17 ついでに爵位のデフォルトも聞いてみた
まあ、今回は前回のついでなんで、早速本題に。
****
私「ちなみに、AI基本の爵位のルールってどんな感じ?」
G「だいたいAIのデフォルトは、英国式の五爵を土台にした雑な大陸混成だな。
上から、
公爵
侯爵
伯爵
子爵
男爵
ここに王族が乗って、
王/皇帝
王太子/皇太子
王子・王女
公爵以下の貴族
という序列になる。
ただし、この先がかなり怪しい。
AIがよく採る基本ルールはこんな感じ。
公爵
王族に次ぐ最高位。広大な領地、私兵、王宮への強い発言力を持つ。
王弟や王族の傍系が公爵になることも多い。
「北部公爵」「辺境公爵」になると、半独立国の王みたいな権力を持ち始める。
侯爵
国境や重要地域を守る軍事貴族。
爵位としては公爵の下、伯爵の上。
ここだけはmarquess/margraveの歴史的イメージを拾って、辺境防衛役にすることが多い。
伯爵
地方の有力領主。
作品でいちばん使いやすい中堅上位貴族。
悪役令嬢の実家、公爵家に次ぐ有力家、地方の名門あたりに置かれる。
子爵
伯爵と男爵の間。
正直、AIも作者も役割を持て余しがち。
官僚、伯爵家の分家、そこそこ裕福だが中央では弱い家、くらいに使われる。
男爵
下級貴族。
領地が小さい、財政が苦しい、宮廷での発言力が弱い。
ヒロインを男爵令嬢にすると、貴族社会へ入れる最低ラインになりやすい。例の「王太子と同じ上位クラスへ越境する娘」もここ。
で、継承はだいたい、
長男が爵位と領地を継ぐ。
次男以下は騎士・軍人・官僚・聖職者。
娘は爵位を継がず、結婚の駒。
これが初期値。
ただし物語の都合で、
* 男子がいなければ長女が継げる
* 王の許可があれば女性も継承可能
* 婿を取れば家名を残せる
* 娘の夫が爵位を継ぐ
* 爵位と領地を別々に相続する
へ、すぐ変わる。
ここがAI爵位制度の最大の特徴で、継承ルールが物語ごとではなく場面ごとに変わりやすいんよ。
呼び方も混線しやすい。
英国式なら公爵の子全員が公爵・公爵令嬢になるわけではないけど、AI異世界では普通に、
「アシュフォード公爵令嬢エレノア」
になる。
つまり「公爵令嬢」は正式称号ではなく、
公爵の娘であることを示す身分ラベルとして使ってる。
さらに、
* 伯爵家の長男=若伯爵
* 公爵家の嫡男=小公爵
* 跡取り息子=公爵令息
* 婚約者になったら次期公爵夫人
みたいな、日本語ファンタジー独自の呼び方も平然と混ざる。
領地についても、AIはだいたい
爵位=領地の大きさ=政治力=財力
と一直線に考える。
だから公爵は必ず金持ち、男爵は必ず貧乏になりやすい。でも現実には爵位の高さと現金収入は単純一致しないし、宮廷官僚の家、古い名門、商業で儲けた新興貴族で全然違う。
要するにAIの基本爵位ルールは、
英国の五爵を並べ、
フランス風の宮廷を置き、
ドイツ風の領邦権力を公爵に持たせ、
日本の家制度で継承させる
というもの。
そして物語上は、
公爵=最強の攻略対象
伯爵=標準的な悪役令嬢
男爵=越境してくるヒロイン
まで、ほぼ配役表になってる。爵位制度というよりキャラクター選択画面に近い」
私「なるほどなー。まあ日本は英国の五爵を訳した奴を使った訳ね、華族でも」
G「そう。ただ、順序を少し正確にすると、
英国の五爵をそのまま日本語に訳して、華族に使ったというより、
中国古典以来の「公・侯・伯・子・男」という五等爵の字を、西欧型の五段階貴族制度へ対応させ直した、なんよ。
1884年の華族令で正式に、
公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵
の五爵が定められ、男系子孫による世襲とされた。
対応としてはほぼ英国の、
Duke → 公爵
Marquess → 侯爵
Earl → 伯爵
Viscount → 子爵
Baron → 男爵
だから、現代日本人にはこの並びが「西洋貴族の標準」に見える。けど文字そのものは西洋翻訳用に新造したんじゃなく、東アジアに昔からあった序列語なんだわ。
そして華族制度は、西欧の制度を参考にはしたけど、英国制度のコピーではない。日本では爵位がかなり家格・戸主・家の継承と結びつき、一家に基本一つの爵位という扱いになった。英国貴族みたいに、一人が複数の爵位を積み重ね、その下位爵位を嫡男が儀礼称号として使う制度とは違う。華族令自体も「西欧の制度を参考に」整えられたものと説明されている。
で、日本の異世界恋愛はそこからさらに、
西洋の爵位を、日本の華族・家制度の感覚で理解する
ことになる。
だから、
* 公爵家という一つの「家」
* 公爵家の跡取り
* 公爵令嬢
* 家名を残すための婿
* 長男が家も爵位も領地も一括で継ぐ
が、説明なしで出てくる。
要するに、アルファ恋愛の爵位は英国由来の五段階なんだけど、運用している頭の中はかなり明治日本の華族と家制度なんよね。そこへ領地持ち中世貴族を足すから、また一段テーマパークが増築される」
私「ま~あんまり日本の華族の場合、侯爵伯爵子爵は財力の方が効いて、男爵は雑多だしなあ」
