81話
「……全員いる?」
『いるよー!』
『います』
『聞こえてる』
『YES!』
『いるいる』
「まだ始まってないのに、もううるさいな……」
クロはヘッドセットを調整しながら、通話画面を眺めていた。
大会に向けたSPECIAL TEAMの初顔合わせ。
今回は八人全員が参加することになっており、各自が自分の配信環境から通話に入っている。
クロのほかに、雨音しずく、朝霧レイ、透乃ユラ、冬月ユキ、Riot、シオン。そして、久遠カナタ。
所属も活動歴もバラバラな八人が、初めて同じ通話に集まっていた。
「じゃあ、全員そろったみたいだし、始めるか」
『ちょっと待って』
冬月ユキが口を挟んだ。
『クロくん、進行役なの?』
「一応、俺が声かけたメンバーだから」
『ああ、なるほど。じゃあよろしくね、リーダー』
「リーダーではないです」
『でも、実質リーダーじゃない?』
『AGREED!』
Riotがすかさず同意する。
「お前らな……」
『クロさん、頑張ってください!』
しずくまで乗っかってきた。
「しずくさんまで?」
『す、すみません。でも、クロさんが一番詳しいと思うので……』
「まあ、それはそうだけど」
『ほら、リーダー』
「ユキさん、あとで覚えてろよ」
『怖い怖い。頼もしいねえ』
クロがため息をついたところで、別の声が割り込んだ。
「……あのー」
少し甘めで、柔らかい声。
「私、入ってるよね?」
クロが画面を確認する。
「入ってるよ、カナタ」
「よかったぁ……。なんか、みんなの声が一気に聞こえてきたから、ちょっとびっくりしちゃった」
『……ん?』
朝霧レイが反応した。
『今の声って、もしかして……』
「そう。久遠カナタ」
クロがあっさり答える。
『…………』
一瞬、通話が静まり返った。
そして。
『ええええええ!?』
しずくの声が一番大きく響いた。
『カ、カナタさん!? 本当に!?』
「わっ、びっくりした!」
『す、すみません! あの、私、昔から知ってて……!』
「えっ、そうなの?」
『はい! 配信、見てました!』
カナタが少し照れたように笑う。
「そっかぁ……。ありがとう。なんか、ちょっと恥ずかしいね」
『い、いえ! あの、本当に……参加されるんですね!』
「うん。クロに誘ってもらって、今回だけね」
『今回だけ……』
しずくは、しみじみと呟いた。
『すごい……』
「いや、そんな大げさな話じゃないよ?」
『大げさですよ!』
カナタが困ったように笑う。
「えへへ……」
そのやり取りを聞いていた冬月ユキが、感心したように口を開いた。
『いやあ、クロくん。本当にすごい人を連れてきたね』
「だから、昔の友達だって」
『その昔の友達がすごいんだって話』
『同意』
シオンが短く返した。
「シオンまで……」
『クロ、昔からこういう人だったの?』
朝霧レイが尋ねる。
「どういう人だよ」
『人脈がよく分からない人』
「失礼だな」
『いや、だってさ。個人勢時代の友達を引退後も普通に誘って、こういう大会に連れてくるんでしょ?』
「普通に連絡しただけだって」
『その普通が普通じゃないんだよ』
「……そうか?」
『そうだよ!』
今度はカナタが即答した。
「お前まで言うのかよ」
「だって、私もびっくりしたもん。急に連絡来て、ゲーム大会に出ない? って言われたんだよ?」
『それはびっくりするわ』
ユキが笑った。
「でも、カナタもすぐ了承しただろ」
「……それは」
カナタの声が少しだけ小さくなる。
「クロから誘われたから、かな」
『……おお?』
『あら?』
『へえー?』
「いや、変な意味じゃないよ!?」
カナタが慌てて付け足した。
「昔から一緒にゲームしてたし、久しぶりに一緒にやりたいなって思っただけ!」
『なるほどねえ』
ユキの声は、明らかに面白がっていた。
「ユキさん、変な方向に持っていかないでくださいね」
『何も言ってないけど?』
「声が言ってる」
『ふふっ』
レイも笑っていた。
そのとき、透乃ユラが静かに口を開いた。
『……カナタさん、アバターも使うんですよね?』
「うん。クロがデータを持ってて、動くように調整してくれたの」
『やっぱり……』
ユラが少し感慨深そうに呟く。
『引退した方が、もう一度アバターを出して参加するって、なかなかないですよね』
「そうだよね。私も、もう使うことはないと思ってたから」
『でも、楽しみです。昔の姿を見られる人も、たくさんいると思いますし』
「……うん。そうだったら嬉しいな」
カナタの声が、少しだけ柔らかくなった。
その空気を、Riotが明るく切り替える。
『OKAY! じゃあ、カナタの歓迎会として、みんなでゲームしよう!』
