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今度はミューズも一緒に

 戦士団や労務者で怪我をした人を医療ができる場所に運んだりなど、ワイバーン討伐の後もやることは山ほどあった。

 ブレスによって破壊された壁や施設などの復旧は、さすがに今日これからというわけにはいかず、後日専門の人が復旧計画を立てたからということになり、一旦解散するということになった。

 戦士団の団長などはこれからトリネロ公への報告などまだまだ仕事があるようだが、とりあえず僕がいてもやれることはないということになり、今はミューズ達と労務場の宿泊所に向かっている。

 叢雲とエリスはこれからの方針について話さなければならないことがあると言っているし。


「こうしてみんな無事で家に帰れるのは本当に嬉しいよ、ね、ミューズ」


「……」


「ミューズ、ごめん。分かっているんだよ。本当にミューズの気持ちは分かっている。そしてそれが嬉しいしありがたいと思っているんだ。迷宮攻略を決めたのもワイバーンに挑んだのも僕の都合、ミューズの気持ちを無視して突っ走ったのも僕の都合なんだ。分かっているよ。ごめんねミューズ」


「……」


「一緒にご飯を食べよう。そうして一緒に色んなことを話そう。庭に久しぶりに帰ったんだよね。様子は僕が知っている頃と変わっていなかった? トリネロまでの道中で何か変わったものは見た? ね、色々と話そうよ。教えてよ。ね、ミューズ」


「夏希の……バカ」


「……うん、ごめん。ごめんねミューズ」


「何でもママに相談してねって言ったのに、隠し事も嘘もダメだって言ったのに。夏希のバカ」


「ごめんね。今回は相談する暇がなかったんだ。ミューズにはこれからも何でも相談するよ。お願いねミューズ、その時は聞いてね」


「……なんか私が子供みたいじゃんか。夏希、なによ大人ぶっちゃって。ズルいよ。この前までおっぱい吸ってたくせに」


「……おっぱ……え……そういうこと言われると……困る……」


「吸ってたんだもん」


「うん……そりゃ吸ってたんだろうけど……あの……叢雲もエリスもいるし……ちょっとそういう話は……」


 ちらっと叢雲とエリスを見る。


「いや儂は主様がおっぱい吸ってたところにおったし。見ておったし。ハーモニーもフォルテももちろん見ておったぞ」


「親が子供におっぱいあげるのは当たり前でしょう? なに夏希、恥ずかしがっているの?」


 ……ああ、そうですか。

 そりゃ叢雲は一緒にいたよね。

 人間形態ではなかったけど。

 刀の姿でジーっと見てたんだねそうですね。

 それにエリスはもう子育て経験あるんでしたね。

 おっぱいあげるくらいのことで動じませんよねそりゃ。


「改めて思うけど、子供なの僕だけだよね。というか僕が人生を存分に生きても全然年齢的に届かないよね? 近づきすらしないよね?」


「そりゃそうじゃ。主様が100歳まで生きたとしても儂らにとっては赤ん坊みたいなもんじゃ」


「そこら辺は寿命の問題だから……夏希にはどうしょうもないわ。気にしないでおきなさい」


 ……そうですね。

 100歳まで生きても赤ん坊……ね。

 実の母親のミューズにしてみれば更にそういう感覚は強いんだろうね。

 チラっとミューズを見る。


「で夏希、ジュリエッタって誰」


「え?」


「さっきジュリエッタって言ってた。誰。戦士団の中に女が1人いたけど、それ?」


「ああ、多分そうだよ。僕が迷宮出口付近に駆けつけた時に、ジュレエッタさんがいたんだ。ワイバーンの討伐の計画を立ててくれたのもジュリエッタさんなんだよ。学院と戦士団の両方に籍を置いていると言っていたよ。今回の討伐はジュリエッタさんのお陰と言ってもいいと思う。もちろん戦士団の皆さんの協力あってのことだけど、それでも最初に……」


「なんなの」


「なんなのって……」


「仲良くなったの?」


「仲良くというか……お世話になったというか……」


「へー。仲良く。ママに内緒でワイバーンと戦うなんて無茶をしておいて、そんでその途中で女と仲良くなってたんだ。へー。器用なもんだね夏希は。大したもんだよほんとにふんとに」