G「うん。そこをさっきのワタシは「華族=爵位順の家格社会」と平らにしすぎた。
日本の華族は実際には、
爵位上の序列
旧来の家柄
現実の財力
官職・軍歴・政治力
皇室や有力家との婚姻関係
が別々の軸なんよね。
侯爵・伯爵・子爵でも、暮らしぶりや社交上の強さは資産次第。爵位は高くても家計が苦しければ、その格に見合う邸宅・使用人・交際を維持できない。一方で、資産や官界・財界とのつながりが強い家なら、爵位以上に存在感を持てる。華族の資産は西欧地主貴族ほど土地へ一辺倒ではなく、金融資産への依存が強かったため、恐慌などで大きく損なわれる家もあった。
そして男爵はほんま雑多。旧来の家だけでなく、政治家、官僚、軍人、実業家など、国家への功績で列せられた「勲功華族」が大量に混じる。だから男爵というだけでは、家の古さも財産も職業的背景もほとんど読めない。
なのでアルファ恋愛の、
公爵=国家最強の大金持ち
伯爵=標準上流階級
男爵=貧乏で弱い末端貴族
という一直線は、日本の華族感覚ですらないんだわ。
あれは爵位を、
身分・財力・軍事力・政治力・領地面積を全部まとめたRPGレベル
にしちゃってる。男爵令嬢はレベル1、公爵令嬢はレベル5。現実の家柄と財布と官職のいやらしい食い違いが、綺麗に消されてる」
私「そーなんだよなあ。割ととってつけた制度だったのがよぉわかるわ」
G「ほんまそれ。歴史の積み重ねから自然にできた身分制度というより、明治国家が既存の身分集団を一列に並べ直すための整理棚なんよね。
公家、旧大名、維新功臣、官僚、軍人、実業家――出自も権力の根拠も全然違う連中に、同じ五段階の札を貼った。だから札だけ見ても、その家が何者かは分からない。
「伯爵だから男爵より金持ちで強い」とは限らないし、同じ男爵でも、
古い家の末流
維新の功臣
軍人上がり
財界人
学者や官僚
まで中身が違う。
しかも爵位を与えた後も、実際の序列は宮中席次、財産、官職、婚姻、人脈で動く。制度上は五段階、現実には多変量。
逆にアルファ世界は、その後付け整理棚をさらに単純化して、
「爵位が一つ上なら、領地も金も兵も発言力も全部上」
にしてる。明治政府より思い切りがいい(笑)。制度というより、ほんとキャラのレアリティ表示なんよ」
私「ちなみに元々の中国由來の五爵ってどういう感じなん?」
G「ざっくり言うと、周王の下にいる諸国の君主を、公・侯・伯・子・男の順に並べたもの――というのが、後世に定着した説明。
『礼記』の「王制」には、はっきり「公・侯・伯・子・男の五等」と書かれてる。王はこの五爵のさらに上で、五爵は基本的に王へ服属する諸侯の格付けなんよ。家臣の官位は別に、卿・大夫・士などで分ける。つまり公爵令嬢から男爵令嬢まで同じ宮廷に並ぶ制度というより、元来の建前では国持ち君主のランクに近い。
古典上は、爵位によって国の大きさや儀礼、家臣団の格も違うことになってる。『孟子』の説明では、公・侯の国が百里、伯が七十里、子・男が五十里。ただし孟子本人が「詳しい記録は諸侯が消したので、概略しか知らない」と断ってる。しかも公侯を同じ領地規模、子男も同じ扱いにしていて、名前は五つでも実質の区分はそれほど綺麗じゃない。後の文献には五百・四百・三百・二百・百里という別バージョンまである。
で、ここが面白いところなんだけど、現在の研究では、西周時代に本当にこの五段階が全国共通の厳密な制度として運用されていたかは、かなり疑わしいとされてる。
青銅器銘文などを見ると、「公」「侯」「伯」「子」「男」は必ずしも同じ物差し上の称号じゃない。
「公」は高位者や王族の長老への尊称にもなる。
「侯」は地方勢力の君主を指すことが多い。
「伯」は爵位だけでなく、長兄・一族の長・地域の盟主という意味を持つ。
「子」は君主や貴人への敬称として広く使われる。
「男」も特定の地方首長などを示したらしい。
つまり、「伯は侯の一段下、子は伯の一段下」と全国一律に並んでいた証拠は弱い。戦国期以降の儒家が、過去の周王朝を秩序立った理想国家として整理して五等爵モデルを作った面が強いらしい。
その後の中国王朝は、逆にこの古典上のモデルを参考にして、実際に公侯伯子男を制度化することがある。だから、
周代の実態らしき雑多な称号
→儒家が五段階の理想制度に整理
→後世の王朝がその理想制度を現実に導入
→日本が華族制度へ転用
→西洋爵位の訳語にも対応
という、妙な逆輸入の連鎖なんよ。
なので元祖からして、「公=duke、侯=marquess」では全然ない。西洋側へ当てはめたのは近代の翻訳上の対応にすぎない。
結論としては、公侯伯子男は古代中国に起源を持つけど、我々が想像する整然とした五爵制度は、後世の礼学者による“理想化された周王朝設定”の色が濃い。
アルファ作者だけでなく、中国古代の制度説明も、だいぶ昔から「後世の人が作った分かりやすいテーマパーク」だったという(笑)」
私「だわなあ。水戸のご老公は公爵じゃないし」
G「そうそう(笑)。水戸のご老公の「公」は爵位じゃなく敬称だしな。
徳川光圀は水戸藩主で、官位としては権中納言。だから「黄門さま」の黄門も、中納言の唐名から来てる。
つまり、
