82話
「じゃあ、今日はちゃんと会議をします」
クロがそう言った瞬間、通話に妙な沈黙が落ちた。
『……え、ゲームしないの?』
最初に口を開いたのはRiotだった。
「会議だからな」
『ゲームしながら会議すればいいじゃないか!』
「お前、昨日もそれ言ってただろ」
『そして楽しかっただろ?』
「それは否定しないけど」
『じゃあいいじゃないか!』
「よくない」
クロはため息をつき、画面共有を開始した。
表示されたのは、大会の競技タイトルと日程をまとめた資料だった。
運営から共有された正式な競技一覧に、クロが各メンバーの得意分野を書き加えている。
『うわ、ちゃんと資料作ってる』
冬月ユキが感心したように言った。
「作らないと分からないだろ」
『いや、クロくんって、こういうとき本当に仕事が早いよね』
「普段からこういう仕事してるからな」
『あ、そうだった。編集とか裏方もやってるんだっけ』
「裏方専任じゃないからな。ちゃんとVTuberもやってるから」
『知ってる知ってる』
「本当に分かってる?」
『たぶん』
「おい」
朝霧レイが笑った。
『じゃあ、まずは競技ごとの得意分野を確認しようか。三日間の総合ポイント制なんだから、一つのゲームだけ強くても駄目なんでしょ?』
「そう。競技ごとに出場メンバーを変えられるから、全員が全部に出る必要はない。得意なゲームでポイントを取って、苦手なゲームはできるだけ失点を抑える」
『なるほど。チーム戦ってことだね』
透乃ユラが静かに続ける。
『個人の順位だけじゃなくて、チーム全体の結果が大事になるんだ』
「そういうこと」
クロは資料を次のページに進めた。
「まずFPS系。ここはRiot、カナタ、俺が候補。シオンも経験があるなら入れたい」
『FPSは得意だよ』
シオンが短く答えた。
「じゃあ候補に追加」
『待って。クロ、FPSって言ってもタイトルによるよね?』
カナタが口を挟んだ。
「そうだな。Riotが得意なのは競技系のFPS。俺はタイトルによって得意不得意がある。カナタは?」
『私も基本的にはFPSかな。あと、チーム戦の判断が必要なゲーム』
「じゃあ、その辺は一度練習して決めよう。実際に動いてみないと分からないから」
『うん。私、久しぶりだから、今の環境でどれくらい動けるか確認したい』
「無理に昔の感覚でやらなくていいぞ」
『分かってるよ。でも、せっかく呼んでもらったんだし、ちゃんと戦力になりたいから』
その言葉に、クロは小さく頷いた。
「期待してるよ」
『……っ』
カナタが一瞬、黙る。
『……うん。頑張る』
『はい、今ちょっと嬉しそうだった』
ユキがすかさず言った。
『ユキさん!?』
『いや、声が分かりやすかったから』
『そんなことないよ!』
「会議進めるぞ」
クロが割って入れると、カナタは小さくはーいと返した。
『クロ、助かった』
「別に助けたわけじゃない」
『……そういうところだよね』
「何が?」
『何でもない!』
レイが楽しそうに笑っている。
「次、レースゲーム。これは俺が第一候補。しずくさんも経験あるよな?」
『はい! 前の大会でもクロさんと一緒に出ました!』
「うん。しずくさんは安定してるから、チーム戦でも出しやすいと思う」
『えっ、あ、ありがとうございます……!』
『しずく、よかったね』
ユラが優しく声をかけた。
『はい! 頑張ります!』
「ただ、俺としずくさんだけで決めるわけじゃない。レイやユキさんもレースゲームの経験があるなら、練習して判断したい」
『私もレースゲームは好きだよ。得意かと言われると、やってみないとだけど』
レイが答える。
『私は昔ちょっとやってたくらいかな。でも、練習すればいけると思う』
ユキも続いた。
『Riotは?』
「海外のゲーム大会でレースゲームもやってたよな?」
『YES! BUT、私の運転は少し……AGGRESSIVE!』
「それ、事故る人の言い方なんだよ」
『勝てばいいんだ!』
『よくないよ!?』
カナタが思わず突っ込んだ。
「とりあえず、レースゲームも全員で一度練習しよう。得意な人を出すのが基本だけど、相手チームのメンバー構成も見ながら決めたい」
『了解』
『分かった』
シオンも短く返した。
クロはさらに資料を進める。
「次はパーティーゲーム、協力ゲーム。この辺は全員に出場の可能性がある」
『全員?』
しずくが聞き返した。
「うん。個人の技術だけじゃなくて、連携や判断が重要なゲームもあるから。普段あまりゲームをしない人でも、役割次第では活躍できる」
『確かに。チーム戦なら、得意な人が全部やればいいわけじゃないもんね』
ユラの言葉に、クロは頷いた。
「そう。例えば、情報を整理する人、全体の状況を見る人、実際に動く人。それぞれ役割が違う」
『じゃあ、私は全体を見る役もできるかも』
ユラが言った。
「ユラさんは状況整理が上手いから、そういう役割は合ってると思う」
『ありがとうございます』
『私も作戦を考えるのは好きだよ』
カナタが続ける。
『昔から、ゲーム中に何が起きてるか考えるのは得意だったし』
「そこは俺も知ってる。カナタは状況判断が速いから、チーム戦ではかなり助かると思う」
『……えへへ』
『また嬉しそう』
『ユキさん!』
「だから会議進めるぞ!」
今度はクロ自身が少しだけ声を張った。
全員が笑った。
