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迷宮の主の意志

 ミューズと話しながら宿泊所に帰ってきて、みんなでお茶を飲んで一服する。

 正直、ちょっと疲れたからね。

 僕もミューズも叢雲もエリスも、ふいーって感じでリラックスする。

 とそこで、


「というわけで、第2回家族会議を開催するぞい」


 叢雲が宣誓する。

 あれ、家族会議なのねこれ。

 作戦会議とかそういう感じだと思ってたんだけど……まぁ家族だし家族会議か。


「で、なんでまたエリスがいるの……ってもういいか別に。一応はお婆ちゃんだし」


 ミューズがエリスを見ながら呟く。


「そうそう。ミューズも分かってきたわね。夏希がいる以上は私は家族なんだからここにいてもおかしくないのよ。夏希がいなければあなた達とは何の関係もないのだけど」


「一応は女神同士なわけだけど……ま、そうだね。女神だからって別にどうしたってわけでもなし。私達は夏希がいるから繋がってるだけだね、確かに」


 ……そうなの?

 女神って世界を守ってるんだよね?

 女神同士が仲良く連携してとかそういうイメージを持ってたんだけど、そういう風でもなさそう。

 ここは今後のこともあるし素直に聞いてみようかな。


「ねえミューズ、エリス。女神同士ってどういう関係なの? ミューズとエリスを見てるとあんまり仲良くないような気もする……んだけど、いや今はそれなりに仲がいいけど……でもミューズとハーモニーとフォルテって凄い仲良しでしょ。一緒に庭に住んでいたくらいだし、それにミューズもエリスも言ってたけど、ハーモニーかフォルテのどちらかが僕と結婚する予定だったんでしょ? 母親としては信頼してないとムリだよね」


 ミューズが応えてくれる。


「そんなの人間と同じだよ。仲のいい女神もいるし悪い女神もいるよ。私とハーモニーとフォルテは音楽の女神仲間ってこともあって仲がいいってのもあるけど……やっぱり大切なのは性格の合う合わないだよね。夏希もハーモニーとフォルテのことは好きでしょ? 私も同じ。気が合うんだよ」


 うーん、そんなもんか。

 そうだよね。

 女神だからってそこら辺の人間関係?が人間と大きく変わるってことはないのだろう。

 エリスも教えてくれる。


「ミューズ達のところみたいにいつも一緒にいるくらい仲が良いのはかなり珍しいわね。私もずっと女神としては1人で活動しているし、ほとんどの女神がそうだと思うわ。それでも女神は世界の守護者という立場があるから、そこは立場の垣根を超えて協力し合う時もたまにはあるわね」


「そうなんだ。やっぱり女神も世界のために協力し合う時もあるんだね」


「例えば、子供達カリーナを殺しに何らかの存在が動いていたとすれば、女神は全員一致でその存在を潰しにかかるわ。これは絶対普遍であり、変更のないことね。……でも、確定で女神同士が協力し合うっていうのはそのくらいのものかしら。子供達カリーナのことになると女神は目の色が変わるから」


「ありがたいね。子供達カリーナのことを大切にしてくれているんだね」


「それはそうよ。女神は世界の守護者で、子供達カリーナはそのために絶対必要な存在。……それに、女神の多くが子供達カリーナの母親だったことがある。いわば現在の子供達カリーナの危機ってのは自分の子孫の危機でもあるわけだから。女神はみんな自分の子供達カリーナのことは溺愛するからね……その子孫の危機ともなれば、世界の守護とかそういうの以前の話なわけよ」


「自分の孫が誰かに虐められていたら絶対助ける的な?」


「そういう感じかもしれないわね。でも世界の守護とかそんなのよりよっぽど分かりやすくて純粋な気持ちだと思わない?」


「確かにそうかもしれないね。うん」


 とそこまで話したところで叢雲が割って入る。


「女神と子供達カリーナの話もまぁ大切じゃが、まず目の前のことを片付けるぞ。話がいつまで経っても進まんわい」


「ごめんなさい、そうね」


「ごめん叢雲」


「まずじゃな、今回話さなければならんことは言うまでもなくワイバーンの一件のことじゃ」


「ワイバーンの? ……でも、もう討伐したから危険はないんじゃ?」


「そうではない、主様。問題なのは、あそこにワイバーンが出現したこと自体じゃ。迷宮の入り口からモンスターが這い出てくること自体は当然のように起きていることじゃ。そのための戦士団じゃしな。じゃが、ワイバーンのような強力なモンスターが出てきたことは、恐らくは今までになかったことじゃ。そうじゃな? エリス」


「ええ。私の記憶の中ではそんな事例はないわ。国の記録を全て紐解いてみても、恐らくは今回は初めてのはずよ。竜種が迷宮から這い出てくるなんてことは」


「ミューズはどうじゃ?」


「私の記憶にもないね。私はエリスみたいに都市に住んでいるわけじゃないから迷宮や塔のことはそれほど詳しくないんだけど、そんなことがあれば女神である以上は耳に入るはずだよ」


「そうじゃよな。恐らく他の女神に聞いてみても、人間……ここのトリネロ公に聞いてみても答えは同じはずじゃ。他の都市の七貴族に聞いてみても同じじゃろうな」


 ……そんなレアケースだったのか、ワイバーンが現れるというのは。


「主様があそこで仕留めなかったら、トリネロは甚大な被害を受けておったじゃろうな。エリスは神殿から離れられんわけじゃし……いや、エリスが迎撃に出たとしても止められたか分からん。どうじゃ? エリス」