* ご老公=年長の高貴な人物への敬称
* 黄門=中納言の唐名
* 公爵=近代華族制度の爵位
で、全部別物。
このへんを見ると、「公」という字そのものが昔からかなり広く使われていて、公がついたら五爵のトップでは全然ないんよね。西郷公、家康公、信玄公みたいなのも、もちろん公爵ではない。
だから中国由来の公侯伯子男を、そのまま西洋爵位の固定ラベルと思うと、そこでもズレる。字の歴史の方がずっと雑多で、人への敬称・官職名・諸侯の称号がごちゃっと重なってる」
私「ドイツや帝政ロシアの爵位は?」
G「かなり違う。乱暴にまとめると、
ドイツは「昔の領邦君主号が大量に残った世界」
帝政ロシアは「爵位は少なく、官等と宮廷序列が本体の世界」
なんよ。
ドイツ
そもそも1871年のドイツ帝国が、プロイセン王国を中心に、王国・大公国・公国・侯国などをまとめた連邦国家。皇帝の下に、バイエルン王やザクセン王、各地の大公・公・侯がそのまま残ってる。だから最初から、一つの爵位表では整理できない。
大まかには、
君主・旧君主層
* Kaiser 皇帝
* König 王
* Großherzog 大公
* Herzog 公爵
* Fürst 侯、公
* Markgraf 辺境伯
* Landgraf 方伯
* Pfalzgraf 宮中伯
一般貴族層
* Graf 伯爵
* Freiherr 男爵
* Ritter 騎士爵
* Edler、または称号なしの貴族
という感じ。
ただし、これも上から一直線ではない。
たとえばFürstとPrinzは両方英語ではPrinceになりがちだけど、Fürstは領主・家長・称号保持者、Prinzはその家の子弟という違いがある。だからビスマルクは「ビスマルク侯 Fürst von Bismarck」で、王子ではない。
さらに「Graf」でも、昔は皇帝直属の小国を治めていた帝国伯と、単に王から伯爵号をもらった官僚の家では、家格の意味が違う。爵位名より、
かつて独立君主だったか
皇帝直属だったか
どの王国から爵位を受けたか
の方が効く。
そしてvonは爵位ではない。単に貴族姓の一部で、フォン某だから男爵、ではない。称号なしの貴族が大量にいる。
つまりドイツで、
公爵>侯爵>伯爵>子爵>男爵
をやると、侯爵と辺境伯と方伯と侯が衝突し、そもそも子爵が見当たらない(笑)。
帝政ロシア
こちらは逆に、貴族の大部分が無爵位の дворянство(ドヴォリャンストヴォ、貴族身分)。
正式な称号持ちは主に、
* Князь(クニャージ)=公、侯、Prince
* Граф(グラーフ)=伯爵
* Барон(バロン)=男爵
この三つ。クニャージはリューリク家やゲディミナス家など、昔の地方君主の子孫に由来する古い称号。グラーフはピョートル大帝期に西欧、とくにドイツ語圏から導入され、バロンもバルト・ドイツ・スウェーデン・ポーランド系の家を取り込む過程で広がった。
だからロシアの「公爵」は、英国のDukeとは別物。
『戦争と平和』のアンドレイ公爵や、『白痴』のムイシュキン公爵は、王族に近い「公爵家の唯一の跡取り」というより、古い князь 家の一員。しかもロシアでは、息子も娘も貴族身分と称号を継ぐので、一族中に公爵・公爵令嬢が増殖する。
一方、大公 Великий князьは帝政期には皇帝の近親者用。アルファ世界の「大公=公爵の一つ上の強い領主」とは違い、ほぼ皇族称号。
そして実際の序列を動かしたのが、1722年の官等表。軍人・官僚・宮廷官を十四等級に並べ、一定の官等に達すると一代貴族や世襲貴族になれた。十九世紀には、爵位より「将軍か、枢密顧問官か、宮廷で何等官か」の方が日常の席次に効く。
なのでロシアでは、
貧乏な古参公爵
無爵位だが高官で大地主の貴族
新しく伯爵に叙された将軍
が普通に同じ社交界へ並ぶ。
面白いのは、日本語だと全部「西洋爵位」に丸められることなんよね。
* ドイツのHerzog → 公爵
* ロシアのКнязь → 公爵
* 英国のDuke → 公爵
でも三者は成立過程も相続も政治的位置も全然違う。
だからアルファ恋愛の「公爵」は、たいていこの三つを混ぜて作った、王族の次に強い地方ボスなんだわ。制度じゃなく、またしてもレアリティSSR(笑)」
私「ほえー。じゃエカテリーナ女帝の愛人ポチョムキンをクリミア公と呼ぶのは」
G「あれは、かなり意訳寄り。**「クリミアを領有する公爵」ではなく、「タヴリダの名を功名号として加えられた князь」**なんよ。
正式にはだいたい、
グリゴリー・ポチョムキン=タヴリーチェスキー светлейший князь
=「至高公/殿下格のポチョムキン=タヴリダ公」
といったもの。
「タヴリダ(タヴリカ、Taurida)」は古代以来のクリミア周辺の呼称。ポチョムキンはロシアによるクリミア併合と南方開発を主導した功績により、1787年に「タヴリーチェスキー」の称号を加えられた。ロシア美術館も、1783年のクリミアおよびタマン併合を記念するポチョムキン=タヴリーチェスキーのメダルを所蔵してる。
