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はじめての都会

「最初に行くのは小さめの街とかがいいんじゃなかったっけ、叢雲」


「そう思っとったが、着いてしまったもんはしょうがなかろう、主様」


 前方3kmくらいだろうか。

 もう見るからに大きな都市がある。

 僕と叢雲は、川に沿って歩きながら街道を探し、その街道からやや小さめの街や村へ行こうという予定だったのだけど、目の前にあるのは紛れもなく「都市」だ。

 城壁にグルっと囲まれた立派な都市がそこにある。


「まさか街道に出ずに、いきなり都市に出るとは思わんかったわい」


「これ、都市の裏側というか、そういう感じだよね? 多分、街道はここの逆側にあってそこが表玄関になっているんだと思う。僕達は街道に出ないで都市に裏側に着いちゃったって感じなんだろうね」


「そういうことじゃろうな」


「大きいねぇ。あの中にたくさん人がいるんだろうね」


「大きいの。女神と儂以外に会ったことがない主様にはちと刺激が強すぎる場所だろうのぅ」


「どうしようか」


「主様が決めればええ。都市に入るのは後回しにして、街や村を探すのもええじゃろ。大きな都市の周りにはそういった街がある場合が多いでの。さほど時間もかからずに見つかるはずじゃ」


「僕としては、もうなんというか、正直に言うと心が踊ってしまっているんだよね。あの都市が見え始めた時からね。できれば他の街を探すよりも、このまま都市に入ってしまおうと思っているんだけど……無謀かな?」


「いいか主様。あれは都市じゃ。規模から見て、七都市の一つに間違いない。儂もここのところ外に出ておらんかったから七都市のうちのどれかまでは分からんが……七都市であることは間違いない」


「うん、そうっぽいよね」


「儂が前に言ったことは覚えておるよな? 七都市には地下迷宮、塔、城が存在し、そこからモンスターが湧き出てくると。儂としては万が一にもそのモンスターと主様が遭遇して殺されることは避けたい、と。そう言ったのは覚えておるよな?」


「もちろん覚えているよ」


「それでも行きたいのじゃな?」


「正直、行ってみたい。この都市を見てしまうと、ここを迂回して他の小さな街に行くというのは……ちょっと考えられないかな」


「ならば約束してくれ主様。モンスターに遭遇したら逃げるのは当たり前のこととして、街に何らかの異常を感じても、その時点で都市から脱出すると。モンスターの姿を確認せずとも、違和感を感じただけで都市から離れるとそう約束してくれ」


「分かった。叢雲がそう言うのはもっともだ。予定変更しようとしているのは僕なんだから、そこら辺はもちろん受け入れるよ」


「それなら、まあええじゃろ。元々商業区やらにモンスターが漏れ出て来るのは稀なことじゃからの。もし出てきても、逃げていればそのうちに戦士たちが討伐してくれる」


「じゃあ……行ってみようか、叢雲」


「ああ、行くとしようか主様」


「ここから見えるのは都市の裏側じゃが、それでも都市への入り口くらいはあるはずじゃ。表側に回ってもええし、裏側から入ってもええ。主様はどちらにしたい? ちなみに表側に回るのは都市の規模からして数時間かかるかもしれんぞ」


「どこから入っても都市の中に行けるのは変わりないんだよね? だったらこのまま、ここから見えている都市の裏側から入ってもいいんじゃないかな。何か問題あるかな」


「いや、大丈夫のはずじゃ。もちろん都市に入るには門があって、そこに役人がいるから手続きをする必要はあるが、それは表側からでも同じことじゃ。ではこのまま裏側から入ることにするかの」


「うん、そうしよう叢雲」

 

 僕と叢雲はここから見えている都市の裏側から入ることに決める。

 最初に入るのだから表側から入るのがいいかな、ともちょっと思ったけれど、それでもここから数時間かかるというのは……一刻も早く都市の中に入ってみたいという衝動には逆らえなかった。


