64話
翌日。
クロのスマホに、一本の連絡が入った。
透乃ユラ
『大会、参加します』
「……ありがとうございます」
『こちらこそ』
それだけ非常に簡潔だった。
クロもそれ以上は聞かなかった。
すると、数秒後。
『あと』
「はい」
『昨日の件なんですけど』
「?」
『第三勢力って、今何人ですか?』
「俺、しずく、朝霧さんです」
『三人』
「はい」
『じゃあ、私が入って四人ですね』
「そうなります」
『分かりました』
「……」
『……』
沈黙。
しかし、二人とも特に気にしていない。
そのまま通話が終わる。
「……」
クロはスマホを置いた。
すると。
「伊織」
「はい」
隣で仕事をしていた真琴が口を開く。
「今の会話、必要なことしか喋ってませんでしたね」
「そうですね」
「二人とも静かすぎません?」
「普通ですよ」
「普通ではないと思います」
真琴が笑う。
「でもユラさん、伊織と相性良さそうですね」
「そうですか?」
「はい」
そしてその日の夜。
大会用の顔合わせが行われることになった。
参加者はクロ、雨音しずく、朝霧レイ、透乃ユラ。
まだゲームも正式決定していない。
ただ、チームとして一度話しておこうというだけだった。
『こんばんはー!』
最初に入ってきたのはレイ。
『クロ、聞こえてる?』
「聞こえてます」
『しずくちゃんは?』
『います!』
しずくが元気よく返事をする。
『こんばんは! 朝霧さん、よろしくお願いします!』
『こちらこそ!』
そして。
『……こんばんは』
ユラ。
「こんばんは」
『クロさんもこんばんは』
「こんばんは」
『……』
「……」
沈黙。
『……』
「……」
しずくが少し困ったように口を開いた。
『あの』
「はい?」
『二人とも……』
沈黙。
『会話終わってます?』
「?」
『え?』
ユラも少し不思議そう。
『普通に話してますよ』
『今のどこが!?』
しずくが驚く。
レイが笑った。
『あはは!』
『確かに二人とも静かだね』
「そうですか?」
『そうだよ』
クロは首を傾げる。
ユラも。
『私は普通だと思いますけど』
『そこがすごいんですよ!』
しずくが叫ぶ。
「まあ」
クロが話を戻す。
「大会の話をしましょう」
『そうですね』
ユラがすぐに反応する。
『ゲームは何になるんでしょう』
「まだ未定です」
『チーム戦なら、役割分担が必要ですね』
『確かに』
レイも真面目になる。
『クロは何が得意?』
「ゲームによります」
『ですよね』
『しずくちゃんは?』
『私は……』
少し考える。
『頑張ります!』
「役割じゃないですね」
『えっ』
全員が笑う。
『じゃあ、私も頑張ります!』
レイまで乗っかる。
「このチーム大丈夫ですか?」
『クロが何とかして』
「なんでですか」
『リーダーでしょ?』
「決まってません」
『でもクロが集めたんだから』
レイの言葉。
ユラも。
『そうですね』
「……」
しずくも。
『クロさんがいいと思います!』
「勝手に決めないでください」
しかし誰も異論を唱えなかった。
しばらく大会の話をした後。
ゲームの話が一段落する。
また沈黙。
『……』
「……」
『……』
しずくが黙っている。
レイも黙っている。
そしてユラとクロ。
何も喋らない。
数秒、十秒、二十秒。
それでも誰も通話を抜けない。
しずくが小声で。
『……これ』
『はい?』
『二人とも、これでいいんですか?』
「はい」
『はい』
二人同時。
『ほらぁ!』
しずくが笑い出す。
レイも大笑い。
『面白すぎるでしょ!』
『何がですか?』
ユラは本気で分かっていない。
「普通ですよ」
『普通じゃない!』
しずくの声が響く。
こうして第三勢力の初顔合わせは、特に何かが決まったわけでもなく。
大騒ぎするわけでもなく。
ただ妙に静かな時間としずくのツッコミだけが続いた。
それでも四人の間には、不思議と居心地の悪さはなかった。
むしろこれから始まる大会が、少しだけ楽しみになっていた。
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