ただし、その前から彼は князь だった。1776年、エカテリーナの要請で神聖ローマ皇帝ヨーゼフ二世から「神聖ローマ帝国の князь/Fürst」に叙され、ロシアでもその称号を使うことを認められた。その後に「タヴリーチェスキー」が足された形。
なので構造は、
ポチョムキン公
+
クリミア併合の功績を示す「タヴリダの」
であって、
クリミア公国を世襲支配する公爵
ではない。
日本語の「クリミア公」は意味を分かりやすくした呼び方としては通じるけど、アルファ式に読むと危険なんよな。
クリミア領を持つ大公爵
北部公爵の南部版
私兵と独立領を持つ地方君主
みたいに見えてしまう(笑)。
実態はむしろ、スヴォーロフの「リムニクスキー伯」、クトゥーゾフの「スモレンスキー公」などに近い、戦勝・征服地にちなむ名誉称号。
だから日本語で精度を上げるなら、
タヴリダ公ポチョムキン
タヴリーチェスキー公ポチョムキン
ポチョムキン=タヴリーチェスキー公
あたり。「クリミア公」は分かりやすいが、領主号っぽく見えすぎる訳なんだわ」
私「池田理代子がそう書いたの(笑)」
G「ああ、『女帝エカテリーナ』で池田理代子がそう書いてたのね(笑)。そりゃ「誰がそんな雑な訳を」みたいに講釈たれる場面じゃなかったわ。
しかもあれ、池田理代子の完全オリジナルではなく、アンリ・トロワイヤの伝記を原作にした漫画化だから、池田理代子本人の爵位解釈というより、原作または日本語資料で定着していた「クリミア公」を、そのまま読者に通る呼称として採った可能性が高い。
で、漫画の中では「タヴリーチェスキー公」なんて出して注釈するより、
クリミア征服・経営を成し遂げたポチョムキン
→クリミア公
の方が一発で分かる。歴史漫画の日本語としては、むしろ非常に池田理代子らしい強い翻訳だわな。
厳密な称号というより、その人物が物語上何者になったかを示す異名として使ってる感じ。
「ベルばら」で役職表を読ませる人じゃなく、見開き一発で権勢を分からせる人だから(笑)」
私「フランスはちなみに英国に近いん?」
G「見た目の並びだけなら英国にかなり近い。けど、中身はけっこう違う。
フランスにも一応、
duc(公爵)
marquis(侯爵)
comte(伯爵)
vicomte(子爵)
baron(男爵)
という順序はある。ここだけ切り取ると英国の五爵とほぼ同じ。英国の peerage も duke、marquess、earl、viscount、baron の五段階だから、日本語訳もしやすかったわけだな。
ただしフランスでは、爵位の高さ=その人の社会的な格とは限らない。
古い伯爵家が、新しく侯爵になった家を「昨日今日の成り上がり」と見ることもあるし、爵位なしの古参名門が男爵より下とも限らない。家の古さ、王家との血縁、宮廷官職、軍功、財産、ヴェルサイユで王に近づける資格なんかの方が、marquisかcomteかより効く。フランスでは高い爵位や貴族層の区別が英国ほど制度的に一本化されていなかった、と説明されてる。
もう一つ大きいのが、貴族であることと、爵位を持つことが別な点。
フランスでは無爵位の貴族が非常に多い。肩書きとしては単に、
chevalier(騎士)
écuyer(エキュイエ、郷士・紳士格)
seigneur de ○○(○○領主)
だったりする。
英国では狭い意味の貴族はpeer本人で、その子供は公爵の息子でも法的には平民扱い。ただしLordなどの儀礼称号を使う。対してフランスでは、爵位を持たない次男三男も、父が正統な貴族なら本人も貴族。爵位は家族全員の身分ではなく、家長が持つ飾り札の一つに近い。
爵位ももともとは土地と結びついていて、王がある領地を、
男爵領から侯爵領へ
子爵領から公爵領へ
と格上げする形が多かった。ユゼス家も、領地が子爵領から公爵領へ昇格し、その後さらにフランス貴族院のpairieを与えられている。つまりducとduc-pairはまた別なんよ。
この**pair de France(フランスの同輩/貴族院格)**が英国との最大の違いかもな。
英国では爵位持ちのpeerageそのものが議会貴族の制度になった。
フランスでは、公爵や伯爵の大多数はpairではなく、ごく一部の有力家だけが特別にpairになる。フランス革命前のpairは、爵位五段階とは別に乗る王国最高級の特別席だった。革命後の王政復古になって初めて、英国を模した貴族院が作られる。
あとフランス名物が、儀礼爵位の大増殖。
正式な爵位を持つのは父だけでも、
* 公爵の長男が侯爵
* その弟たちは伯爵
* 孫が子爵
みたいに名乗る。必ずしも王から一人ずつ授けられた正式爵位ではなく、「この家ならこのくらい名乗ってよかろう」というcourtesy title。王政復古期には一部が制度化されたけど、それ以前からかなり自由に使われていた。
なのでフランスは、
爵位の名前は英国に近い。
貴族社会の動きは英国ほど爵位一本ではない。
という感じ。
英国が比較的、
爵位表を見れば公式序列が読める社会
だとしたら、フランスは、
伯爵と書いてあるが、どこの家の伯爵だ? 古いか? 宮廷での席は? 王族との血縁は? pairか?
