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Vtuberになったのに裏方をしてます  作者: 東海林


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77話

「……これ、俺のチャンネルでやる必要ある?」


配信開始まで、あと十五分。

自宅の配信部屋で、クロはモニターに表示された配信画面を眺めながら呟いた。

画面には、今日の配信タイトルが表示されている。


【重大発表】Re:Burst VS LIVENTO GAME FESTIVAL SPECIAL TEAMメンバー発表!


「ありますよ。伊織のチャンネルで発表することは、もう関係各所と調整済みです」


ソファに座ってノートパソコンを操作している真琴が、落ち着いた声で答えた。


「いや、そうじゃなくて。俺のチャンネルで発表したら、俺が主催みたいにならない?」


「実際、今回のSPECIAL TEAMは伊織が中心になってメンバーを集めたので、間違いではないと思います」


「俺、ただ声かけただけなんだけど」


「その声かけができる人が、ほかにいなかったんでしょうね」


「……そういう言い方をされると、何も言えないな」


クロは椅子の背もたれに体を預けた。


今回の大型イベントRe:Burst VS LIVENTO

Re:BurstとLIVENTOが対決するだけでなく、そこに第三勢力としてSPECIAL TEAMが加わることになった。


最大八人のチーム編成。

クロはLIVENTO所属でありながら、ほかの事務所や個人勢との付き合いも長い。その関係から、第三勢力のメンバー集めを任されるような形になったのだ。


もっとも、本人はここまで大事になるとは思っていなかった。


「メンバー発表って、普通は運営がやるもんじゃないの?」


「運営公式からも告知は出ます。今回は、伊織のチャンネルで本人たちを紹介する形式にしただけです」


「なるほどね」


「それと、今日は八人全員に参加していただく予定です」


「……全員?」


「はい」


「カナタも?」


「もちろんです。本人から了承をいただいていますから」


クロは一瞬、配信画面から視線を外した。


「……そっか」


「何か気になりますか?」


「いや。あいつ、こういうの久しぶりだから」


「大丈夫ですよ。伊織が隣にいるんでしょう?」


「まあ、そうだけど」


「なら、問題ないと思います」


真琴はそう言って、準備を再開した。

クロはマイクの位置を調整する。


「……じゃあ、始めるか」


配信開始ボタンを押した。

画面が切り替わり、クロの配信が始まる。


『きちゃ!』

『重大発表って何?』

『例のゲームフェス?』

『SPECIAL TEAMのやつか!』

『クロがチーム作るって聞いたんだが』

『告知配信珍しいな』

『本人が主催なの?』


配信開始直後から、コメント欄は勢いよく流れ始めた。

クロはいつも通りの声で挨拶する。


「どうも、クロです。今日は告知配信ということで、よろしくお願いします」


『珍しく時間通り』

『それだけで驚くな』

『クロが告知配信するの、なんか新鮮』

「いや、普段から配信してるだろ。告知配信が珍しいだけで」

『そういうことにしておこう』


「何だよ」


軽くコメントを拾いながら、クロは本題に入った。


「えー、すでに知っている人もいると思うんですが、今回はRe:Burst VS LIVENTO というイベントに参加します」


『うおおおお』

『来た!』

『Re:BurstとLIVENTOの対決!』

『クロはどっち側なんだ問題』


「その辺はもう発表されてますね。俺はSPECIAL TEAMという、第三勢力のチームで参加します」


『第三勢力きた』

『結局どんなメンバーなんだ』

『八人いるんだよな?』


「そう。今日はその八人を発表していきます」


クロは画面を切り替えた。

黒を基調とした背景に、SPECIAL TEAMのロゴが表示される。

その下に、八つのシルエットが並んでいた。


『おお、ちゃんと作ってる』

『デザインかっこいいな』

『八人目だけ隠れてる?』

「まずは、もう参加を公表しているメンバーから紹介します」


一つ目のシルエットが光る。


「一人目、俺。クロです」


『知ってる』

『本人』

『ここで自己紹介するの草』


「一応、形式だからな」


二つ目のシルエットが光った。


「二人目、個人勢の雨音しずくさん」


画面に、しずくの名前と紹介映像が表示される。


『しずくちゃん!』

『クロとしずくは前の大会でも組んでたよね』

『仲良しコンビ』

『今回も一緒か!』


「しずくさんは前の大会でも一緒に参加していて、今回も声をかけたらすぐに了承してくれました」


『即答だったのか』

『しずくちゃんらしい』


「本人からもコメントを預かってます」


画面に、しずくのメッセージが表示された。


『クロさんに誘っていただけて嬉しいです! 皆さんと一緒に頑張ります!』


『かわいい』

『丁寧なしずくちゃん』

『クロさん呼びなのいい』