 入り口が見えてくる。

 門……なのだが、裏側だからなのだろう、それほど大きくはない。

 城壁の一部に穴が開けられたような印象で、門の近くには机と椅子がいくつか並べられ、役人と思われる人達が5人待機している。

 門に近付くと、そのうちの1人が声をかけてきた。


「止まれ」


「はい。よろしくお願いします」


「都市トリネロに何の用か? ここは都市の裏側。街道から来るとすればこちら側に着くはずがないのだが。わざわざ回り込んだのか?」


 トリネロというのか、この都市は。


「はい。私達は街道から来たのではありません。ここに通じる川に沿って移動して来ました。街道に出るかと思ったのですが、先に都市に出てしまったのです」


「川に沿って? 道も何もないだろう。ずっと歩いてきたのか?」


「はい。川に出るまでは草原を通ってきました。ずっと歩きです」


「……まぁいい。どうやってここに着いたかは私達が問うことでない。お前たちは都市に入るつもりなのだろう。なら必要なのは身分証と都市に入る目的だ」


「身分証は持っておりません」


「身分証がない? お前たちはどこから来たのだ。どこの都市や街に入るにしても職に就くにしても身分証がなければ話にならないだろう。村から来たのなら村長が発行するはずだ。村で悪さをした人間を村から追い出すにしても、身分証だけは必ず発行するように法で定められておる」


「(叢雲! そうなの? なんかヤバくない?)」


「(何かそういうものもあった気がするのぅ……忘れておったわ)」


「(かなり重要度高い情報だよ! どうしよう!)」


「どうした。本当に身分証はないのか? 村が発行するものでもギルドが発行するものでも種類は問わんぞ」


「申し訳ございません。本当に持っていないのです」


 まさか家出する時にミューズに「ねえ、ここから出たいから身分証作ってくれないかな」とか言えるはずもなく……持っていないものはしょうがない。


「では、本日のところは出直すということでよろしいでしょうか。本当に身分証は持っていないのです」


「本当に持っておらんのなら、そういうわけにはいかなくなる。都市に侵入しようとした身元不明の人間という扱いになるからな」


「え。どうなるんですか?」


「都市には入れることになる。なるが、自由に行動させるわけにはもちろんいかなくなる。取り調べを受けた後に、都市に残るのなら何らかの強制労務を課されることになるだろうな」


「強制労務……」


「まぁ、永遠にというわけではない。一定期間の労務が明けたら都市が身分証を発行するケースもある。見たところお前たちは別に盗賊山賊の類というわけではなさそうだしな。お前たち次第だよ。ここに限らず都市は戦闘のできる人間はいつでも欲しがっているしな」


 強制労務と聞いてすわ奴隷落ちかと身構えたが、このお役人さんの様子からすると、なんかそう深刻な話でもないらしい。

 都市が身分証を発行してくれるなら願ったり叶ったりだし、そのために労務が必要だと言うならそれは当然のような気がする。

 恐らくは、労務をさせている最中に危険な人間かどうかを審査するのだろう。


 気になるのは、戦闘のできる人間を都市が欲しがっている、という点。

 やはりモンスターが出るのと関係してくるのだろうか。

 

「まぁ何とかなるじゃろ。はよ行くとしよう主様」


「叢雲は凄いよね。主に神経の太さが。針金かなんかでできてる?」


「心配しようがしまいがどうなるかは変わらんよ、主様。なんとかなるじゃろ。労務が必要だと言うなら、少し働いてやればええ」


「うう……確かに心配してもしょうがないけど、やっぱり心配だよ。僕にとって初めてのことだらけなんだから。あ! そういえば人間と初めて喋ったの、さっきのお役人とだった!」


「初めての人間との会話は、突然出会った美少女と……が良かったかの、主様? 甘い! 甘いぞ! そんな都合のいい話は人生に存在せんのじゃ! 初めての人間との会話は役人と、という面白くもなんともない結果で残念だったのぅ主様」


「うぅ……」


 経緯はともかくとして、僕達はお役人に連れられ、都市の中には入れることになった。

 順調ではないが、良しとしよう。

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