第十話『神助』
降臨の儀の翌日。
レイルは、少し前にサフーリンとギャレクが戦った裏山に1人でいた。
昨日、英神が言っていた『魔力回廊の一時的な治療』をやってもらおうと思ってお願いをしたら、
『明日ならいいよー』
と言って承諾してくれたのだ。
降臨の儀のあと、馬車の中になぜか英神も顕現して乗ることになり、感謝感激雨あられ状態のギャレクが床に正座したり、イエルムとレナアの運転がめちゃくちゃ丁寧だったりと英神VIP馬車になったのは別の話である。
「さて、始めようか。」
その事件の発端者である当神が呑気に伸びをしながら言った。いつのまにか顕現していたようだ。
「お願いします。」
こう、少し英神が悪いように言ったが、内心ではとても感謝をしているし、興味もある。レイルの悩みであった『魔法が使えない』ことが克服できるかもしれない、という言葉だけで救われたのだ。
「最初は、何をするのですか?」
「まあ、そう急ぐな。そうだな…あ。まずは私とギャレクの試合でも見るか?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
「なんでそうなるんですか!?」
「むふー、神の勘ってやつ?ぜっっっっったい面白いことになる。」
実を言うとレイル自身もそう思っている。英神の力もギャレクの対応もぜひ見てみたいところではあるがしかし、サフーリンとの模擬戦後のあの笑顔の圧は怖かった。
「それは遠慮しておきます…。」
「そうか。それは残念。」
本当に残念そうな顔をして言うのでどこまでが冗談か本気かがわからなくなる。
「ま、いいや。じゃあ、魔力回廊に関与してみるか。」
パッと表情を微笑みに戻した。
「その治療には何が必要なのですか?」
「魔力回廊の関与に必要なのはただ一つ。」
「それは…?」
「…骨折とか?」
「…?」
この方は何をおっしゃっているのだろうか。
「嘘だって。ちびっこには早かったかな?」
早いとかの問題じゃないことをわかってもらいたかった。
「まあ冗談は置いておいて。本当の条件は、私と両の手を合わせること。」
「それで治るのですか?」
最初に、手を合わせる、と言えば良かったものをと思いながら聞く。
「うん。(タブンネ)。君が魔法を使えない理由は、君自身に魔力がないから。そこで、私の魔力を貸してやろうと言うことだ」
一呼吸おいて続ける。
「私の魔力回廊と君のそれを繋いで強引に魔力を通す、と言う仕組みだ。最終的には剣となった私を握るだけで魔力回廊を繋げることができれば、自分を強化したり剣から魔法を撃ったりできるようになる(トオモウ)よ。」
途中途中聞き取れないところがあったが大丈夫だろうか。
「早速お願いしてもよろしいですか!」
「いいよ。やってあげよう。(デキルカナア…)」
「ん?」
「ん?なんでもないよ?」
またしても聞き取れなかった。なんでもないよとか言いながら重要なこと言ってそうなのが怖いところである。
「よし、じゃあ、手を繋ごう。」
英神が両の手を差し出す。レイルも手を出して繋いだ。英神の手は思いの外温かかった。
「魔力を流し込むよ。呼吸を合わせて。すってー、はいてー。」
合わせている手のひらが光って温かみを増す。レイルは英神の掛け声に合わせて英神と呼吸を合わせる。
徐々に体に違和感が生じ始めた。何か得体の知れないものが体に入ってきているような気分だ。
しばらくすると、光が手のひらから溢れ出し、前腕を覆った。さらにそこから二の腕、肩、首、胸まで広がり、数分後には頭頂から足先まで光に包まれた。
手を合わせたまま英神がニヤッと笑った。
「成功みたいだ。おめでとう。(アッブネー…)」
近くだったから聞こえた。アッブネーってなんだ。
「ここから魔法を打ったりできるんですか?」
「うーん、私に当てる気かい?」
それはそうだ。
魔法は手から撃つものだから当然である。
「まあ打とうと思えば撃てるだろうけど、今はやめてほしいかな。…あ。」
そこで英神は右手をパッと離した。
すると、レイルの左半身の光が徐々に弱まっていった。
「だめか…まだシンクロが不十分みたい…いや、というよりかは君の魔力回廊が魔力に慣れていないからかな。」
どうやらまだ、片手を合わせるだけではダメなようだ。
「でも、いつかはできるようになる……。」
英神は微笑んで言った。
「方向性は決まったね。これから毎日が手繋ぎデートだね。」
それは神様からの少し微妙なお誘いであった。
どうしてこの神はこんなにも人のことを揶揄うのが好きなのだろうか。