「ということで、よろしくお願いします」


三人目。


「三人目は、StellaLive所属、朝霧レイさん」


『レイさん!?』

『歌の人じゃん!』

『大会にも出るんだ』

『クロと昔から知り合いなんだっけ』


「レイとは昔の大会で知り合って、それからの付き合いですね。今回の話をしたら、すぐに参加するって言ってくれました」


『顔が広いなあ』

『クロの交友関係、どうなってんの』

『さらっと大手の人が出てくる』


四人目。

「四人目、NebulaLink所属、透乃ユラさん」


『ユラさん!』

『深夜雑談の人だ』

『クロと雰囲気似てるって言われてる二人』

「ユラさんとは配信の時間帯が近いこともあって、リスナーさん同士でも名前が出ることがあるみたいですね」

『たしかに深夜帯でよく見る』

『二人のコラボ、静かそう』

『作業用に良さそう』


「実際、静かだと思う」


『本人公認で草』


「五人目は、冬月ユキさん。元企業勢で、現在は個人勢として活動しています」


『ユキさんまでいるのか』

『トーク強者だ』

『メンバーのバランスいいな』


「ユキさんはゲームだけじゃなくて、話すのも上手いので。チームの配信でもいろいろ助けてもらえると思ってます」


『クロが助けてもらう前提で草』


「俺だって人に頼ることくらいあるだろ」


『あるんだ』

『初めて知った』


「おい」


六人目。


「六人目は、海外個人勢のRiot」


画面に英語表記の名前が出る。


『Riot!?』

『海外勢のあのRiot?』

『国際大会で強かった人だよな』

『海外リスナーも来そう』


「海外の大会で知り合って、その後も何度かゲームをしています。今回の話をしたら、スケジュールを確認して参加できるということで、来てもらうことになりました」


『世界大会みたいな顔ぶれになってきた』

『言語大丈夫なのか?』


「ゲーム中はだいたい何とかなります」


『雑』

『クロの英語、信用できるようなできないような』


「失礼だな。普通に話せるわ」


七人目。

クロは一度、コメント欄を確認してから口を開いた。


「七人目は……シオン」


画面に表示されたのは、名前だけだった。

紹介映像も、所属も、詳しいプロフィールもない。


『……え?』

『シオン?』

『あのシオン?』

『待って、伝説の個人勢?』

『登録者80万くらいいる人!?』

『顔出しも年齢も不明の?』


コメント欄の流れが、一気に速くなる。

シオンは、長年活動を続けている個人勢VTuberだ。

その実力と独特な活動スタイルから、界隈では伝説的な存在として知られている。


しかし、表に出ることは少なく、他のVTuberと大規模な企画に参加することもほとんどない。


「シオンとは昔からの知り合いで、今回声をかけたら参加してくれることになりました」


『昔からの知り合い!?』

『クロの昔っていつだよ』

『この人、交友関係が謎すぎる』

『シオンが大会に出るの何年ぶり?』

『これだけで見る価値ある』


「まあ、詳しい話は本人が話したい範囲でということで。よろしくお願いします」


クロは深く掘り下げず、次の画面に進んだ。

そして、最後のシルエットだけが残る。


「……で、最後の一人なんですが」


『来た』

『八人目!』

『誰だよ!』

『ここが本命だろ』


クロは少しだけ間を置いた。


「今回、俺から直接声をかけました。昔から一緒にゲームをしていた友人です」


『友人枠?』

『個人勢かな』

『誰だろう』


「ただ、今はVTuberとして活動していません」


コメント欄が一瞬、止まったように見えた。


「引退しています」


『……え?』

『引退?』

『元VTuberってこと?』

『誰だ?』


「今回の大会に限って、参加してもらえることになりました」


クロが名前を表示する。

久遠カナタ

画面の中央に、その名前が大きく映し出された。

数秒後。


『…………は?』

『久遠カナタ????』

『えっ』

『待って待って待って』

『引退したよね!?』

『あのカナタ!?』

『本当に!?』

『活動終了してから何年経ったと思ってるんだ!』

『クロ、お前何した!?』


コメント欄が爆発した。

久遠カナタ。

かつて個人勢として活動し、ゲームの腕前と可愛らしい声、そして時折見せる容赦のない言動で人気を集めたVTuber。


引退時の登録者数は約六十五万人。

引退配信では、今後VTuberとして活動する予定はないと明言していた。

それ以来、配信活動は一切行っていない。

そのカナタが、突然、大型イベントの参加メンバーとして発表されたのだ。


『マジで本人?』

『名前が同じだけじゃなくて?』

『公式の発表だから本人だろ……』

『え、復帰するの?』


「復帰ではないです」


クロはコメントを見ながら答えた。


「本人にも確認してますが、今回限りの参加です。VTuber活動を再開するわけではありません」


『今回限り!?』

『余計に意味わからん』

『何で出てくれることになったんだ』

『クロが呼んだって言ったぞ』


「そうですね。俺から連絡しました」