「歓迎会って、まだ顔合わせ中だろ」
『ゲームしながら話せばいいじゃないか!』
『Riotさんらしいですね』
しずくが笑う。
『いいんじゃない? せっかくだし、軽く遊んでみようよ』
レイも賛成した。
『私は賛成。チームの雰囲気も分かるしね』
ユラも続く。
「……まあ、全員の予定が大丈夫なら」
クロがそう言うと、シオンが短く答えた。
『大丈夫』
「じゃあ、軽く何かやるか」
『やった!』
しずくが嬉しそうに声を上げた。
『クロさんとゲームするの、久しぶりです!』
「この前もやっただろ」
『それはそうですけど!』
「……まあ、いいか」
クロはゲームを起動した。
八人で遊べる、軽めのパーティーゲーム。
勝ち負けよりも、操作に慣れながら話すのにちょうどいい。
「じゃあ、部屋作るから。みんな入って」
『了解!』
『はーい』
『入ったよ』
『READY!』
ゲームが始まると、通話はさらに賑やかになった。
「え、待って。これどうするの?」
カナタが戸惑った声を出す。
「右のボタン」
「右ってどっち?」
「画面の右」
「分かってるよ! そうじゃなくて!」
『カナタさん、かわいい……』
しずくが思わず呟いた。
「聞こえてるよ!?」
『す、すみません!』
「いいけど……!」
その隙に、カナタのキャラクターがステージから落ちた。
「えっ、うそ!?」
「何やってんだよ」
「クロが教えてくれないから!」
「教えただろ!」
『あはははは!』
ユキが大笑いする。
『久しぶりに見る光景だなあ』
「何が?」
『クロくんが誰かにゲームを教えてるところ』
「いや、普通に教えるだろ」
『でも、カナタさん相手だとちょっと遠慮がないね』
『昔からこんな感じだったんだろうな』
レイが楽しそうに言う。
カナタは少しだけ不満そうな声を出した。
「……クロ、あとで覚えててね」
「何を?」
「絶対に勝つから」
「今の操作で?」
「今は練習中なの!」
『ふふっ』
ユラが静かに笑った。
『いいですね、こういうの』
『だね。なんか、初めて集まった感じがしない』
レイも同意した。
その言葉に、クロは少しだけ頷いた。
確かに、思っていたよりも自然だった。
所属も、活動歴も、知名度も違う。
それでも、ゲームを始めれば、ただの仲間だ。
カナタも、最初こそ緊張していたものの、今はすっかりいつもの調子に戻っていた。
「ちょっと! また落ちたんだけど!」
「だから、ジャンプのタイミングが遅いんだって」
「分かってるよ!」
「分かってないから落ちてるんだろ」
「クロぉ!」
『あはははは!』
しずくが笑い、Riotが英語で何かを叫び、ユキがそれを聞いてさらに笑う。
シオンは相変わらず静かだったが、時折的確な一言を挟んでいた。
朝霧レイと透乃ユラも、自然に会話に加わっている。
そして、カナタが三度目に落下したとき。
「……もう!」
彼女は少しだけ拗ねた声を出した。
「私、クロと同じチームで本当に大丈夫かな!?」
クロは即答した。、
「大丈夫だろ。ゲームによっては普通に強いんだから」
「……え?」
カナタが一瞬、黙った。
「……今、褒めた?」
「事実を言っただけ」
「……えへへ」
急に機嫌がよくなる。
『あ、分かりやすい』
ユキが呟いた。
『カナタさん、クロに褒められると嬉しいんだね』
「ち、違うよ! 普通に嬉しいだけ!」
『それを分かりやすいって言うんだよ』
「もう! ユキさんまで!」
笑い声が広がった。
クロは苦笑しながら、次のゲームを選択する。
その横で、真琴が飲み物を置いていった。
「楽しそうですね、伊織」
「……まあ、思ったよりは」
「カナタさんも、ずいぶん楽しそうです」
「昔からあんな感じだよ」
「そうですか」
真琴は通話画面をちらりと見て、微笑んだ。
「いい顔をしていますね」
クロは返事をしなかった。
ただ、画面の向こうでは、カナタがまた大きな声を上げていた。
「クロ! 今度こそ勝つからね!」
「はいはい」
「本当だから!」
「分かったって」
「……絶対だよ!」
その声は、昔と何も変わっていなかった。
引退したVTuberと、今も活動を続けるVTuber。
再び同じチームに集まった八人。
大会まで、あと少し。
SPECIAL TEAMの初顔合わせは、予定していた時間を大幅に超えて、夜遅くまで続いた。
そして最後まで、カナタはクロに勝てなかった。
「……次は絶対勝つ」
「はいはい」
「本当だから!」
『次の練習も楽しみだね』
ユキの声に、全員が笑った。
SPECIAL TEAMは、少しずつ一つのチームになり始めていた。
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