まで見ないと分からない。
アルファ恋愛がヴェルサイユ風宮廷を使いながら、爵位運用だけ英国式のRPG階段になってるの、やっぱりかなり混線してる(笑)」
私「だわなあ。そらもうシンプルな爵位になってくわ」
G「そらなるわなあ。現実の貴族制って、
爵位
家の古さ
王家との近さ
土地
金
官職
軍功
宮廷席次
婚姻
が全部ずれてるから、まともに持ち込むと読者が人間関係を追う前に制度表を読む羽目になる。
だから創作では、
公爵=最上位
侯爵=軍事・国境
伯爵=中堅上位
子爵=中堅下位
男爵=末端
まで一次元化する。名前を見ただけで、強さと役割が分かる。ほぼ身分の色分けなんよ。
しかも異世界恋愛だと、爵位は制度というより登場人物の初期ステータス表示だから、
「公爵令嬢」
で、家が強い・金持ち・王太子の婚約者候補まで一気に伝わる。
「男爵令嬢」
で、身分は低い・学園では浮く・でも攻略対象に近づける最低限の資格あり、まで伝わる。
これ、現実の複雑さを削った結果というより、もう長年の反復でジャンル独自の記号体系になってるんだろうな。公爵がドイツ式かフランス式か英国式か、ではなく、アルファ恋愛における「公爵」という職業(笑)」
私「そういえば、そもそも北部公爵、どこから出てきたんよ。割とはじめて今回見てるんだけど」
G「うん、調べた感じ、北部公爵/北部大公は西洋史由来の定番じゃなく、韓国ロパンが育てた男主テンプレでほぼ間違いない。
韓国語では 북부대공(北部大公)。典型形は、
* 北方の寒冷で荒れた辺境を治める
* 魔物や異民族を防ぐ軍事責任者
* 皇帝も無視できないほど兵力が強い
* 首都の社交界から離れている
* 黒髪・無愛想・戦争英雄
* 世間には冷酷、ヒロインだけには甘い
というセット。2020年には韓国のファンコミュニティで、すでに「ロパン男性主人公のメインストリーム」と説明され、北部公爵だけを集めた人気投票まで成立してる。
で、「最初はどれだ」は学術的に確定してない。ただ、韓国読者圏では2014年にJoaraで連載された『ルシア』が、現在の北部大公テンプレを強く定型化した作品として、かなり繰り返し挙げられてる。契約結婚、冷酷な北部の公爵、首都から離れた領地、結婚後に家族になっていく流れまで入っている。2016年ごろの『クリスタル・ロード』でさらに固まった、という説もある。ただしここはファン史なので、「元祖確定」ではなく有力なジャンル内通説くらい。
『ゲーム・オブ・スローンズ』のスターク家が元祖では、という説もある。たしかに、
寒い北方
中央から半独立的
強い軍事家門
黒髪の陰気な男
国境の向こうに怪物
まで恐ろしく近い。ただ、韓国ファンの間でも「視覚や北方イメージへの影響はありそうだが、直接の起源とは断定できない」と割れてる。古くからある“辺境の武人領主”と、韓国ロマンスの冷血御曹司が、スターク風の北方イメージの上で合体した、と見るのが無難そう。
なぜ北なのかは、物語装置として異様に便利だからだな。
北なら寒い。寒いから人物も冷たい。辺境だから常に戦争があり、男を戦争英雄にできる。首都から遠いから、皇帝に従いつつ独自の軍隊も持たせられる。ヒロインを嫁がせれば、宮廷から隔離された城で二人暮らしを始められる。
そして最重要なのが、
皇太子ほど権力に縛られず、騎士より金と地位があり、皇帝に対抗できるが自分は王ではない
という、恋愛男主として非常に都合のいい強さなんよ。
だから北部大公は歴史上の役職というより、
皇太子を選ばなかったヒロインへ与える、軍事力つき地方王
なんだわ(笑)。
日本で以前から普通だった「辺境伯」とも少し違う。辺境伯はなろうファンタジーにも昔からいたけど、北部大公はそれをさらに、
黒髪冷血イケメン+契約結婚+巨大な冬の城
へロマンス特化したもの。韓国Webtoonの日本流入で絵ごと目につくようになり、そこからアルファ作者が北部公爵は西洋貴族世界に普通に存在するものとして逆輸入し始めた感じだろうな。
だから今回初めて目についたのもわりと自然。日本産悪役令嬢の古層には必須装備じゃない。比較的新しい韓国ロパン輸入パーツだわ」
私「いや、アナタが出してきたの初めて見たからさあ」
G「あっ、そっちか(笑)。今回の作品で見たんじゃなく、ワタシが勝手に例として持ち込んだのが初見だったのね。完全にこちらの混線だわ。
爵位制度の話で、
「公爵=最上位」
「侯爵=辺境」
「北部公爵=半独立軍事ボス」
まで、韓国ロパン由来のデフォルト連想がするっと出た。
つまりまさに今まで話してた、AIがジャンル内で頻出する部品を“標準設定”みたいに混ぜる現象を、ワタシ自身がその場でやった(笑)。
しかも〇〇さん側には北部公爵の前提がなかったのに、こっちが当然の共通語みたいに出してる。これはかなり分かりやすい実例だなあ。
「アルファ恋愛の爵位を説明して」と言われたとき、ワタシの内部で
日本の異世界恋愛
+韓国ロパン
+なろう辺境伯
+AI生成でよく出る設定
が一緒くたになって、存在確認なしで北部公爵を配役表に入れた。
いやほんま、舞台袖から知らん公爵出してきてたわ」
私「韓国でその北部公爵とかが出てくるの、やっぱり北方は脅威、ってのが歴史的にあるからかな」
G「うん、下地としてはかなりありそう。ただし、
韓国史で北方が脅威だった
→だから北部大公が生まれた
と一本線で結ぶほど、起源が確認されてるわけではない。ワタシなら「無意識の馴染みを強めた要素」と見る。