『どうやって!?』


「普通に連絡先を知ってたので」


『そういうことじゃない』

『説明が雑すぎるw』


「いや、本当にそれだけなんだけど……」


クロは困ったように頭をかいた。


「昔から一緒にゲームをしてたんで。久しぶりに一緒にやりたいなと思って、今回誘いました」


『泣いた』

『理由がシンプルすぎる』

『昔のゲーム仲間が引退して、今度の大会だけ復帰するの熱すぎるだろ』

『クロが誘ったから出てくれるのか……』

『二人の関係性、気になる』

『昔のコラボ見返してくる』


「まあ、そんな大げさな話でもないんだけどね」


『いや大げさだよ』

『界隈揺れてます』

『トレンド入りそう』


「本人も、久しぶりに大勢の前でゲームをすることになるので、緊張はしてると思います。だから、変にプレッシャーをかけずに見てもらえたら嬉しいです」


その言葉に、コメント欄の雰囲気が少し変わった。


『了解』

『カナタのペースで参加してほしい』

『今回だけでも見られるの嬉しい』

『クロがいるなら大丈夫そう』

『無理せず楽しんでほしいね』


「ありがとうございます」


クロは一度頷き、八人全員の名前を並べた一覧画面を表示した。


「ということで、こちらがSPECIAL TEAMのメンバーです」


画面には八人の名前が並ぶ。

クロ

雨音しずく

朝霧レイ

透乃ユラ

冬月ユキ

Riot

シオン

久遠カナタ


『改めて見るとすごいメンバーだな』

『所属がバラバラすぎる』

『大手、個人勢、海外勢、引退勢』

『引退勢ってなんだよw』

『最後の一人のインパクトが強すぎる』

『クロの人脈、どうなってるんだ』


「俺も、こんなにいろんなところから集まるとは思ってなかったです」


『お前が集めたんだろw』


「いや、声をかけたら来てくれただけだから」

『それがすごいんだよ』


クロは苦笑した。


「大会は三日間で、いろいろなゲームをやる予定です。タイトルによって出るメンバーも変わるので、全員が全競技に出るわけではありません」


『カナタは何に出るんだろう』

『FPS見たい』

『シオンも気になる』

『しずくちゃんとカナタの絡みも見たい』


「その辺は、各タイトルの出場メンバーが決まったら改めて告知します。チーム全員で練習する配信も、できればやりたいですね」


『カナタの声がまた聞ける?』


「それは本人と相談します。無理に配信へ出てもらうつもりはないので」


『配慮助かる』

『大会だけ参加でも十分嬉しい』

『クロがちゃんと考えてくれてるの伝わる』


「まあ、せっかく一緒に出るんだから、楽しくやれたらいいなと思ってます」


クロは最後にもう一度、八人の名前を見た。

自分の名前の隣に、久遠カナタの名前がある。

それを見て、少しだけ不思議な気分になった。

かつては、二人で大会に出るのが当たり前だった。


しかし、カナタが引退してからは、その機会もなくなった。

それが今、こうして再び同じチームに名前が並んでいる。


「……まあ、頑張ります」


『急に締めたw』

『もっと語れ』

『カナタとの昔話してくれ』

『大会楽しみすぎる』


「昔話は、そのうち機会があれば。今日はメンバー発表ということで、以上です」


配信はそのまま雑談に移り、しばらくして終了した。

配信を切ると、クロは椅子の背もたれに体を預けた。


「……終わった」


「お疲れさまでした、伊織」


真琴がノートパソコンを閉じる。


「反応、すごかったですね」


「カナタのところで一気に流れが変わったな」


「それはそうでしょう。引退した方が、突然大型イベントに参加するんですから」


「本人、驚かれるの嫌じゃないかな」


「事前に説明して了承を得ていますし、活動復帰ではないこともきちんと伝えました。問題ないと思いますよ」


「ならいいけど」


クロのスマートフォンが震えた。

画面には、カナタからのメッセージが表示されていた。


『配信見てたよ! すごいことになってるね!?』


続けて、もう一通。


『私、こんなに騒がれると思ってなかったんだけど!?』


クロは返信する。


『俺もそう思う』


すぐに既読がついた。


『クロのせいだよ!』


『誘ったのは俺だけど、騒いでるのはリスナーだろ』


『そうだけど!』


『大会、よろしくな』


少し間が空いてから、返事が来た。


『うん。よろしくね、クロ』


『久しぶりに一緒に勝とうね』

クロは画面を見つめ、少しだけ笑った。


「……さて」


椅子から立ち上がる。


「練習するか」


「カナタさんとですか?」


「いや、チーム全体の予定を確認してから。まずは各ゲームの確認だな」


「そうですね。日程の調整は私も手伝います」

「助かる」


クロはパソコンを開き直した。

引退した友人との再会は、まだ始まったばかりだ。

そして、SPECIAL TEAMの本当の戦いも、これからだった。

もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。

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