63話
LIVENTO本社。
編集室。
久瀬伊織――クロは、ノートPCの画面を見ながら小さく息を吐いた。
「……本当にやるんですか」
「何をです?」
隣でコーヒーを飲んでいた七瀬真琴が、何でもないように返す。
「第三勢力」
「運営がかなり乗り気なので」
「元は真琴さんが言い出したんですよね」
「そうでしたね」
まったく反省していない。
数日前。
Re:BurstとLIVENTOによる大型ゲーム大会が、両事務所の公式アカウントから発表された。
しかしLIVENTO所属でありながら、Re:Burstにも友人が多いクロは、どちら側に参加するのか分からない。
そこで真琴が言った。
『第三勢力を作ればいいのでは?』
最初は冗談だった。
少なくともクロはそう思っていた。
だが運営は思った以上に真剣だった。
そして現在。
大会の企画書には本当にSPECIAL TEAMという枠が作られている。
「でも」
真琴がクロの画面を覗き込む。
「メンバーは必要ですよね」
「そうですね」
「誰を誘います?」
「……」
クロはスマホを開いた。
連絡先、そこには、LIVENTO以外のVtuberも何人か入っている。
ただし今回の大会では、LIVENTOとRe:Burstが対戦する。
当然LIVENTO所属のVtuberは誘えない。
そしてRe:Burst側も同じ。
クロと仲が良くても大会では敵になる。
「ガク達は誘わないんですか?」
「対戦相手でしょう」
「ですよね」
「むしろ誘ったら意味分からないですよ」
真琴が少し笑う。
「伊織ならやりそうだと思いました」
「しません」
今回の第三勢力はRe:BurstでもLIVENTOでもない。
別の事務所や個人勢から集める。
「……まず」
クロは一人の名前を見た。
雨音しずく
「しずくですか」
「多分、誘ったら来ます」
「かなり高確率で」
通話をかける。
数秒。
『はいっ!』
元気な声。
「しずく」
『クロさん! どうしました!?』
「今大丈夫ですか?」
『大丈夫ですよ!』
後ろからゲームの音。
何か遊んでいたらしい。
「大会の話なんですけど」
『あっ』
声が少し明るくなる。
『Re:BurstとLIVENTOのやつですか?』
「そうです」
『クロさん出るんですか!?』
「多分」
『おお……!』
「それで」
一瞬、間を置く。
「第三勢力として出ることになりそうなんですけど」
『第三勢力?』
「LIVENTOでもRe:Burstでもないチームです」
『へぇ……』
しずくが少し考える。
そして。
『クロさんと同じチームですか?』
「まあ」
『出ます!!』
「早」
『絶対出ます!』
「まだゲームも決まってませんよ」
『大丈夫です!』
「何が」
『クロさんと同じチームなら大丈夫です!』
かなり勢いがある。
真琴が横で笑っていた。
「ほら」
「予想通りですね」
『真琴さんも居るんですか?』
「居ますよ」
『こんばんは!』
「こんばんは」
そのまましずくの参加は決まった。
「一人目」
真琴がメモへ書く。
《雨音しずく/個人勢》
「あと二人くらいですかね」
「人数はまだ運営と調整中ですけど」
クロは次の連絡先を見る。
《朝霧レイ》
StellaLive。
以前、休日にしずくと真琴と遊んだ帰り。
偶然会った。
昔の大会からの知り合い。
クロが今より尖っていた頃から知っている数少ない人物でもある。
『もしもし?』
「レイさん」
『珍しいね。クロから電話』
「今大丈夫です?」
『ちょうど収録終わったところ』
「大会の話なんですけど」
『あー』
少し笑う声。
『第三勢力の噂?』
「もう広がってるんですか」
『SNSで見た』
「まだ正式発表してないんですけど」
『クロが第三勢力作るって話、もう結構盛り上がってるよ』
早い。
「それで」
『うん』
「もし本当にやるなら、参加しませんか?」
数秒。
『出る』
「早」
『だって面白そうじゃん』
「ゲームも決まってませんよ」
『クロとしずくちゃんがいるんでしょ?』
「しずくは今決まりました」
『じゃあ出る』
かなり軽い。
『それに』
レイが少し笑う。
『LIVENTOとRe:Burstの両方を相手にできるんでしょ?』
「そうなりますね」
『いいね』
声が楽しそうだった。
『久しぶりに大会出たくなった』
「じゃあ、参加で」
『よろしくー』
通話終了。
真琴がメモへ追加する。
《朝霧レイ/StellaLive》
「かなり早かったですね」
「大会好きですから」
「伊織の知り合い、軽い人多くないですか?」
