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Vtuberになったのに裏方をしてます  作者: 東海林


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63/84

63話

LIVENTO本社。

編集室。


久瀬伊織――クロは、ノートPCの画面を見ながら小さく息を吐いた。


「……本当にやるんですか」


「何をです?」


隣でコーヒーを飲んでいた七瀬真琴が、何でもないように返す。


「第三勢力」


「運営がかなり乗り気なので」


「元は真琴さんが言い出したんですよね」


「そうでしたね」


まったく反省していない。


数日前。

Re:BurstとLIVENTOによる大型ゲーム大会が、両事務所の公式アカウントから発表された。


しかしLIVENTO所属でありながら、Re:Burstにも友人が多いクロは、どちら側に参加するのか分からない。


そこで真琴が言った。


『第三勢力を作ればいいのでは?』


最初は冗談だった。

少なくともクロはそう思っていた。

だが運営は思った以上に真剣だった。


そして現在。

大会の企画書には本当にSPECIAL TEAMという枠が作られている。


「でも」


真琴がクロの画面を覗き込む。


「メンバーは必要ですよね」


「そうですね」


「誰を誘います?」


「……」


クロはスマホを開いた。

連絡先、そこには、LIVENTO以外のVtuberも何人か入っている。


ただし今回の大会では、LIVENTOとRe:Burstが対戦する。


当然LIVENTO所属のVtuberは誘えない。

そしてRe:Burst側も同じ。

クロと仲が良くても大会では敵になる。


「ガク達は誘わないんですか?」


「対戦相手でしょう」


「ですよね」


「むしろ誘ったら意味分からないですよ」


真琴が少し笑う。


「伊織ならやりそうだと思いました」


「しません」


今回の第三勢力はRe:BurstでもLIVENTOでもない。


別の事務所や個人勢から集める。


「……まず」


クロは一人の名前を見た。


雨音しずく


「しずくですか」


「多分、誘ったら来ます」


「かなり高確率で」


通話をかける。

数秒。


『はいっ!』


元気な声。


「しずく」


『クロさん! どうしました!?』


「今大丈夫ですか?」


『大丈夫ですよ!』


後ろからゲームの音。

何か遊んでいたらしい。


「大会の話なんですけど」


『あっ』


声が少し明るくなる。


『Re:BurstとLIVENTOのやつですか?』


「そうです」


『クロさん出るんですか!?』


「多分」


『おお……!』


「それで」


一瞬、間を置く。


「第三勢力として出ることになりそうなんですけど」


『第三勢力?』


「LIVENTOでもRe:Burstでもないチームです」


『へぇ……』


しずくが少し考える。

そして。


『クロさんと同じチームですか?』


「まあ」


『出ます!!』


「早」


『絶対出ます!』


「まだゲームも決まってませんよ」


『大丈夫です!』


「何が」


『クロさんと同じチームなら大丈夫です!』


かなり勢いがある。

真琴が横で笑っていた。


「ほら」


「予想通りですね」


『真琴さんも居るんですか?』


「居ますよ」


『こんばんは!』


「こんばんは」


そのまましずくの参加は決まった。


「一人目」


真琴がメモへ書く。


《雨音しずく/個人勢》


「あと二人くらいですかね」


「人数はまだ運営と調整中ですけど」


クロは次の連絡先を見る。


《朝霧レイ》


StellaLive。

以前、休日にしずくと真琴と遊んだ帰り。

偶然会った。


昔の大会からの知り合い。

クロが今より尖っていた頃から知っている数少ない人物でもある。



『もしもし?』


「レイさん」


『珍しいね。クロから電話』


「今大丈夫です?」


『ちょうど収録終わったところ』


「大会の話なんですけど」


『あー』


少し笑う声。


『第三勢力の噂?』


「もう広がってるんですか」


『SNSで見た』


「まだ正式発表してないんですけど」


『クロが第三勢力作るって話、もう結構盛り上がってるよ』


早い。


「それで」


『うん』


「もし本当にやるなら、参加しませんか?」


数秒。


『出る』


「早」


『だって面白そうじゃん』


「ゲームも決まってませんよ」


『クロとしずくちゃんがいるんでしょ?』


「しずくは今決まりました」


『じゃあ出る』


かなり軽い。


『それに』


レイが少し笑う。


『LIVENTOとRe:Burstの両方を相手にできるんでしょ?』


「そうなりますね」


『いいね』


声が楽しそうだった。


『久しぶりに大会出たくなった』


「じゃあ、参加で」


『よろしくー』


通話終了。

真琴がメモへ追加する。


