クワイエット・アーケード - 8
通路を抜けた先は、森だった。
正確に言えば、森に入る手前だった。
まず切り株があり、その上に銃のような形のアイテムと、ナタのような形のアイテムが置かれている。その先に、森が一面に広がっている。
そしてまた、今抜けてきた通路を背にして左側に、扉のようなものがある。森の中という屋外のフィールドなのに扉が一枚だけ自立していて、扉にはやはり大きく、赤く、バツが示されていた。
〈ルカ〉が最後に通路から抜けると同時に、通路は消滅し、振り返ってもただ草原が広がっているだけになった。
エリアは静寂に支配されていた。だが森の方からは、狼の遠吠えや、何か、化け物が唸っているような声が聞こえていた。
「──どう思う?」と、このエリアに最初に足を踏み入れた〈ベリアル〉が言った。
それに応えたのは〈渦巻うず〉だった。
「サバイバルゲームじゃない?」
「サバイバルって──。もうやってるだろ」
「ほら、ゾンビとかモンスターとかを銃で撃って生き残る、みたいなゲームがあるでしょう? 多分、そういうものじゃないかしら」
「でも武器が少なくね?」と〈眼鏡〉が言った。「俺たちは──今は五人だろ。この武器じゃ、ふたりしか武装できないじゃん」
「多分、そういうゲームなんだと思います」と、栞は考えをまとめつつ言った。「最初に、プレイヤーのうちふたりが脱落するような設定になっているって、言ってましたから……。多分、ここがその大きな試練なんじゃないかと思います。さっきの橋で誰も脱落しなくても、ここでふたり、大きな危険に曝される、みたいな」
「なるほどな。じゃあ、この扉はどう見る?」
「確証はありませんが、森の中に、これを開くためのスイッチがあるんじゃないでしょうか。プレイヤーをふたり選んで、武器を持って、中に入る。中には狼とか、あるいは巨大なモンスターの類いがいる。それを生き残ってスイッチを押して戻って来られたら、先に進める──みたいな」
「妥当なところね」と〈渦巻うず〉が頷いて、兎の耳のようなカチューシャが少しだけ揺れた。凄い物理演算だ、と栞は思った。そうやって、少しでも冷静さを保とうとした。
「で、どうすんの? またアプリで決めんの?」と〈眼鏡〉が言う。しかし自分のスマホを取り出しはしなかった。本当は、それで決めるのが恐いのではないか──と栞は想像した。自分もそうだからだ。あの〈巫女猫〉の最期を見ては、その立場に自分がなるかも、と思うと恐ろしかった。
多分それは誰もが同じ気持ちだったのだろう、誰も何も言わなかった──が、やがてひとりのプレイヤーが手を挙げた。
「僕がひとりでやるよ」
そう言った〈ルカ〉が、切り株の上から銃とナタを手に取った。銃はただ引き金を引けば良いだけだが、一応弾数には限りがあるらしい。ナタは何度でも使えるが、単純にモンスターとの接近戦は危険が伴う。
「ちょっと待てよ、あんたひとりで? マジ?」と〈眼鏡〉が驚いたように言った。その声色には、驚きと共に、喜びも交ざっていた。自分がリスクを負わなくても良くなったことへの安堵に違いなかった。
「マジだよ。別に武器がふたつあるからって、ふたりで行かないといけないわけじゃないでしょ。もしそうなら、こうして手に取った時点で警告か何かがあるはずだもんね。それなら、リスクを負うのはひとりで良いと思うけど、どうだろう?」
「いやまぁ、あんたがそれで良いなら良いけどさぁ」
「でも、もちろん別のリスクもあるよ。例えば僕が森に入って、扉の解除方法が分からないまま、武器も持ったまま脱落したら、皆は武器を持たない状態で森に入らないといけないかもしれない。どうする?」
〈ルカ〉のその問いは、もちろん、その場にいる全員に対して投げかけられたものだった。
しかし栞は、それが自分に特別に投げかけられたものであるように感じた。
どうすべきだろうか。彼女についていくべきだろうか。
だが、ひとりのプレイヤーが森の中で武器を両方使えることはメリットでもある。銃を選んだプレイヤーは、本来、残弾がなくなれば武器なしも同然だ。両方を持って入れば、まずは銃で応戦し、本当に必要ならナタを使う、といったことが可能ではないか──。
「良いんじゃない?」と言ったのは、〈渦巻うず〉だった。「私は、〈ルカ〉ちゃんのことを信じるわよ」
信じる、と〈渦巻うず〉は言った。
──そうだ、信じるという言い方をするなら、私は〈ルカ〉を信じられる、と栞は思った。
「分かった、それなら俺も〈ルカ〉ちゃんに任せるよ」と〈ベリアル〉が言った。
「あぁ、任せる」と〈眼鏡〉も言った。
〈ルカ〉が栞の方を見る。その意志を確認しているようだった。
栞がどう応えて良いか分からず沈黙していると、〈ルカ〉は言った。
「大丈夫、何があっても、きみのせいじゃないよ」