「……で、ユキさんはトーク系や心理戦のあるゲームも候補だな。場の流れを読むのが上手いし、相手の発言から情報を拾える」
『お、褒められた。じゃあ期待に応えないとね』
「レイは対応力が高いから、初見のゲームでも候補にできる。しずくさんは、前の大会でやったタイトルなら優先して出場を考える」
『はい!』
「ユラさんは作戦や連携重視。シオンは……」
『ゲームによる』
「だと思った」
『ただ、必要なら練習する』
「助かる」
そしてクロは、最後にRiotの名前を指した。
「Riotは、海外勢との対戦経験もあるから、相手の傾向を分析する役も頼みたい」
『NO PROBLEM! 相手の弱点を見つけて、そこを攻める!』
『頼もしいねえ』
ユキが笑った。
『でも、弱点を見つけるだけじゃなくて、味方にも分かるように説明してね』
『……I WILL TRY!』
「頑張れ」
『クロ、今のは絶対に信用してないだろ!』
「いや、信用はしてるよ」
『その間は何だ!』
「説明が英語だけになりそうだなって」
『……それは、あるかもしれない』
『認めるんだ!?』
カナタが笑い出した。
「まあ、そこは俺も含めて、全員でフォローすればいい。言葉が完全に通じなくても、ゲーム内で共有できる情報はあるから」
『そうだね。Riotさん、分からないことがあったら気軽に聞いてね』
しずくが声をかけた。
『THANK YOU!』
Riotの声が明るくなる。
会議は順調に進んでいた。
それぞれの得意分野を確認し、苦手なゲームについても話し合う。
まだ正式な出場メンバーは決まっていないが、チームとして何を重視するべきかは少しずつ見えてきた。
そんな中、レイがふと思い出したように口を開いた。
『そういえば、クロ』
「ん?」
『今回のチームって、クロが一番いろんなゲームをできるんじゃない?』
「……どうだろうな」
『いや、昨日のゲームも普通に一番上手かったじゃん』
ユキも同意する。
『確かに。クロくん、何やらせてもそれなり以上にできるよね』
「得意なゲームが多いだけだよ」
『それを器用って言うんだよ』
『でも、クロさんが全部に出るのは大変じゃないですか?』
しずくが心配そうに尋ねた。
「だから、俺が全部出る必要はないって。チーム全体で勝つのが目的だからな」
『……クロ』
カナタが、少しだけ真面目な声で呼んだ。
「何?」
『私が出られるゲームは、なるべく私に任せてほしい』
「……」
『もちろん、今の実力を確認してからでいいよ。でも、せっかく誘ってもらったんだし、私もちゃんとチームに貢献したい』
クロはしばらく考えたあと、頷いた。
「分かった。練習して、実力を見てから決めよう」
『うん!』
「ただし、無理はするなよ。久しぶりなんだから」
『……分かってるって』
「本当に?」
『分かってる!』
「ならいいけど」
カナタは少しむっとした声を出した。
『クロって、昔から私のことを子ども扱いするよね』
「子ども扱いしてるつもりはないけど」
『してるよ!』
『あはは、仲いいねえ』
ユキの一言に、カナタが慌てる。
『そ、そういう話じゃないでしょ!』
「……もういいから、次に行くぞ」
クロは資料を切り替えた。
最後のページには、今後の練習予定がまとめられていた。
「まずは全員で一度、候補タイトルを練習する。その結果を見て、各競技の出場メンバーを決める。必要なら少人数で追加練習。大会直前には、チーム全体で連携を確認する」
『いいと思う』
レイが頷いた。
『私も賛成。最初から出場者を固定するより、そのほうがいいね』
『賛成です!』
しずくも続いた。
『私も』
ユラが答え、ユキとシオンも同意した。
『RiotもOK!』
カナタも、はっきりと答える。
『私も大丈夫。久しぶりだから、まずは練習して感覚を戻すね』
「よし。じゃあ、これで方針は決まり」
クロは画面共有を終了した。
「今日はここまで。次回は実際に候補ゲームをやってみよう。日程はあとでグループに送る」
『了解!』
『お疲れさま』
『楽しみだね』
全員が口々に返事をする。
通話を終える直前、カナタがクロを呼び止めた。
『クロ、ちょっといい?』
「ん?」
『今日のあと、少しだけゲームしない? 二人で』
「……今から?」
『うん。さっきの会議で話してたゲーム、私も練習しておきたいし』
「別にいいけど」
『本当!?』
「声でかい」
『だって、クロと練習できるんでしょ?』
『……ふふっ』
ユキが笑った。
『じゃあ、私たちは先に抜けるね。二人とも頑張って』
『ちょ、ユキさん! 違うからね!?』
「……何が違うんだよ」
『クロまで!』
最後まで騒がしい通話だった。
一人、また一人と通話から抜けていく。
最後に残ったのは、クロとカナタの二人だけだった。
「……じゃあ、何やる?」
『えっとね。まずはFPSかな。昔やってたタイトルに近いやつがあれば、それから』
「分かった。候補を探すか」
『うん!』
カナタの声は、さっきまでよりもずっと弾んでいた。
大会に向けた作戦会議は終わった。
これからは、それぞれが自分の役割を見つけていく時間だ。
そしてクロにとっても、久しぶりに戻ってきた友人と、もう一度本気でゲームをする時間が始まろうとしていた。
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