↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/62

叢雲先生の世界講座・1

「街道まで出れば、後はそこを歩いて行けば嫌でも街に出られるね」


「そうじゃの。街とは限らんがの。街より規模の大きな都市かもしれんし、村かもしれん」


「そっか。じゃあどこに行くかは分からないってわけなんだね。街道任せって感じかな?」


「それは自分達である程度は決めることができるの。街道には分岐点があって、大抵そういうところにはこのまま進めばどこに行きますよ、という案内板があるもんじゃから、そこで自分達がどこに行きたいか決めればええ」


「そうなんだ。親切なんだね」


「街道を使うのが、旅慣れした行商人や旅人ばかりとは限らんからの。主様……とまではいかんが、自分の村から出るのが生まれて初めてという者も使うからの。そういう親切案内は必要なんじゃ」


「でも、それだとどこに向かうかかえって迷っちゃうよね。僕は街道に出たらそのまま進んで最初に着く街にしばらく滞在しようとか思っていたんだけど、自分で選べるとなると……僕はどこにどんな街や都市があるのかとか、そこがどんな所なのか全く知らないからね。街道を使う人は何かしらの目的があって使うんだろうからそんな悩みはないんだろうけど」


「そうじゃな。現在の世界・世間知らずランキングで堂々の一位じゃろうな、主様は」


「酷い!でもその通りだから何も言えない!」


「世間知らずではあるが、主様は別に無知というわけでもなく、常識もあるし学問も普通にできるんじゃよな。偏りがあるというか……ミューズの教育の結果なんじゃろうな。主様の知識を完全にコントロールしておるというか、主様が知らなくていいことは徹底的に除外してあるというか、そういう印象を受けるの。まぁそれは悪意などではなく純粋に主様のことを思ってのことなんじゃろうが……」


「僕の知識のほとんどはミューズ、ハーモニー、フォルテからのものだから……あとは本くらい。その本もミューズ達が何を読ませるか決めていたんだけどね。うーん、それにしても街道の分かれ道か」


「決めるのは主様じゃが、儂の意見を少し言わせてもらうとだな……最初からあまり大きな都市に行くのはお勧めせんな。できれば村か、中規模くらいまでの街に行くのがええと思う」


「それはあれだから?大きな都市は怖いところだから?田舎者で世間知らずの僕なんかが行ったら悪い人に騙されてポイーされちゃうとか、そういう感じになるから?……確かに人がたくさん住むところは色々と怖そうだよねぇ……人との話し方とか交渉術とか、そういうのを練習してから行かないとダメかもしれないね」


「確かに大きな都市にはそういう怖さもあるかもしれんの。じゃがの、儂が心配なのはもっと直接的というか、物理的な怖さなんじゃ」


「直接的?」


「うむ。そこを話すには、この世界について少し説明せねばならんだろうな。……本当は嫌なんじゃがな。主様とこの話をするのは……」


「? いや、教えてよ叢雲。この世界についての知識ってのは絶対に必要になることなんだから」


「……うむ、そうじゃな。そのうち嫌でも知ることになるじゃろうし、儂から説明しておいた方がええの」


「そうそう。叢雲は説明が上手だからね。聞かせて聞かせて」


「まずじゃな、大きな都市が怖いのは、モンスターが出るからじゃ」


「へえ。モンスターが」


「そう。モンスターが出るのじゃ。怖い怖いモンスターが出るのじゃ。主様なんて丸かじりじゃぞ」


「それは怖いね」


「ガジガジじゃぞガジガジ」


「いやいや分からない! おかしいって! だって都市は人がたくさんいるでしょう。そんな所にモンスター、それも強いモンスターが出るっておかしいよ! そんな怖いところに人は住みたくないだろうし……それに、警備というか、兵隊さんだってそういう都市にはたくさんいるわけでしょう? モンスターが都市へ入ることはその人達が阻止してくれるはずだ。……あ、そうだ、それに、大きな城壁みたいなもので都市をグルっと囲ってあるもんなんじゃないのかな。モンスターがたくさん出現する場所に都市を作ろうとするなら、当然そういう対策だってしてあるはず……」


「中から出るんじゃよ」


「え?」


「モンスターは、都市の中から出るんじゃ」


「……なおさら意味が分からないかな」


「主様はこう考えておるのじゃろ。モンスターというのは人がいるからそこを襲いにくるものだ、と」


「うん。そう思ってる。確かに僕らはツノウサギを僕の経験を積むために狩っているけど、こういうのはむしろ少数派だよ。大抵は、モンスターが攻撃してきてそれを迎撃するために倒す、とそういう感じのはずだよ。街道を使っている行商人や旅人は絶対にそうだよね」


