四話 「計画」
四話です
ブランドールの歓楽街。昼は静けさが漂い、日が沈むと共に活気ずく場所。
その一角の入り口にその店は在った。店の名は『ハイジの館』この街で表の看板
を掲げる唯一の店だ。所謂奴隷商である。表の看板とは、国の認可を得た正統な
店と言う事だ。つまり…裏の店も存在する事を意味するが、今回は割愛しよう。
店の名の『ハイジ』は主の名だ。大概この手の店は自分の名を使う傾向が多い
だが、それは本名ではなく愛称だ。奴隷商と人に怨まれそうな家業だが、多額の
資金が無ければ経営できない。この手の店を行なう者は大体が、その町もしくは
地方の金持ちか領主なのだ。
「御免。少し中を見たい」
俺がそう告げ中を入ろうとしたら、警備の野郎2人が道を塞ぐ。
「ここは小僧が来る店じゃない。トットとママの所に帰りな」
禿た男が凄みを利かせ俺を脅す。だが、俺は動じない所詮二人は雇われの身
俺が用事が在るのは別の者だからだ。
「あんた等に用はないケイトに取り次いでくれ」
ケイトとはこの店の主の本名の一部だ。そんな事を知っているのは、この街に
古くから住む奴等か友人しか居無い。警備の二人は若造の姿の俺が主のの名を
告げた事で、矛を収める。そして程なくして俺は奥の事務所に通された。
目の前に座る目つきの悪いおばさん。それがこの店の主だ。コイツとは幼馴染
街の小僧達がケイトを嫌う中俺とボブは何故だか目を掛けた。馬が合うって奴だ
「はじめまして私が当館の主ハイジよ。…貴方初めて会う人よね!?」
「そうだな。初めて会う…かな」
「その割りには私の名を知ってるのね。名前教えてくれる?」
「エレイン・バレットだ。よろしくマダム」
「エレ…イン…そうね確かに記憶に無い名前だわ。何故私の名を知っているか
疑問に思うけど…まぁ~良いわ。要件は何?」
「ここは奴隷商だろ?用件は一つしか無いないんじゃないのか?」
「ふふっ。それなら店の者でも十分でしょ。態々私を呼ぶ理由には成らないわ」
「流石ケイト。相変わらず頭の「悪いけど!その名で呼ばないで」」
「おっとスマン。忘れていたよ。許せ」
俺はつい気が緩み彼女の名を呼ぶ。しかし彼女はその名を嫌っていた。だから、
この街でその名を呼ぶ者は数が限られている。
俺は素直に侘び頭を下げる。憤慨するハイジだが、俺の態度に興味が沸いたのか
直ぐに姿勢を崩し話を進めてきた。
「まぁ~良いわ1度だけよ坊や。2度は許さないからね。それで用件は?」
腹を括り俺はハイジに一つの質問を投げ掛ける
「ルーラの孤児院…何故?街の者は彼女を助けない?」
俺の口からルーラの名が出た事が、余程不思議に思ったのだろう。ハイジの口が
塞がらず固まっている。こんな顔を見たのは何年振りだと俺はついつい笑えた
「な、何を笑っているの!それにこの街でその名を余告げない方が身の為よ」
ハイジから見れば、俺は身元も知らぬ若造で、ズケズケと上がり込んだ不貞の輩
それが、笑いを浮かべるのだから無礼この上ないだろう。またまた侘びを
入れながら、俺は考えた。
「それは…シーボルトが関係してるのか?」
「…本当に不思議な坊やね。まさかその名前まで知ってるなんて驚きだわ。
若いのに勇気が在る様ね。その無謀さに評して答えてあげる
貴方の言葉は…真実の半分ってトコかしら」
彼女の言葉で十分だ。シーボルトはこの一帯を治める領主の倅。それも外腹の
息子に過ぎない。ただ奴の狡賢さが当主の『ゲイン男爵』の目に留まり
可愛がられていると聞いた事がある。一説には俺がドロイドだった頃、本当は
ゲインがルーラを手篭めにしたと噂が在った事も思い出す。
つまり、生まれ変わったこの世界でもゲイン男爵の威光でルーラに皺寄せが
来てるのだろう。俺はアレコレと悩み考え込んだ。
「表立ってルーラに加勢する奴は何かされるのか?」
「いいえ?ただ、商人なら次第に品が届かず、職人なら次第に仕事が来なく
なるだけよ。木っ端役人なら左遷ってトコかしら」
「冒険者なら?」
「そこまで手は伸びないわ。但し仕事で街の外へ出れば、日帰りを勧めるわね」
「…成程。ありがとう忠告は在り難く受け取るよ」
「他には?」
「そうだな…腕っ節が在って、子供好き。ついでに家事とか家の修繕が
出来そうな奴を2~3人かな」
「あなた…まさか…何故?彼女にソコまでするの?」
「あんた、ドロイド・ロイドって名を知ってるか?」
「いえ…多分知らないわ。それがどうしたの?」
「そうか知らないか…ルーラも知らないそうだ。ただ、その名が何処か懐かしい
と彼女は言った。それが俺が彼女を助ける理由さ」
「意味は判らないけど…良いわ判った少し時間を頂戴。若くて使えそうなのを
見繕ってあげる。その分価格は上がるわよ」
「金は無い」
「じょ!冗談言わないで!コッチもそれなりに危ない橋渡るのよ。ルーラの為
だから渡るって決めたのよ。頂くものはしっかり頂くわ!それが出来ないなら
この話は此処までよ!帰って坊や!」
俺が金が無いと言うと流石に切れるハイジ。それはそうだ。無償でするのなら
もっと早い時期にハイジは手を付けただろう。ボブもそうだ。ああ見えて
アイツもハートは熱い男だからだ。
「おいおい金は無いが支払いをしないとは言ってないぞ。これでどうだ?」
俺はバックから一つの瓶を取り出しながらそう告げた。
『忘却の薬』
飲んだ者が、願った事柄を一生思い出さず記憶から消し去る事が出来る薬だ。
北のダンジョンで偶に見付かると言われる秘宝の薬の一つとされている。
オークションに出れば1瓶数千$とも言われるが、実際は値が付いた事は無い。
オークションに出た事が無いからだ。だから金が在っても欲しい奴は買えない
品なのだ。
「貴方…これ本物なの?ってか、どうして私が欲ッしてるのを知っているの?
何者?…ドロイド…さっきの名が関係してるのね」
「ああ、そうだ。俺はアンタの敵じゃない。いつか…いつかその名の秘密が
アンタに解けたらなら、俺がその瓶を提供する理由も判るだろうさ」
ハイジの名に関わる昔話だ。それを本当の意味で知る者は、もうこの世には
誰も居無い。だが、彼女がこの薬をを探し続けている事だけは俺は知っていた。
ただそれだけだ。
「…判ったわ。有り難く頂いておく。でも…そうなるとお釣の方が多いわね」
「金は要らない。どうしても寄こすって言うなら孤児院にでも渡してくれ」
「…ふふっ。馬鹿言わないで。私は奴隷商よ。そんな野暮な事はしないわ。
でも、お釣は…そうね考えてしっかり返させて頂くわエレインさん」
四話 「計画」 完
如何でしたか