「そうです?」
「そうです」
否定はしなかった。
次、クロは連絡先を少し下へ動かす。
《透乃ユラ》
NebulaLink所属。
深夜雑談系。
クロと配信の空気感が近い。
リスナー層も少し被っていて。
SNSでは。
《クロと透乃ユラ、配信時間被ると寝る前に困る》
などと言われることもある。
「ユラさんですか」
「大会はどうなんでしょう」
「聞いてみます」
『……もしもし』
落ち着いた声。
「こんばんは」
『クロさんから電話、珍しいですね』
「そうですか?」
『配信の相談以外では、あまりないので』
「確かに」
少し沈黙。
でも気まずくはない。
『大会ですか?』
「なんで分かるんです?」
『今、業界で一番話題なので』
それもそうだった。
「第三勢力を作ることになりそうで」
『聞きました』
「早いですね」
『業界狭いので』
少しだけ笑う声。
「それで、参加しませんか?」
数秒、沈黙。
『……ゲーム次第です』
「ですよね」
『でも』
少し間。
『クロさんが出るなら、前向きに考えます』
「ありがとうございます」
『まだ参加決定ではないですよ』
「分かってます」
『運営と相談してから返事します』
「お願いします」
通話終了。
真琴がメモへ書く。
《透乃ユラ/NebulaLink/保留》
「落ち着いてますね」
「ユラさんですから」
「クロと話すと、二人とも静かすぎます」
「普通ですよ」
「普通じゃないです」
真琴が笑った。
「あと」
クロはスマホを見ながら言う。
「冬月さんにも聞きます」
《冬月ユキ》
元企業勢。
現在は個人勢。
雑談が強く。
業界事情にも詳しい。
クロが個人勢だった頃から、何度か相談に乗ってもらったこともある。
『はいはい』
すぐ繋がった。
「冬月さん」
『クロから電話?』
「今大丈夫ですか?」
『配信終わったばっかりだから平気』
「大会の件です」
『あー』
すぐ理解した。
『第三勢力のメンバー集め?』
「なんでみんな知ってるんです?」
『運営側の知り合いから聞いた』
「早すぎません?」
『業界なんてそんなもん』
少し笑う。
『で、私を誘う理由は?』
「大会経験ありますし」
『他は?』
「……業界に詳しいので」
『なるほど』
少しだけ考える。
『ゲームは何?』
「まだ決まってません」
『ルールは?』
「調整中です」
『メンバーは?』
「俺としずくと朝霧さん」
『結構面白い組み合わせね』
「どうです?」
『保留』
「ですよね」
『でも悪くない』
冬月の声が少し楽しそうになる。
『詳細出たら連絡して』
「分かりました」
『あと』
「?」
『クロが自分から人集めしてるの、珍しすぎるから』
「よく言われます」
『昔のお前なら絶対やらなかった』
「……そうですね」
少しだけ昔を知っている人の言葉だった。
通話終了。
《第三勢力候補》
* クロ/LIVENTO
* 雨音しずく/個人勢【参加】
* 朝霧レイ/StellaLive【参加】
* 透乃ユラ/NebulaLink【保留】
* 冬月ユキ/個人勢【保留】
「……」
クロは画面を見る。
「なんか」
「はい」
「思ったより大きくなりそうですね」
「伊織が声を掛けてますから」
「ただ誘ってるだけです」
「それが珍しいんです」
真琴は少し笑った。
「でも」
「?」
「良いチームになりそうですね」
クロは返事をしなかった。
ただスマホの画面を見る。
まだ連絡していない相手がいる。
《Riot》
海外個人勢。
クリップ文化で伸びたV。
時差、言語、大会の形式。
色々確認する必要がある。
「海外勢も誘うんですか?」
「一応聞くだけです」
「本当に第三勢力ですね」
「そうですね」
LIVENTO。
Re:Burst。
そしてどちらにも属さない第三のチーム。
大会の詳細はまだ発表されていない。
ゲームも人数もルールも、何も決まっていない。
それでも少しずつメンバーだけが集まり始めていた。
その時スマホが震える。
《星宮アリス》
『クロ!!』
『第三勢力のメンバー集めてるって本当!?』
「……」
クロは画面を見た。
「なんで知ってるんです?」
すぐに返信が来る。
『ルナから聞いた!』
『私も入れて!!』
「対戦相手でしょうが」
『えー!?』
編集室。
真琴が声を出して笑った。
クロは小さく息を吐く。
第三勢力。
まだ始まったばかりなのにもうかなり騒がしかった。
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