《朝霧レイ/StellaLive》


「かなり早かったですね」


「大会好きですから」


「伊織の知り合い、軽い人多くないですか?」


「そうです?」


「そうです」


否定はしなかった。

次、クロは連絡先を少し下へ動かす。


《透乃ユラ》


NebulaLink所属。

深夜雑談系。

クロと配信の空気感が近い。


リスナー層も少し被っていて。


SNSでは。


《クロと透乃ユラ、配信時間被ると寝る前に困る》


などと言われることもある。


「ユラさんですか」


「大会はどうなんでしょう」


「聞いてみます」


『……もしもし』


落ち着いた声。


「こんばんは」


『クロさんから電話、珍しいですね』


「そうですか?」


『配信の相談以外では、あまりないので』


「確かに」


少し沈黙。

でも気まずくはない。


『大会ですか?』


「なんで分かるんです?」


『今、業界で一番話題なので』


それもそうだった。


「第三勢力を作ることになりそうで」


『聞きました』


「早いですね」


『業界狭いので』


少しだけ笑う声。


「それで、参加しませんか?」


数秒、沈黙。


『……ゲーム次第です』


「ですよね」


『でも』


少し間。


『クロさんが出るなら、前向きに考えます』


「ありがとうございます」


『まだ参加決定ではないですよ』


「分かってます」


『運営と相談してから返事します』


「お願いします」


通話終了。

真琴がメモへ書く。


《透乃ユラ/NebulaLink/保留》


「落ち着いてますね」


「ユラさんですから」


「クロと話すと、二人とも静かすぎます」


「普通ですよ」


「普通じゃないです」


真琴が笑った。


「あと」


クロはスマホを見ながら言う。


「冬月さんにも聞きます」


《冬月ユキ》


元企業勢。

現在は個人勢。

雑談が強く。


業界事情にも詳しい。

クロが個人勢だった頃から、何度か相談に乗ってもらったこともある。


『はいはい』


すぐ繋がった。


「冬月さん」


『クロから電話?』


「今大丈夫ですか?」


『配信終わったばっかりだから平気』


「大会の件です」


『あー』


すぐ理解した。


『第三勢力のメンバー集め?』


「なんでみんな知ってるんです?」


『運営側の知り合いから聞いた』


「早すぎません?」


『業界なんてそんなもん』


少し笑う。


『で、私を誘う理由は?』


「大会経験ありますし」


『他は?』


「……業界に詳しいので」


『なるほど』


少しだけ考える。


『ゲームは何?』


「まだ決まってません」


『ルールは?』


「調整中です」


『メンバーは?』


「俺としずくと朝霧さん」


『結構面白い組み合わせね』


「どうです?」


『保留』


「ですよね」


『でも悪くない』


冬月の声が少し楽しそうになる。


『詳細出たら連絡して』


「分かりました」


『あと』


「?」


『クロが自分から人集めしてるの、珍しすぎるから』


「よく言われます」


『昔のお前なら絶対やらなかった』


「……そうですね」


少しだけ昔を知っている人の言葉だった。


通話終了。


《第三勢力候補》


* クロ/LIVENTO

* 雨音しずく/個人勢【参加】

* 朝霧レイ/StellaLive【参加】

* 透乃ユラ/NebulaLink【保留】

* 冬月ユキ/個人勢【保留】


「……」


クロは画面を見る。


「なんか」


「はい」


「思ったより大きくなりそうですね」


「伊織が声を掛けてますから」


「ただ誘ってるだけです」


「それが珍しいんです」


真琴は少し笑った。


「でも」


「?」


「良いチームになりそうですね」


クロは返事をしなかった。

ただスマホの画面を見る。

まだ連絡していない相手がいる。


《Riot》


海外個人勢。

クリップ文化で伸びたV。

時差、言語、大会の形式。

色々確認する必要がある。


「海外勢も誘うんですか?」


「一応聞くだけです」


「本当に第三勢力ですね」


「そうですね」


LIVENTO。

Re:Burst。


そしてどちらにも属さない第三のチーム。

大会の詳細はまだ発表されていない。


ゲームも人数もルールも、何も決まっていない。


それでも少しずつメンバーだけが集まり始めていた。


その時スマホが震える。


《星宮アリス》


『クロ!!』


『第三勢力のメンバー集めてるって本当!?』


「……」


クロは画面を見た。


「なんで知ってるんです?」


すぐに返信が来る。


『ルナから聞いた!』


『私も入れて!!』


「対戦相手でしょうが」


『えー!?』


編集室。

真琴が声を出して笑った。

クロは小さく息を吐く。


第三勢力。

まだ始まったばかりなのにもうかなり騒がしかった。

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