第十二話『不穏』
漆黒の帳がかかった夜空。
月明かりのない空を濃黒の雲が流れ、雨をザアザアと降らし、フギの大地を濡らす。
ざわり、ざわりと風に木の葉が揺れ、雨が当たってバサバサと大きな音を立てる。
民家に明かりはなく、大地も空と同じく黒色が広がっている。
どの家でも今はほとんどの人の子のもとに睡魔が訪れ、飲み込まれている頃だろう。
ある家の屋根の上に彼は立っていた。
その家の裏側にある山を彼女は見ていた。
その山は神界の勇者を撃ちまかし、その後も厄災をもたらした荒く猛き神が鎮まっている。
彼——英神は、その神界の勇者本人であった。
英神の死後、山の神の暴走を止めるべく、この山─威吹鬼山にほかの神々が、封印の結界を張った。
その出来事から約2000年の時が経った。威吹鬼山のそばには貴族の家ができ、自分がその家の息子に神助を与えた。
「もうすぐ復活する…」
英神はそのことを数年前から肌で感じ取っていた。
きっかけとなったのは、たまたま威吹鬼山の上空を通ったときのことであった。
あ(・)の(・)と(・)き(・)の悪寒。あ(・)の(・)と(・)き(・)の恐怖感。神界でも感じたことのないような絶望感。
すぐさまこの体験を神界最強であり、威吹鬼山の神を鎮めた筆頭である蒼貴神に報告した。
それを彼も感じ取っていたようで、すぐに手立てを打たなければいけないということになった。
日に日に大きくなる山神の存在感。もう時間がなかった。
そこで目をつけたのは、山の目の前にある貴族の家の主人だった。その家は、魔人を輩出したことのあるほど優秀な魔術師一家だったからだ。
そこで、その父の夢枕に立って、状況を説明した。
すると、
「お任せください。私に策がございます。」
「本当か?」
「ええ。しかし、この世にその神様を留めることとなります。私は、先ほど英神様に話していただいたことを踏まえると、『天昇り』をしていただくほうがよろしいのではないでしょうか。」
『天昇り』とは、梛原中津国で力を失った神々が天界に還ることである。
「確かにな。だが、お前にはできないというか。」
「はい。私ができるのは『封印』のようなものです。そこで、貴方様方に力を貸していただきたいのです。」
「というと?」
「差し出がましい身の程知らずの発言ではあると分かっています。しかし、国を救うためにはこれしかないかもしれません。どうか、息子2人に神助を与えていただけないでしょうか。」
「何故だ?」
「封印はいずれ解けます。それまでに神を倒せるほどの人が出てくればよいですか、出てこないと思います。そこで、うちの息子をその枠にあてるのはどうでしょうか。」
「理由は。」
「簡単です。息子たちは優秀です。」
ニヤッと笑って言い切った。
「分かった。やってやろう。」
「ありがたき幸せです。」
こうして計画は始まった。
✽✽✽
この計画は、順調に進んでいる。特に兄の方はもうそこら辺の冒険者よりも全然強い。弟の方も努力家なのですぐ強くなるだろう。
遠くで閃光が落ちた。
数秒後に胃が持ち上がるほどの轟音をもたらす。
しかし、山の神の存在感も日に日に順調に大きくなっていっている。
そろそろかもしれない。
この状況が英神に現在進行系で焦りをもたらしている。
ギャレクの言い方からして、封印は命、またはそれに準ずるものを対価とするものだろう。
そして、子どもたちにはトラウマとしてその記憶が植え付けられるだろう。
もう少し時間を──と叶うはずもないことを願うのであった─。




