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バックドア・ゲーム  作者: 帽子
第1ゲーム

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4/10

クワイエット・アーケード - 4

 八咫烏(やたがらす)がゲームの開始を宣言した直後、周囲の明かりが一斉に消えて暗闇が訪れた。仮想世界なのだから具体的な光源があったわけではなく、実際にはステージのグラフィックを消したようなものなのだろう、と栞は思った。

 そうやって雰囲気に呑まれないように客観視することが、柴宇良(しばうら)(しおり)の生存戦略でもあった。物事にのめり込みすぎず、常に俯瞰する立場を位置取ること。そうすれば、自ずと自分が何をすべきかも分かってくるし、冷静でいられるから。


「なんにゃ! 暗いにゃ!」と、分かりきったことを〈巫女猫〉が言う。

「あっちの方、光ってませんか?」と言ったのは〈ルカ〉だった。彼女が指差した先には、確かにスポットライトが当たって明るいところがあった。

 遠目だが、スポットライトに照らされているのは小さな丸テーブルで、その上にはスマホのような端末が人数分置かれている。ここは仮想世界だから、実際にはきっとスマホではなく、それを模したアイテムなのだろうと、栞は冷静に考えた。


「助かったにゃ! こんなに暗いと脱出どころじゃないにゃ!」と〈巫女猫〉がそちらに向けて歩き出したのを雰囲気で察して、栞が止めた。

「待ってください。罠かもしれない」

「罠? どういうことにゃ?」

「ゲーム説明で、いくつかの試練があると言っていました。あのデバイスを取ろうとすると攻撃を受けるとか、トラップが発動するとか──そういうことが有り得る、ということです」

「それはベテラン様の経験からってこと?」と〈眼鏡〉の声がした。栞は黙って頷いたが、それが〈眼鏡〉に見えたかは分からない。

「慎重に行くに越したことはないです」

「でもさ、暗いのは困るじゃん。どうしろっての?」

「そもそもなんだけど、この〈ゲーム〉で怪我をしたり脱落したりするとどうなるの? きみなら知ってる?」と〈ルカ〉が栞に訊ねた。

「基本的には、例えばゲーム中に手足を失うようなことがあっても、現実世界には影響はないです。死ぬようなことがあっても、現実に死ぬようなことは──滅多にない」

「滅多に? あることもある、ってこと?」

「現実の私たちは、今、ネウロウェアを装着してここにダイブしてますよね。言うなれば、それってとてもリアルな夢を見ているみたいなことなんですけど、夢の中で死にそうになると、目を覚ますじゃないですか。何でかと言うと、夢の中での死を本当に死んだと脳が錯覚して、死んでしまうことがあるからだとか」

「あー、じゃあ、同じことがここでも起こり得るんだ」

「そうです。それも滅多に起こることではありませんが、プレイヤーとしての死は脱落ですから──」

「社会保障スコアは全没収、それは死んだも同然ってことだよね」

「そうなりますね」と〈ルカ〉の理解を確かめつつ栞は頷いた。「あと、現実の躰が傷つくわけじゃなくても、ここでの躰が傷つけば、運動能力には影響があります。例えば片足を失えば、杖でもないと歩けません。そしてもちろん、怪我をすると『痛み』は感じます。アバターの状態と脳がリンクしてる状態ですから。そうだ、なので、アバターの身体能力は基本的に現実の自分のイメージ通りなので、現実で運動が苦手なイメージを自分に持つ人は、ここでも同じ程度に躰を動かすのが難しいですね」

「要するに」と〈眼鏡〉がまとめるような口調で言う。「現実と同じで、怪我は避けるべき。死ぬようなことはもっと避けるべき。そういうことでしょ? 話長すぎ」

「……すみません」

「いやいや、助かったよ〈しお〉。〈眼鏡〉くんもありがとうね」と〈ルカ〉が言った。「で、結局どうしようか、あのスマホ? あれを取らずに進むのは、多分難しいよね。スマホなら多分、懐中電灯代わりにはなるだろうし」


 そこで、少しの沈黙があった。


 今の話を聞いて、それでも罠があるかもしれない目の前の誘惑に飛びつくわけにはいかなかったからだ。

 流石にいきなり即死はないだろう──と栞は思う。だが、このゲームの危険性を知らしめるために、軽率なプレイヤーをひとり落としておくくらいのことは有り得るかもしれない。いや、その目的なら最初の説明で『六人中四人がクリアできる程度』だなんて言うだろうか?

 自分が行くべきだろうか、と栞が考え始めたところで、ちゃら、とアクセサリー同士が触れ合って鳴る音がした。

「ま、こういうのは男の仕事っしょ」と〈ベリアル〉が前に出た音だった。「可愛い女の子にやらせる役回りじゃないって」

「今時それって、逆にセクハラじゃね?」と〈眼鏡〉が言った。「男女平等でしょ」

「世間はそうかもしれないな。でも俺は、俺が思うように行動するよ。嫌だったら言ってくれ、次からはジャンケンで決めよう」


 その発言に異を唱える者は誰もいなかった。〈ベリアル〉はさっさとスポットライトに照らされたテーブルまで歩いていって、一瞬躊躇したような顔をしてから、その中のひとつを手に取った。手に取ると同時にスマホは起動し、そしてそこからまた少し離れたところの『非常口』の明かりが点いた。


「大丈夫そうだ」と言う〈ベリアル〉に続いて、他の五人もスポットライトの中へと入っていく。


 それぞれが端末を手に取ると、自分のハンドルネームが表示され、現実世界のアプリ一覧のような画面が開いた。しかしそこにあったアプリは、『ライト』と『ランダム選択』だけだった。

 どうやら既に『ライト』を起動したらしい〈ベリアル〉の端末は、スマホの懐中電灯機能のように光を発していた。


「というわけでまぁ、ライトは予想通りだけど、この『ランダム選択』は何だと思う?」

「僕が開いてみるよ」と言ったのは〈ルカ〉だった。

 実際に開いてみると、六人の名前が表示されている。アプリ説明のアイコンらしいものがあったのでタップすると、簡単な説明が現れた。


 チームから一名を選出する際に利用可能なアプリです。

 ランダムに、六名から一名を選出します。

 選出された場合、自分が選ばれた役割を必ず果たしてください。

 その義務を果たさなかった場合、選出者は強制脱落となります。

 本アプリは利用を強制するものではありません。必要な場合のみご利用ください。


「──だってさ」と、一通りの説明を読み上げた〈ルカ〉が言った。「つまり、今みたいに誰が危険な橋を渡るかで揉めたとき、最終的にはこのアプリで決めれば良いってことだよね」

「便利だけど、ちょっと怖いにゃぁ……」と〈巫女猫〉が言った。「できれば円満に話し合いで決めたいにゃあ」

「だからさぁ、そうならないときのアプリなわけでしょ」と〈眼鏡〉が言った。「むしろ全部これで決めた方がよくね? その方が公平でしょ」

「そうかしら」と〈渦巻うず〉が言った。「ここまでを総合すると、結構危険なアプリだと私は思うけれど」

「は? どゆこと? 何?」

「分からないの?」と言った〈渦巻うず〉に、〈眼鏡〉は何も言い返さず、腹立たしそうに点灯した『非常口』の方へと歩き出した。


 柴宇良栞は、その一部始終を俯瞰しつつ、状況を整理した。

 そして、〈渦巻うず〉の言う通り、このアプリを使っても良いかどうかの判断に迷っていた。


 確かにこれは、危険な罠かもしれない──と。

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