「確かに今儂らがおる所ではそうじゃな。間違っていない。モンスターが襲ってきて、人間がそれを迎え撃つ、という形が普通じゃ。じゃがの、都市に限っては違う。逆なんじゃ。人間がモンスターのいる場所に、モンスターを倒すために“わざわざ”都市を建設したんじゃよ」


「……なんでそんなことを?」


「危険だからじゃ。モンスターを、都市を作ってでもそこで食い止めねばならぬからじゃ。都市に出現するモンスターはここらに出るモンスターより遥かに強い。文字通り桁違いにな。そういったモンスターが世界中に自由に出ていったら、人間は生活できん。というか滅ぶの」


「モンスターを食い止めるため……」


「そうじゃ。都市からそういうったモンスターを出さぬためじゃ。いや順序が逆か。モンスターを出さぬために都市を作ったのじゃからの」


「……頭の中に具体的なイメージが浮かんでこないな……モンスターは、都市のそこら辺から適当な感じで出現するわけ? そいつらが都市から出るのを防ぐ……? でもそれじゃ、やっぱり都市に住む人達が生活にならないんじゃないかな。いつどこで強力なモンスターが現れるか分からないなら暮らしていけないよ。子供だってお年寄りだっているわけでしょう。都市が都市としての機能を維持できないというか。都市ならお金や物の取引が活発なはずだし、そういうのは安全面が確保されていなければ成り立たない気がするし……」


「主様は自分で考えてみようとする癖がついてきておるな。いい傾向じゃ」


「叢雲にいつも言われてるからね」


「主様のイメージは、都市の中の道とかそこら辺からモンスターが出てきて、そこに兵士がワーって感じで襲いかかるとか、そういうのじゃろ。そこが違うんじゃ。モンスターが出てくる所は都市の中でも決まったところだけじゃ。じゃから、そこを重点的に警備して高レベルの戦士を配置しておけば、一般人が暮らす居住区や商業区にモンスターが漏れ出ることは、ほとんどない。……逆に言えば、稀にある。もちろん、すぐに戦士が駆けつけて集団で倒すことになるがの。前に儂が、学者になるにせよ戦闘の心得はあった方がいいと言ったことがあるじゃろう? それはこのためじゃ。戦闘が出来れば、戦士が駆けつけるまでの時間稼ぎくらいにはなるからの」


「へえ。決まったところだけからしか出ないんだね。それなら少しは安心だ。叢雲が最初に都市に行くのはお勧めしないって言ったのは、その稀に出てきてしまうモンスターのせいだね」


「その通りじゃ。都市に着いたらすぐに漏れ出たモンスターと主様が対決、なんてのは考えたくもないわい。戦士が駆けつける前に出会ってしまってはどうしょうもないからの」


「話を聞く分にはそんなにしょっちゅうモンスターが居住区や商業区に出てきてしまうこともないだろうし、そんな大きなリスクには思えないけど……」


「万が一が起きたらまず死ぬような所に主様に行って欲しくない。都市でないとできないような用事があるでもなし、そこらの街や村で適当にブラブラしながら戦闘経験を積んでから、それから行けばええ。急ぐ旅でもなし、な」


「確かに急ぐ必要もないね。分かった。都市に行くのは後でってことで」


「それがいいじゃろ」


「それにしても、都市には強いモンスターが出る、かぁ。それも決まった場所から出現する。うーん、怖いし今すぐ行こうとは思わないけど、どういう所なのか見てみたくはあるよね。興味があるよ。あれかな。穴みたいなのがあって、そこからブワーって感じでモンスターが飛び出てくるとか、そういう感じなのかな」


「それは都市によって違う。少なくとも穴……ではないな」


「じゃあ、大きくて複雑な魔法陣みたいなのがあって、そこからシュバーって感じで現れるとか?」


「それも違うの。主様は想像力豊かじゃのう。モンスターが出現する場所は都市によって違うが、簡単に分類すると3種類じゃ。『地下迷宮、塔、城』じゃ」


「地下迷宮、塔、城……」


「地下迷宮と塔が3つずつ、城が1つの、合計で7ヶ所。それがモンスターが出現する場所じゃ。当然、それらを囲う都市も7つじゃ。大抵の者は、単純に七都市という風に呼んでおるの」


「地下迷宮と塔、それに城を囲うようにして作られた都市……」


「そう。モンスターは迷宮から這い出て、塔の入り口から這い出て、城門から這い出てくる。それらを世界に出さぬように作られたのが七都市じゃ。それぞれ、世界で屈指の剣技、魔法、闘技の使い手がそこを守っておる。世界の最前線にして最終防衛線、それが七都市じゃ」


 七都市。

 強力なモンスターが出現し、それらを外に出さない為に作られた都市。

 今の僕には何の関係もないはずの話。

 なのに、叢雲からこの話を聞いた途端、僕の心臓はドクンと跳ね上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。