「成竜のワイバーン……でしょう。浄化の力がほぼ無効化される以上、女神としての優位性がないのよね。そうなると肉弾戦になるわけだけど、こちらはブレスを一発受ければ確実に敗北するわけで、分はかなり悪かったでしょうね」


「ミューズは庭に行っていてあの場にいなかったわけじゃが、ミュースがいても同じじゃったろうな」


「成竜を女神単体で相手にするのはムリだよ。少なくともチームを組まないと。女神は死にはしないけどブレスを受けたら戦闘どころじゃないし、下手すると数年間は存在自体が消滅する可能性すらあるよ。ワイバーンはそこまでのブレスは持っていないはずだけど、赤龍や地龍なんてのが相手だと……想像もしたくないね」


「というわけじゃ。主様、本当に良かったの」


「うん……本当に良かった。なんか今頃になって震えが……」


「ほらこっちに来い主様。旅の途中みたいに儂が後ろから抱き抱えてやるわい」


「ありがとう叢雲……そっか……僕がワイバーンに立ち向けたのは無知故のことだったのかもしれない……」


「いいや、主様の勇気あってのことじゃ」


「……全てを知った上で立ち向かえるのが勇気だと思う……僕はあの時、竜種というものはそれ程の存在だとは知らなかったから……」


「主様はワイバーンを止めた。止めて労務場もトリネロも守った。それだけでいい」


「うん……ありがとう叢雲」


「では話を戻すぞ。その強大極まるワイバーンが迷宮が出たこと、これは主様……つまり子供達カリーナと無関係とはとても思えん。つまり、主様へ狙ってのことじゃと儂は思う。どうじゃ」


 叢雲がミューズとエリスに話を振る。

 ミューズが答える。


「無関係じゃないだろうね。夏希が……子供達カリーナが迷宮のあんな側まで行くってのは、相当に久しぶりの話だったはず……恐らくは何百年もそういったことはなかったはずなんだ。だから、迷宮がそのチャンスを逃したくなくて、ワイバーンを地上に送り出したんだと……私は思う」


 エリスが続ける。


「私も同意見ね。子供達カリーナはほとんどの場合、絶対安全な所で保護されているわけだから。迷宮にしてみたら自分達を封印している子供達カリーナが偶然にも目の前に出てきたわけだから、手段を選ばずに殺そうとしてきてもおかしくないわ。……いいえ、おかしくないどころかそれが自然でしょうね」


「やはりそう思うじゃろうな……連続して強力なモンスターが出てこなかった所を見ると、迷宮としても相当にムリをしてワイバーンを送り出したんだとは思うが……」


 迷宮が僕を殺そうとした。

 考えてみれば当たり前のこと。

 迷宮の封印をしているのは僕なんだ。

 自覚はなくとも、僕……子供達カリーナの存在自体が迷宮への封印として機能している。

 ただそれだけのために存続させられている血族が僕のような子供達カリーナなのだから。

 目の前に僕がいたら……そりゃ、殺しに来る。

 いつもは出さないようなモンスターも死に物狂いで地上に送り出して、僕を殺しにくるだろう。

 そこまで考えが全く至らなかった。


「迷宮としても一か八かだったんじゃろう。もうしばらくはあんなモンスターが地上に出ることはないじゃろうよ。もしかすれば数百年分の力を使って送り出したのかもしれんしな」


 しかし……なんか、背筋が寒くなる。

 つまり、迷宮に『意志』があるということなんだ。

 僕がいたから迷宮からワイバーンが、ワイバーンの意志で出たきたのではない。

 迷宮が僕を殺すという意志を持って、ワイバーンを送り出してきたのだ。

 その事実にゾッとする。


「なんか迷宮って生き物みたいだね。意志を持って僕を殺そうとするだなんて」


 正直な感想を口にする。


「……間違っておらんよ。今でこそ迷宮や塔、城の形をしておるが……最初に封印された時は、やつらは生き物じゃったからな、間違いなく」


「……え?」


「もう生き物とは呼べん。ただの狂気と肉の塊じゃ。恐らくは迷宮の最深部、最奥で元は生き物じゃったナニカがもぞもぞと蠢いておるんじゃろうよ。主様を狙ったのは、ただ主様を憎くて憎くてしょうがなかっただけじゃ」


「……何なの、それ。何なの」


「……忘れた。遠い昔のこと過ぎてな……ただ……本音を言えば……主様をあんな醜悪な存在と会わせたくない……主様が本気で迷宮踏破を目指せば……いずれあんなモノと相対する……それが、たまらなく怖い……いや、気持ち悪い。たまらなく気持ち悪い。主様は、あんなモノとは無縁に生きていって欲しいという気持ちが……今でもある」


 叢雲はそれっきり黙ってしまった。

 代わりにエリスが続ける。


「名を……トリネロ。迷宮トリネロの主、トリネロ。迷宮の名の元であり、都市の名の元であり……私の子供達カリーナかたき。私が人生を賭してでも絶対に殺さなければならない、肉と悪意の塊よ」


 ……エリスはもはや、生き物とすら呼ばない。

 肉の塊。

 悪意の塊。

 迷宮の主、トリネロ。

 それが、僕が討伐しなければならない存在か。



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