真面目だから!」


「ダメー。ハーモニーに厳しく叱ってもらいます。まさか夏希が学院に来た初日に女の子をナンパして、しかも成功させるとは思ってなかったからねー」


「あああああもう! 僕は母親にいきなりそういうとこ見られて、しかも自然な感じで輪の中に入ってるのが恥ずかしいよ!!」


「恥ずかしいとは何よ恥ずかしいとは! 元々夏希が私を仲間外れにしてご飯食べてたのがいけないんでしょ!」


「それとこれとは話が別だよ! やめてよミューズ! せっかく友達できたのに! 僕、顔から火が出そうだよ!」


 いや確かに、ミューズと一緒に学院に通うことに決めたのは僕だけど! 

 だけど、こういう場面に母親がいるってなんか違うでしょ!  

 やっぱり恥ずかしいでしょ!


「ええい、もうミューズも勘弁してやれ。さすがに主様が気の毒になってきたわ。確かに母親が初めてできた友人の前でこうでは、主様でなくとも逃げ出すぞ」


「うーん、しょうがないなー、私としては学院にいる時は母親であり、同時に学友でありって感じでいきたいんだけどなー。だから、夏希は私のこと友達だと思って色々相談していいからね? あ、それとレジーナって胸大きいよね? 夏希、だからレジーナを選んだの?」


「怒るよミューズ! もう本当にやめて!! 胸の大きさで友達を選ぶとかあるわけないでしょ!! 見てよ、レジーナが林檎みたいに真っ赤になっちゃってるよ!!」


「夏希が気にしすぎなんだよ。なによ胸が大きいくらい。私なんて全然ないよ?」


「母親の胸の話を学院でする気はないから! 話題にしないでそういうこと!! お願いだから!!」


「もう夏希は初だなぁ。まいっか。えっと、じゃあレジーナの……胸以外のこと……うーんと、子爵家の子なんだっけ? トリネロの中に住んでるの?」


 ミューズがレジーナに話を振る。


「あ、はい……私は今は学院の寄宿舎に住んでいますから……父は……家族は、都市の外です。小さいんですが……領地を頂いていまして、村なのですが……そこで……」


「へえ、領地持ちなんだ。結構な有力貴族ってわけだね」


「あ、その……いえ……ボルジアは……昔、トリネロの戦士団として働かせて頂いていまして、功績が認められて授爵しまして、以後は武家として……頑張っていたのですが……最近は、戦士団として……あの……恥ずかしながら、なかなか戦士としての力量を持った当主が少なくなってきまして……とうとう私の父は、学院を卒業しても戦士団への加入が認められず、というところまで来てしまいまして……」


「戦士団は実力重視だからね。そういうこともあるか。近衛みたいに代々受け継がれていくタイプの職だとそういうことも起こらないんだけど……まぁ、武家の貴族にとっては戦士団はステータスだしね、今更他の職にってわけにはいかないか」


「はい……あの、武家としての誇りも……ありますし、法衣貴族に鞍替えというわけにもいかず……いえ、そちら方面の貴族を見下しているわけではないんです。ですが……やはりボルジア家は武家として……」


「うん、分かったよ。なかなかにレジーナも大変な立場ってことだね。レジーナが学院に通っているということは、兄さんや弟はいないってこと?」


「はい……私と妹だけです」


「そうなると、益々事態は深刻だね。レジーナが戦士団に入らなくちゃならないわけだ。まぁ女の戦士団ってのもいるし、頑張れば何とかなる……かな?」


「……私では、とても……ムリだと思います」


「そっか。まぁ正直、今さっき会ったばかりのあなたをそれ程心配する義理はないわけだけど……」


「ミューズ!!」


「分かってるって。夏希の初めての友達だしね。とりあえず仲良くやっていこうよ、宜しくレジーナ」


「はい! 宜しくお願いします!……えっと、それで……あの……後からだと聞きづらくなると思うので今聞いておきたいのですが……」


「ん、何? 何でも聞いてよ。答えられないこと以外なら答えるから」


「えっと、それでは遠慮なく……女神様は……ミューズ様は、夏希さんの……母親……なんですか?」


「うん、そうだよ。私は女神ミューズ。音楽の女神だよ。そんで夏希は私の一人息子だよ」


「やっぱりそうなんですね。女神様にお子様がいらっしゃるとは……初めて聞きました。確か、エリス様も夏希さんのお祖母様だとか……?」


「そうそう。お婆ちゃんって言ってもめちゃくちゃ昔の話だけどね、ま、その辺はまた親しくなったら嫌でも聞くことになるだろうから、今は夏希は私の子供、ってことだけ理解してくれればいいよ」


「はい、分かりました。教えていただきありがとうございます」


「胸、大きいよね」


「……! は、はあ……人並み……かと……」


「それ使って夏希を誘惑しちゃダメだからね?」


「あ、あの……! え? ……ああ……はい、気を付け……ます」


「ミューズ怒るよ!!!」


 一体何なのこの状態は! 

 ああ、やっぱりミューズを待ってからご飯にすれば良かったかも!

 そうすればこういうことにならなかったかも!

 ……いや、それだともしかしたらレジーナとは友達になれなかったかもしれない。

 良かった、ということにしておこうか。

 うん、偶然が重なって、レジーナと友達になれたんだ。

 これも縁、だよね。







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