第八話『レイルと神』
サフーリンに魔術が使えないと言われて約一年がたった。
この間、魔力の流れをよくすると言われるマッサージやカウンセリングを受けたが、ことごとくダメであった。
また、ウキョウの有名な治癒魔術師をギャレクが呼んでくれたが、「体内の魔力が流れる魔力回廊がぶっ壊れてる。治んねぇよ。」と辛辣に言われた。
魔法というものは、空気中の魔力と、自分の体内の魔力を混ぜて放つ。その片方でも欠けていると魔法は使えないそうだ。ちなみに、こんな症例はかなり珍しいらしい。
将来的なことは、俺の降臨の儀の結果によって決めるという方針になった。それまでは先生や三娘から勉強を教わったり、乗馬体験をしたりしていた。
その間もラウルは魔術に磨きをかけ、水魔法、風魔法、空魔法を中級までにし、その上、上位魔法である闇魔法を習得したらしい。
思うところがないと言えば嘘になる。
けれど、どうすることもできないので、他方面に頑張れるよう体は作るのだが、やる気は起きないし、ラウルやギャレクへの嫉妬ばかりが溢れ出る。
なんのためにこの世界に来たのかわからなくなり、主神や愛神への怒りも沸々と湧いてきていた。しかし、何度脳内で主神や愛神を呼んでもなんの反応もなく、やるせない日々を過ごしていた。
***
そして、今日が待ちに待った降臨の儀であり、今現在、克駄天宮にいる。
前にいた36人のうち神助授与者はゼロ。ちなみにレイルで最後だ。
「最後、レイル・ブレイクス、前へ!」
ラウルの時と同じ宮司さんが呼ぶ。
ブレイクス家は前に出て、俺だけが翡翠の前に立つ。
境内が静まり、宮司さんが一拍置いて祝詞を読み出す。
「かけまくもかしこき神々、現人神にあられる皇王陛下よ!」
風が境内に吹く。
「梛原中国にましましてーー」
風が強くなるーーというか翡翠を中心として竜巻のようなものが出来始める。
「このものに多大なるお力添えをくださらんこと聞こしめせとーー」
翡翠からの光を風が吸収し、境内を包み込む。
「恐み恐み申す!」
境内は台風の目となった。
風の中は視界を閉ざす光の嵐となり、レイル以外の五感をなくす。
眩しく思いながらボーッと突っ立っていたレイルが瞬きをすると、そこには黒き端麗な男が立っていた。
彼は、柘榴石のような目を細め、こちらを見ていた。
凛とした立ち姿。その奥にある鋼のような硬い芯があるのが一眼で分かる。さらに、歴戦の戦士のような凪いだ魔力。恐怖さえ覚える静けさであった。
鳥肌を抑えながら、俺は聞いてみる。
「あ、貴方様は…?」
彼はゆったりと喋り出した。
「初めまして。私は『英神』。君に神助を与えよう、レイル。」
俺は隈ができた目を見開く。
『英神』。弥栄の神話で英雄とされている神。神話では、孤高の天才として数々の強敵を討ち取った戦神。また、その身を賭して弥栄の平定のため力を尽くした神でもある。
そのような神様がなぜーー。
「……なぜですか。私は魔力不全の出来損ないですが。」
この約一年で、レイルの自己肯定感は、どん底まで落ちていた。それによって、英神が冷やかしで現れたのではないかとありもしないことを考えてしまうのだ。
英神様は落ち着いた声音で話を続ける。
「君には国を救う、という役を背負ってもらおうと思っている。」
「……騎士団の皆様ではダメなのですか?」
騎士団は戦闘のエリート集団であり、わざわざ自分に頼む必要はないのではないか、とレイルは思って言うう。
英神様は微笑んで否定する。
「確かに彼らの集団での力は優秀だが、個々の能力が高いものは少数だ。そこで、お前に『剣聖』になってもらおうと思う。」
「……なぜ私なのですか。もっと優秀な人材はいたはずです。」
「ラウルは、過去最高の魔術師になる。そして、弟のお前はラウルとほぼ同じ魔力回廊を持っている。」
軽く歩き回りながら話を続ける。
「私は、人の子の魔力回廊を治せる。もちろんお前も例外ではない。そうすれば、お前は兄のラウルと同等の魔法センスを解放させることができる。しかし、魔力が使えるのは、私の所有物のー剣を使う時だけだが。」
俺は目を見開く。魔術が使えるようになる。しかし、この一年でレイルに染み付いた卑屈な考えは、完全に自信を喪失させていた。
「……ならば、ラウルにつけばよかったはずでは。」
「奴ではダメだ。剣が使えないだろうからな。あいつは根っからの魔術師なんだよ。」
一拍置いて剣神様は続ける。
「お前の内なる才能は国内最強格だ。それを腐らせるという手はない。そしてお前には己の力で何かを成し遂げたいという野心もある。私は、それに賭けてみたい。お前が、史上最強の『剣聖』となって、国を守って欲しい。」
普通、世辞や冷やかしでここまで言うのだろうか。本当に信じて受け止めてもいいのだろうか。もし本当だったとしても、、これまで何もしてこなかった自分に全うできるのだろうか。
様々な思いがレイルの中を廻る。
「……魔力が使えるようになったところで剣は振れないことに変わりはないのでは?」
確かに、この国の二代流派である、『古今一刀流』と『二剣一流』は魔力で剣術をサポートするが、俺に剣の才能があるかもわからないのだ。
すると、英神様はその美しい顔を少し歪める。
「なんでそんなに自己肯定感が低いのやら。君まだ5歳だろう?最近の幼児はやけに態度もいいしなんなんだ?今からどうにでもなるに決まってるじゃないか。君まだ5歳だろ?そのひっっくい自己肯定感を上げるために今から努力すりゃいいんだよ。自分の才能と私の力を信じてみろよ。」
初対面でう言うことじゃない。今更信じれる話でもない。しかし、この言葉は『異世界でぐらいは強くいたい』という思いを持ったレイルの一縷の望みとなった。
「……厄災はいつ来るのですか?」
「わからない。もう始まってるのかもしれない。だからこそ今から頑張ろうじゃないか。」
にかっと笑って英神様はそう言ってのける。あまりの邪気のない笑顔に内心拍子抜けする。
「…本当に、自分に期待しても良いのですねか?」
「もちろん。私がついてる。」
「……なら、お願いします。僕に、力をください。」
英神様はもう一度微笑んで言う。
「いいよ。頼まれた。」
その言葉を最後に光の嵐と共に英神様は姿を消した。
どうも、作者の小骨です。
ここまで読んでくださった方、誠にありがとうございます。
これからは、毎週土日の22:00に一話ずつ投稿していきたいと思っております。
これからもぜひよろしくお願いいたします。