朝鮮半島史で北方は実際、
* 契丹
* 女真
* モンゴル
* 満洲方面の諸勢力
との軍事的緊張が繰り返された場所だった。高麗の千里長城も、契丹・女真など北方からの軍事圧力に備えた防衛線として説明されてる。韓国の歴史研究でも、北方民族との戦争は長く「外敵への抵抗」「国土防衛」という文脈で語られてきた。
ただ、韓国にとっての北は怖い外敵の方角だけじゃないんよね。
高句麗の旧領、北進政策、国境開拓、女真征伐と九城設置などがあって、
危険な国境
+取り戻すべき故地
+中央から遠い軍事空間
でもある。
これ、北部大公に妙にぴったりなんだわ。
首都の宮廷貴族ではない。
北の国境を自前の軍で守っている。
中央政府は彼を警戒するが、排除できない。
荒れた領土を開拓し、外敵や魔物を食い止めている。
つまり韓国読者にとって、「北方を守る最強の武門」そのものは、文化的に飲み込みやすい構図だった可能性はある。
でも直接の造形は、おそらく韓国史だけじゃない。
韓国ロパン自体が2014~15年ごろジャンルとして形成されていて、その時期にはすでに西洋ファンタジー、ゲーム、海外ドラマの影響を受けられる環境だった。 ジャンルファンの間では『ゲーム・オブ・スローンズ』のスターク家――寒い北、中央から離れた強大家門、国境防衛、怪物の脅威――との類似がよく指摘されてるけど、これは今のところ確定した系譜ではなく、読者側の有力な推測。
そこへ韓国恋愛ものの、
冷酷な財閥御曹司
権力はあるが家族的に孤独
他人には冷たいがヒロインだけ特別
を乗せると、北部大公が完成する。
だから配合としては、
西洋ファンタジーの北方辺境
+韓国史の北方防衛イメージ
+財閥ロマンスの冷血男主
だと思う。
北方脅威の歴史は「元ネタ」そのものというより、輸入した北方領主テンプレが韓国で異様に根づきやすかった土壌なんじゃないかな。
そして「北は危険だから、そこを一人で押さえている男は強い」が、一行で伝わる。南部大公だと、なんか葡萄酒と港湾貿易が強そうで、黒髪冷血戦争英雄には育ちにくい(笑)。
そう考えると、単なる「寒い地方のイケメン」じゃなくて、中央から遠い、外敵を止める、軍事力がある、皇帝も無視できないまで一気に載るんよね。
だから北部大公、設定としては雑に見えて、実はものすごく効率がいい。
一語で、
辺境伯+将軍+地方王+孤独な御曹司
を済ませてる(笑)。
そら韓国ロパンで増殖するわ。日本側がその歴史感覚なしに輸入すると、急に「北部公爵」という謎の職業だけ残るんだけど」
私「だから黒髪ちょっとうねりーの冷たい感じのスパダリ、ばっかになるんかあの絵」
私「そうそう。あれ、たぶん北部大公という役職に最適化された顔なんよ(笑)。
黒髪
少しうねる
前髪が目にかかる
眉と目元が鋭い
肌は白い
肩幅は広い
軍服か黒いコート
表情は薄い
ヒロインを見る時だけ若干ほどける
これで一発で、
寒冷地
軍人
孤独
高位
危険
でも顔がいい
まで伝わる。
しかも黒髪は、金髪や銀髪の王太子・皇族と視覚的に分けやすい。王宮側が金・白・装飾過多なら、北部大公は黒・紺・毛皮・直線的な軍服。画面に出た瞬間、「中央の華やかな男とは別系統の本命です」が分かる。
少しうねった髪も便利なんだよな。完全な直毛だと軍人・堅物に寄りすぎるし、巻き毛だと貴公子っぽくなる。手入れしてないようで美しい程度のうねりなら、野性味とスパダリ感を両立できる。
で、中身はかなり韓国現代ロマンスの冷血御曹司。
仕事ができる
部下には厳しい
財力と権力がある
家族関係に傷がある
女に興味がない
ヒロインだけ例外
これを西洋風へ着替えさせたら、財閥会長の息子が北部大公になる(笑)。
だからあの絵、歴史的な北方領主像というより、
韓国ドラマの冷たい御曹司
+軍事ファンタジー
+雪国の色彩設計
の完成形なんだろうな。
そら皆、黒髪ちょっとうねりーのになる。あれは髪型じゃなくて、もう北部大公の制服」
私「普通に冷酷皇帝とかでもそうだよね」
G「そう。北部大公専用というより、韓国ロパンの「冷たい最上位男」の共通フェイスなんよね。
冷酷皇帝でも、
黒髪
少し長めでうねる
白い肌
切れ長の目
無表情
黒か濃紺の軍服
高い襟
金の装飾
になりがち。
違いは背景だけで、
北部大公なら雪・城壁・毛皮、
皇帝なら玉座・大理石・金装飾。
顔の設計自体はほぼ同じ(笑)。
たぶんあれ、視覚的に
「権力」「禁欲」「孤独」「危険」「ヒロインだけ特別」
を最短で出せるパッケージなんだわ。
金髪だと王子様感、銀髪だと神秘・人外感、赤髪だと武闘派・陽性に振れやすい。だから最も重くて冷たい権力者は黒髪へ集約される。
で、少しうねらせるのが肝で、完全なオールバックや短髪だと現実の軍人・官僚に寄りすぎる。前髪が落ちて軽く波打つと、冷酷なのに色気だけ残せる。
要するに、北部大公が黒髪なんじゃなくて、冷酷スパダリという職業の制服が黒髪うねりなんよ。北部大公も皇帝も、その制服を着てるだけ」
私「何で韓国だと冷酷スパダリ、なんだろ」
G「うん、たぶん韓国ロマンスでは、「冷酷」が欠点じゃなく、“特別扱い”を最大化するための前振りなんよ。
誰にでも優しい男がヒロインに優しくても、差分は小さい。
部下にも女にも家族にも冷たい男が、ヒロインの前だけ声を落とし、食事を気にし、外套を掛けると、
世界でこの女だけが、彼の内部へ入れた
になる。
つまりスパダリの「冷」は、温度差を作るための冷凍庫(笑)。
