クワイエット・アーケード - 3
「今回のゲームは、サバイバルです。皆さんには、生き残ってこのゲームセンターを脱出してもらいます」
三本足の烏は、その嘴でどうやって日本語を喋っているのかと思うほど流暢にそう言った。ゲームセンターという場所に要素がありすぎて、栞には当初ゲーム名を聞いてもルールの想像が付かず不安だったが、サバイバルということならまずは安心だ、と胸をなで下ろした。
プレイヤーを集めて行われる〈ゲーム〉、特に〈バックドア・ゲーム〉にはいくつかのジャンルがある。心理系のゲームだと他のプレイヤーを騙したり嘘を見抜いたりしなければいけないこともあるし、もっと直接的に銃を持って打ち合うようなPVPのゲームもあると聞く。
しかし、サバイバルは大当たりだ──と、栞は思った。サバイバルなら互いに協力できるし、ルールが分かりやすいので一条遙奏──もとい〈ルカ〉のような初心者がいても全体にとって致命的なハンデになりにくい。
躰を動かすのは得意という程ではないし、それはこの仮想世界においても同じことだが、それでも騙し合いのゲームに参加するよりはよっぽど良い。あの手のゲームは本当に醜悪で、参加するだけで心が削られるようだから──と、八咫烏のアバターのここまでの言葉を聞いて、栞は本当にそう思っていた。
「ゲームの難易度は、およそ二名のプレイヤーが脱落する程度となっております」
烏がそう言ったとき、その場に明らかに重たい空気が流れた。自分を含めて六人、そのうちの四人が脱出できるようなゲームになっている。生還率は三分の二。決して低くないが、脱落率が三分の一と言い換えると、そちらもやはり決して低くないように思われる。
「すんません」と手を挙げたのは〈ベリアル〉だった。「それって、プレイヤー全員は脱出できないって意味スか?」
栞の経験上、そうして正しいルールを把握することは確かに大事なことだった。ありがたいことを訊いてくれたと思い、栞は八咫烏の答えに注目した。
「いいえ。プレイヤー全員が脱出できる可能性もあります。しかし、ゲームの設計上、二名ほどは脱落することが予想されます。具体的には、この建物エリアを脱出するために試練を越えなければいけません。その試練で、ひとりかふたり──あるいはそれ以上が、脱落することが予想されます」
栞の経験上、このようにゲームの設計まで説明されるのは珍しいことだった。基本的にそれを説明することは、プレイヤーにとって何も利益にならないからだ。心構えをしろ──ということだろうか、と栞は考える。
だがその答えに至る前に、八咫烏のアバターが説明を追加した。
「もうひとつお伝えしておきましょう。皆様六名の中には、ふたり、運営側が紛れています」
「あたしたちの中に運営側が? どういうことだにゃん?」
「文字通りの意味です。この運営側のアバターは、通常のプレイヤーとは異なり、本ゲームで脱落したり、アバターを失ったりしても、現実のスコアに影響を受けません」
「は? インチキじゃん、それ。どういうこと? 意味わからん」と〈眼鏡〉が苛立ちを隠そうともせず言った。
「何か理由があるのよ、きっと」と〈渦巻うず〉が静かに言った。「例えば、プレイヤーに近いところで行動データを採取しているとか、プレイヤーの中に不和を起こそうとしているとか──。迷惑なプレイヤーを演じて、それに対する対応を見ているとか──ね」
「なんすか? 俺がそうだって言いたいんですか?」と〈眼鏡〉が突っかかる。言葉は攻撃的だったが、躰は〈渦巻うず〉から離れるように動いていた。
「いいえ」と、対する〈渦巻うず〉は泰然自若である。
「その運営ってのは、見つけないとクリアじゃないんスか?」と〈ベリアル〉が確認する。誰かが言わなければ栞が確認しようとしていたことだった。
「いいえ。とにかく生き残ればゲームクリアです。運営のアバターと一緒に最後までクリアしたとしても、特にボーナスもペナルティもありません。また、運営側がプレイヤーの邪魔をすることもありません」
「〈眼鏡〉くんじゃないけど、確かにちょっと意味分からんなぁ。何? 今回のゲーム、人数が集まらなかったとか?」
その質問に、八咫烏は答えなかった。
答えなかったので、暫く沈黙が続いた。
「──質問は以上でしょうか」と、直前の質問をなかったことにしたように八咫烏が言った。「最後に、制限時間は特に設けておりませんが、現実世界の皆様の肉体の疲弊というものがありますので、早くクリアするに越したことはありません。では〈クワイエット・アーケード〉、スタートです」