「……ミューズ、もしかしてそれで怒ってるの?」


「怒ってなんかない! バカ! 夏希のバカ! デリカシーなし!!」


「……ごめんなさい」


「主様、今日はミューズと一緒のベッドで寝てやれ」


「一緒のベッドで? え、それって何か関係あるの?」


「大アリじゃ。いいからそうしてやれ。つべこべ言わずに。親子水入らずで睡眠をとれ」


「う、うん……叢雲がそう言うなら……」


「叢雲が言うからって何! 何! 叢雲が言わなかったら嫌なの? 私が言い出したら嫌なの? バカ! バカ! 夏希のオタンコナス!!」


「……ごめんなさい」


「あれじゃな、主様には儂とミューズとエリスで第1回女心分かろう講座を開催せねばならんようじゃな。短期7日間集中くらいで。単純なんじゃがそれでいてデリケートという面倒くさい物の取り扱い方法を教えないといかんようじゃな」


「……お願いします」


 やることがどんどん増えていく……

 でも、女心分かろう講座は実は僕にはかなり必要かもしれない。

 何だかんだで僕の周りは女性の比率が多いし、スムーズな人間関係を構築するためにも女心というものは分かっていて損はないだろう。

 あ、そうだ。

 今度現場長にも相談してみようかな?

 人生経験豊富そうだし、そういうことにも精通している気がする。


「主様、言っとくが現場長よりも儂らのほうが人生経験豊富じゃからな?」


「……絶対、僕の心の中読んでるよね君たち……」


「そんなもん使わずとも主様の考えてることくらい丸分かりじゃ」


「そう……ですか」


 そこでエリスが話に加わる。


「あら、夏希は別に女心なんて分からなくてもいいわ。そんなこと全く気にしなくていいのよ。夏希は夏希のやりたいようにやればいいだけ。それで私たちが夏希のことを嫌うとかあり得ないわけだし、必要ないわよそんな講座。他の女にどう思われようが関係ないでしょう?」


「いや関係あるよ! 嫌だよ女神と叢雲としか仲良くなれない人生とか! あ、ごめん……嫌じゃないけど、嫌じゃないけど……女心教えて下さい! 是非に!」


「ふーん。そんなものかしらね。じゃあ教えてあげるわよ。常識を持って身綺麗にしていてわざとらしくなく褒めることを忘れずに間を持たす話術があってあまりベタベタしないで距離感を丁度よく保ってそれでいて好意を持っていることをさりげなくアピールすればいいんじゃない? 人間の女相手なんて。それで十分よ」


「……」


「簡単でしょ」


「多分ムリ。多分というか確実にムリ」


「そう。ならいいわよ。そんなことしなくても私たちは関係ないのだから。夏希が世界中の女に嫌悪される存在になっても私たちはあなたが一番なのだから」


「そんな存在になりたくないよ!」


「物の例えよ。だから、ジュリエッタとは仲良くしなくていいから」


「……エリスも気にしてたんだね」


「仲良くしなくていいから」


「……」


 あれ、ワイバーンを倒して笑顔の帰り道になる予定だったんだけどな、僕の予定では。

 何がズレてこうなったんだっけか?

 何もおかしなことしてないはずなんだけど……

 いや、やっぱり自分で決めたこととはいえ、ミューズとちゃんと話していなかったのが原因なんだろう。

 ミューズなら分かってくれる、だって母親だしずっと一緒にいたし僕のことなら何でも……というミューズに対する絶対的な安心感というか甘えがいけなかったんだと思う。

 親子だって言わなきゃ分からないよね。

 きちんと言葉で伝えなきゃダメだ。


「夏希」


 ミューズが僕に話しかける。


「うん、なに? ミューズ」


「庭からトリネロまで、叢雲と一緒に旅したんだよね?」


「うんそうだね。ツノウサギとかゴブリンとか結構大変だったよ。何しろ僕は庭入り息子だったからね」


「私ともしよう」


「……え?」


「叢雲は夏希の守り刀だから一緒なのはしょうがない。だから、私と夏希と叢雲で、もう1回ここから庭まで旅をしよう。そうしてまた庭からトリネロまで戻ってこようよ」


「別にいいけど……なんで?」


「……さっき、ここから庭に戻る途中、飛びながら色んな景色を見た。草も木も空も川も湖も池も丘も、色々見たの。夏希はここを通ったのかな。夏希はどういう気持ちでここを見ていたのかな。楽しい気持ちだったのかな、不安な気持ちだったのかな、それとも疲れていてそんなことを考える余裕もなかったのかな、そんなことを考えていたの。木を見れば、もしかしたら夏希はこの木を触ったのかな? 草を見れば、夏希はここに寝転んだのかな? とか、そういうことばっか考えてた。何を見ても触っても考えるのは夏希のことばっかだったの。そうして、そこに私がいなかったのが悲しくなった。夏希と一緒にこの景色を見たいと思ったの。草でも木でも、そこらにいる虫でもなんでもいいよ。夏希と一緒に見たいと思ったの。見て話したいと思ったの。触りたいと思ったの。触って話したいと思ったの。空気の香りも暖かさも冷たさも、そういうのもぜーんぶ、夏希と一緒に感じたいの」