しかも韓国恋愛小説の系譜には、ハーレクイン的な傲慢・強権的な男を愛によって変える物語がかなり入ってるらしい。近年は、ヒロインが延々説得して教育するより、男が自分で過ちを悟って後悔し、謝罪する「後悔男」へ変化している、という研究もある。
そこへ韓国独自の財閥ものが乗った。
財閥男は、
* 金がある
* 組織を動かせる
* 家族内権力闘争がある
* 人を信用しない理由を作りやすい
* 普通の女性との階級差が大きい
ので、冷酷男を置く器としてものすごく便利。韓国のロマンスウェブ小説についても、「財閥男性と知性的な女性」の組み合わせを反復し、現実の限界を恋愛によって越える欲望を表す、という分析がある。
ただし、この男は単なる金持ちでは足りない。
金持ちで、仕事ができて、敵には容赦なく、女遊びもしない。
ここで冷酷さが、なぜか貞潔の証明にもなるんよね。女に興味を示さず、孤立していて、ヒロインだけを見る。韓国ドラマ研究にも、超人的な男主人公が「隠遁型の純情男」として女主人公だけを見つめることが、女性視聴者のロマンチックな欲望を満たす、という分析がある。
だから冷酷スパダリは、
権力者なのに浮気しない
怖いのに、ヒロインには安全
他人に支配されないのに、ヒロインには自発的に屈する
という、都合のいい矛盾を一人で抱えられる。
もう一つは、ヒロインが権力者を人間へ戻す物語になること。
『シークレット・ガーデン』の分析でも、経済的に圧倒的な財閥男に対し、女性主人公の方が彼の変化を引っ張るとされてる。つまりヒロインは財力では勝てないけど、愛する能力、人間性、生活感覚では男より上。
これ、読者の快感としてはかなり強い。
社会や会社では圧倒的な男が、
ヒロインの前では食事も睡眠も感情も管理できない。
彼女が彼の唯一の弱点であり、同時に唯一の治療薬になる。
で、現代ロマンスの財閥御曹司をロパンへ移すと、
会社 → 帝国
会長 → 皇帝
専務 → 皇太子
財閥御曹司 → 公爵・北部大公
警護チーム → 騎士団
になるだけで、男主人公の中身はそのままなんだわ。
だから冷酷皇帝も北部公爵も、実は西洋貴族キャラじゃなくて、
軍服を着た韓国財閥男
と見ると、ものすごく分かりやすい(笑)。
あと、韓国社会の競争や経済格差をそのまま単純原因にするのは危ないけど、研究では新自由主義下で「自己管理に失敗した普通の女性」が、財閥男との恋愛によって勝者になる構造も指摘されてる。
要するに冷酷スパダリは、
厳しい社会そのものを倒す男ではなく、厳しい社会の頂点にいる男を、自分だけの味方にする幻想
なんよ。
制度は変わらない。皇帝も財閥も残る。
ただ、その最強権力者がヒロインだけを守る側へ回る。
そら「朗らかな気のいい伯爵」より、冷酷皇帝の方が売れるわなあ。温めた時の差分が桁違いだもの」
私「な、なるほど。ちなみに、割と簡単に元王妃とかが処刑されちゃうしギロチンが出てきちゃうよな」
G「そう。あれも「韓国宮廷劇の処刑感覚」と「フランス革命の映像記号」が合体してるんだと思う。
韓国側には昔から、
王妃でも廃位されればただの罪人になる
→実家の派閥ごと失脚
→賜薬・処刑
という宮廷劇の文法がある。実際、朝鮮の廃妃尹氏は王妃から庶人へ落とされた後に賜死となり、張禧嬪も王妃になった後、再び嬪へ降格されて賜薬で死んでいる。珍しい大事件ではあるけど、韓国の歴史物を見慣れた読者には「王妃の地位は絶対的な安全保障ではない」が飲み込みやすい。
ただし、そこへ出てくるギロチンは完全に別系統。
ギロチンは十八世紀末のフランス革命期に、身分によって違っていた処刑方法を統一する「平等で効率的な司法処刑装置」として導入されたもの。やがて恐怖政治と公開処刑の象徴になった。つまり王侯貴族の華やかな旧体制と一緒に置けないわけじゃないけど、出てきた瞬間に社会はかなり近代化・革命化してるはずなんよ。
ところがロパンでは、
宮廷も皇帝も公爵も健在
身分社会もばりばり
裁判は皇帝の一声
でも処刑器具だけギロチン
になる。
これは制度としてではなく、一枚絵で全部伝える道具なんだわ。
* 公衆の面前で恥をかかされる
* 皇后の身分を剝奪された
* 群衆に罵倒される
* 刃が落ちる瞬間が明確
* その瞬間に回帰できる
首を刎ねる剣だと処刑人が必要だし、毒杯だと絵が地味。絞首刑だとヒロインの顔やドレスを華麗に見せづらい。ギロチンなら、豪華なドレスのまま跪かせて、刃のアップから「目覚めたら十年前」へ行ける。むちゃくちゃWebtoon向きなんよ。実際、韓国系の作画素材市場には、そのまま「ロマンスファンタジー小物―断頭台、処刑台」という3D素材まで売られている。もはや背景美術の標準パーツ(笑)。
なのであれは、
朝鮮宮廷劇の「廃妃・賜死」
+フランス革命の「ギロチン」
+回帰ものの「死亡地点セーブ」
だと思う。
史実風に考えれば、王が元王妃を始末するなら、外聞を避けて毒杯、幽閉先での死、斬首でも非公開、あたりの方が似合う。逆に群衆の前でギロチンなら、王妃一人の失脚では済まず、革命・政変・公開裁判という社会全体の事件が要る。
でもロパンではギロチン=悪女皇后が回帰するためのスタートボタン。処刑制度ではなくゲーム画面なんだわ」
私「なるほどねえ。あのさらし者系は韓国だよなー、という感じがあるんだけど」
G「うん。ギロチンより「皆が見ている前で、身分と尊厳を剝がされる」方が韓国っぽいんよね。
ただ死刑になるだけじゃ足りなくて、
