第十四話『禁忌使いの神(壱)』
この魔法、禁忌!!——そう言われたレイルは目を見開き、過呼吸になりながら膝をついて地面に崩れ落ちた。
禁忌、ということは使ってはならないということだろう。
レイルの絶望は計り知れない。
「ほんっとにどーしよっかねぇ」
英神も本気で悩んで——いなさそうであった。半笑いでこちらを見ている。その顔を見てレイルに苛立ちが募る。レイルの絶望をそっちのけで何を楽しんでいるのだろうか。発している言葉も棒読みで適当である。
「ひょっ…ほん、っとうは、どうなん、です…か?」
息も絶え絶え、瀕死の面相で必死に英神に問いかける。
当の英神は笑いを堪えながら、役職に見合わず勤勉な精霊のような声で言った。
「何度でも言いましょう。これは禁忌…デス!」
「じゃ、あ、なんでそん、なに、笑いを堪え、かひゅっ、てるん、です…?」
「いや、さ。前にもいたんだよね、『陰』って適性でた子が。」
「へ??」
そんなに多くの人に神助を与えてはいないだろう英神の口から、禁忌の魔法の適性をもった人間がいたとでてきたことは驚きだった。
「本当。その時はほんと大変だったなぁ……。」
遠い目をして英神は語り始めた。
「十五代ぐらい前かな?その子、剣の才能はすごいのに魔法が全然使えなかったんだよね。で、属性を鑑定したら、『陰』って出たんだよ。」
一呼吸おいて続ける。
「で、これ禁忌だよって言ったみたら、なんか大笑いし始めて。」
「えぇ…?」
「で、言うんだよ。『俺が開発した新しい闇魔法だって言う』って。二人揃って爆笑だよ。」
「なんて言う名前なんですか?その人。」
「ユリアス・エルダリック」
レイルは思わず吹き出した。
「ユリアス・エルダリックって三代目剣聖じゃないですか!」
そんな化け物と自分ではやって許されることと許されないことがあると思い叫ぶ。
「ま、そう言うことにして。今からこの魔法は『闇魔法』です。」
「えぇ……」
「異論は?」
「ありま」「せん。オッケー、いい返事。」
どんどんことが英神のペースで進んでいく。一度も了承していないのだが、もう英神の勢いを止められる気がしなかった。
「闇魔法と言えば…やっぱり『暗鯨』か。」
「『暗鯨』ってなんですか。」
「とにかく広範囲に闇を作る聖級魔法。しかも封印効果付き。」
つまり、真っ黒に染まった鯨の胃の中に相手を閉じ込める、みたいな魔法なのだろうか。
「そんなに強い魔法を最初から使えと……。」
「いや、正直私の魔力とレイルの魔力回廊があれば少なくとも聖級魔法までは余裕で全部使えると思うよ。」
「そんな簡単にいくんですか…。」
「簡単じゃないよ。だからさっき言った条件なんでしょ。」
「ちなみに、ラウルに使えると思いますか?」
「多分無理なんじゃない?あの子はどっちかと言うと得意は『陽魔法』っぽそうだから。」
「なんでわかるんですか?」
ふふん、と英神は微笑んで言った。
「神の、勘。」
「わかりました。魔法やりましょう。」
人間には——と言うよりその人個人にしかわからない感性を自信満々に披露されても逆に困る。
「もうちょっとぐらい反応してくれてもいいじゃんか…まいっか。じゃ、手握って。」
そう言われて左手で英神の右手を握る。そこから、英神が魔力を流し込んでくる。
稽古の成果かだいぶスムーズに全身に魔力が行き渡るようになっており、1分もかからずに左手の先まで魔力が行き届く。
「行き届いたね。『暗鯨』って詠唱してみて。」
レイルは深呼吸をして気持ちを整えた。
よし、と呟いて目を閉じた。
「準備できました。詠唱します。『暗——」「『暗鯨』」
突如、後ろからレイルではないな(・)に(・)か(・)が『暗鯨』を詠唱した。
「は?」
背後から低く重たい声が響き渡る。
な(・)に(・)か(・)がそこにいる。しかし、味わったことのない悪寒で体の筋が固まってしまい、正体を見たくてもみることができない。その間に地面から出た闇の胃の中に収まった。
な(・)に(・)か(・)が詠唱した『暗鯨』に飲み込まれたのだろうか。
どぷどぷと向こう側が見えない程の濃い闇に四方が覆われる。
徐々に暗くなっていく視界の中、頼みの綱である左隣の英神が焦燥を滲ませた表情で口を開く。
「早すぎるだろ…。クソ『猪』!!」
「ぃ、…いのしし…?」
「山神様と呼べ、腐れ外道ども。」
『暗鯨』を放ったな(・)に(・)か(・)の声が正面からする。
レイルは状況が理解できていない顔で、英神は憎悪と焦りが混じった表情で正面を睨みつける。
目の前には身長が3メートルに届くだろうかと言う、猪の面をつけたツノの生えた白髪の長身の男が立っていた。