「うん」


「一緒に歩こうよ、夏希。ママと一緒に」


「分かった。一緒に歩こう。ここから庭まで。そしてまた歩いて戻ってこよう」


「えへへー、ありがと夏希。ギューしてあげる~」


 ニコーっとミューズが微笑んで抱きついてきた。

 やっぱりミューズは笑顔が似合う。

 ごめんね心配かけて。

 一緒に歩いて、たくさん話そう。

 僕が庭を出てからどうやってトリネロまで来たか、初めての戦闘でツノウサギに蹴られまくったこと、歩きながら何を考えていたか、みんな話そう。

 夜、不安になって起きてしまいミューズのことを思い出して泣きそうになったことも……話そう。

 トリネロにミューズが来てくれてどんなに嬉しかったかも、それも話してしまおう。

 自由に生きたくて庭から飛び出してきて、それで迷宮を攻略するなんてとんでもないことを決められたのも、実は僕には帰る所があって、そしていつでも帰ることができるからという安心感があるから出来たんだということも……話してしまおうか。

 弱っちい僕のことを話しても大丈夫だよね、だってミューズだから。

 

「ミューズ、手、繋ごうか」


「繋ぐ繋ぐ! どうしたの夏希。ママが恋しくなっちゃった?」


「そうかもしんない」


「そっかそっかー。ね、ママがトリネロに来て嬉しかった?」


「うん、嬉しかった。ミューズがいてくれるから僕は好き勝手やれるんだってよく分かったよ。それが分かっただけでも庭から出てきて良かったと思う」


「……夏希が素直になってる……嬉しいけど……夏希、またどっか行くとかないよね?」


「ないない。僕はまずここトリネロで迷宮を攻略するし、その為に学院に入学して勉強する。ミューズも学院に来るんでしょ。ならずっと一緒だよ」


「そうだよね。ママとずっと一緒だよね」


「うん一緒。叢雲もミューズもエリスもずっと一緒だよ」


「エリスはどうでもいいけど、嬉しいなママ。そっか。夏希がこうやって素直になってくれるんなら庭から出た意味もあったってもんだね~」


「そうそう。可愛い子には旅をさせろってね」


「そうだね~ハーモニーもフォルテも喜ぶよ。早く2人もトリネロに来ればいいのに」


「置き手紙置いて来たんでしょ。そのうち来るよ」


「そうだね。それまでは私と夏希で親子水入らずだね!」


「叢雲もいるけどね」


「いるけどね!」


 ミューズが向日葵みたいな笑顔になる。

 うん、ずっと笑顔でいて欲しい。

 そのために僕はやれることを頑張ろう。


 うーん学院で他の女の子と知り合う機会ってのは壊滅的に望めそうにないけど、まぁいいかそれでも。

 考えてみれば美人に囲まれてる状態なんだよね。

 トリネロに来て色んな人を見て分かったけど、女神と叢雲って、めちゃくちゃ美少女なんだよね。

 エリスも含めて。

 生まれてから女神3人と暮らしてきたから何とも思わない、というか当たり前だと思ってたんだけど、なんなんだろうね? 

 女神ってのは美少女しかなれないのだろうか?

 というわけで、女の子との出会いの王道中の王道である一目惚れってのは、多分僕にはないと思う。

 僕は美人慣れしちゃってるんだ。

 うん、とんでもないこと言ってるのは分かってるけど、本当にそうなんだからしょうがない。

 だから、学院で隣の席の子が超絶美少女だったとしても、多分何も思わない。

 よって、美少女をひと目見て恋に落ちるという可能性は限りなく低い。

 そう考えると分かりやすいボーイ・ミーツ・ガール的な展開はもう絶望的だと思っていい。

 あれ?

 ダメじゃん。

 一応庭から出てきたのはそういう恋とかするのも目標の一つだったんだけど、その可能性が低くなってしまっている。

 そうなると、僕はひたすら迷宮攻略を目指す……のか?

 いや、迷宮攻略は僕が背負うものの一つだけど、それだけの為に生きるのではないと決めてある。


 なんか混乱してきた。

 ……帰ろう。


「ミューズ、帰ったら今日は一緒に寝ようね」


「そうしようね!」


 ……こういうのがいけないんだろうか?

 美少女と一緒のベッドで寝るというのが何の苦労もなく実現してしまっている。

 いやミューズは母親だし。

 そういうんじゃないし。

 でも、母親と一緒に寝るってこと自体が……


 もういいや、今日はおうちにかえります!!


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