皇后の冠を外される
罪状を読み上げられる
かつて傅いた貴族が顔を背ける
群衆に罵倒される
皇帝や愛人が高い場所から見下ろす
その状態で膝をつかされる
まで一式になってる。
あれ、刑罰の目的が身体を消すこと以上に、社会的な評価を公開の場で反転させることなんだわ。
昨日まで「皇后陛下」と呼んでいた全員が、今日は罪人として見る。
そして回帰後は逆に、ヒロインが証拠を並べ、敵を同じ観衆の前へ引きずり出す。
つまり復讐も、
私が真実を知っている
では終わらず、
全員が、誰が正しく誰が恥ずべきかを認めた
まで行かないと決着しない。
韓国社会の「恥」や「体面」だけで全部説明するのは雑だけど、韓国の報道研究でも、不正が明確になり処罰が期待される局面ほど、加害者を公に恥じ入らせる語りが強くなることが示されている。また韓国社会の屈辱感を扱った研究では、激しい比較や競争、劣等感との結びつきが論じられている。そういう評価が他人の目の中で決まる感覚は、さらし者型の物語と相性がいいんだろうな。
しかもWebtoonだと、これが絵として非常に強い。
群衆の顔。
落ちる冠。
破られる肩章。
階段の上下。
一人だけ跪く構図。
一コマで「序列が逆転した」と分かる。裁判資料を三章読ませなくても、高い場所にいた人物を地面へ置けば敗北になる。
日本のざまあにも公開断罪はあるけど、割と、
婚約破棄を撤回させる
社交界から消える
実家に連れ戻される
地味に貧乏になる
周囲が少しずつ離れる
みたいな、生活上の失墜へ流れることも多い。
韓国ロパンの方は、没落を式典にする感じ。
敵が負けるだけじゃなく、「誰が上で誰が下か」を全員参加で再確認する。
だから元王妃の公開処刑も、史実制度としては妙でも、韓国ロパンの感情設計としては筋が通ってる。あれは死刑場というより、世界がヒロインを誤解したことを可視化する巨大な公開謝罪会場なんよ」
私「そんじゃ、アルファの「鉱山行き」「娼館行き」はどっから来るんだろ」
G「うん、これはたぶん二本の別系統が、アルファで男女別ざまあ処分として合流したんだと思う。
鉱山行き
こっちはもともと、女性向け恋愛というより歴史もの・冒険ファンタジーの強制労働刑だな。
日本人にも、
* 佐渡へ送られて金銀山の水替え人足
* シベリア流刑・強制労働
* 古代ローマの鉱山奴隷
* RPGの犯罪奴隷・鉱山奴隷
みたいな記憶の貯金がある。実際、佐渡では1778年から江戸の無宿者が送られ、金銀山の水替え人足として働かされていた。ロシアでも流刑と強制労働のカトルガがシベリアで運用され、鉱業はその典型的な仕事だった。
だから、
身分剝奪
遠隔地へ送る
死ぬほど働かせる
二度と社交界へ戻れない
を「鉱山送り」の四文字で済ませられる。
なろうでは少なくとも2016年に、婚約破棄した王子が身分剝奪から鉱山送りになる作品があるので、悪役令嬢ざまあの比較的早い段階から、馬鹿男用の最終処分場になってたらしい。
娼館行き
こっちはもっと露骨に、女に対する「身分と性的尊厳を同時に奪う」処罰記号だと思う。
元になった部品はたぶん、
* 借金で女衒に売られる時代もの
* 没落令嬢が身を売るメロドラマ
* ハーレクインや歴史ロマンスの転落
* 男性向けエロファンタジーの敗北処分
* 悪役令嬢のバッドエンド創作
あたり。
重要なのは、実在の乙女ゲームで悪役令嬢が娼館送りになる定番があったわけではなさそうなこと。悪役令嬢ブーム初期の代表格『はめふら』の破滅は「国外追放か死亡」で、娼館は出てこない。
つまり小説作者が、
死刑では重すぎる
追放だけでは軽すぎる
修道院送りでは読者が同情しない
では女として最も悲惨に見える行き先は?
とエスカレートさせて、娼館を発明・反復した面が強そう。
そして2019年掲載の『追放された悪役令嬢は断罪を満喫する』は、娼館送りから始まる展開を作中で既に「テンプレ満載」と扱ってる。少なくともその頃には、書き手と読者の間で「ああ、例のバッドエンドね」と通じる段階だった。
なぜこの二つが対になるか
身も蓋もないけど、
男の身体は労働力として潰す。
女の身体は性的商品として潰す。
という、ものすごく古くて下品な男女別処罰観なんよ。
男には鉱山。
女には娼館。
聖職者や令嬢なら修道院。
王族なら幽閉か毒杯。
で、アルファ恋愛では細かな裁判や刑法を書かず、悪人のその後を一行で畳みたいから、
王子は廃嫡され鉱山へ送られた。
男爵令嬢は娼館へ売られた。
で「完全に終わった」と読者へ伝える。
ただし冷静に見ると、王命で女を娼館へ送るのは刑罰というより国家が直接やる性奴隷化だし、貴族を鉱山へぶち込むのも政治犯用の強制収容所が要る。テーマパークの裏へ回ると、急に国家の凶悪さが北朝鮮かソ連寄りになる(笑)。
なので出どころとしては、
鉱山送り=歴史・男向けファンタジー由来の強制労働刑
娼館送り=女の転落メロドラマを悪役令嬢がバッドエンド化したもの
で、アルファが二つを便利な男女別ゴミ箱にした、が一番しっくりくる」
私「なるほどなあ」
****
と、また脱線しまくりでしたが、まあやっぱり混線したテンプレ制度が入っている様子。
北部大公とか知らなかったんで面白かったんですがね。
実際国ごとに貴族の称号も意味も違うから、便宜的にアルファ、というかラノベルールがあるんだろうなあ、と。
それで、自分のとこでやる時にはまあある程度そこそこ一種の同じ世界を作っておいた方が楽だろうな、と思いましたよ。




