6話
『LIVENTO大運動会』が終了したのは、夜十一時過ぎだった。
『お疲れ様でしたー!!』
最後の挨拶。
歓声、コメント欄。
そして配信終了。
同時に、スタジオの空気が一気に変わる。
「はぁぁぁ疲れたぁぁ……」
「足死んだ……」
「3Dってマジ体力使う……」
Vtuber達が次々と床へ崩れていく。
3D配信は普通に重労働だ。
全身動く、走る、騒ぐ。
しかも長時間。
そりゃ疲れる。
その横で。
「ケーブル回収します」
俺は普通に配線を巻いていた。
「いやなんで!?」
即座にツッコミ。
星宮アリスだった。
「クロ配信終わったよね!?」
「終わりましたね」
「なら帰れよ!」
「まだ片付けありますし」
「スタッフじゃん!」
「今日はスタッフです」
「まだ言う!?」
最近この流れ多いな。
床のケーブルをまとめながら、俺は軽く伸びをした。
大型企画後のスタジオ。
かなり好きだ。
配信終わり特有の空気。
達成感、疲労。
少し散らかった現場。
全員で何か作った後の感じ。
嫌いじゃない。
「クロ君」
「はい?」
高槻恒一が機材ケースを持ちながら近付いてくる。
「キャプチャー機材こっち運ぶ」
「了解です」
自然に受け取る。
すると。
「……もう完全にスタッフ側なんだよなぁ」
蓮が呆れた顔をしていた。
「伊織、お前それ給料どうなってんの?」
「普通に会社から貰ってますよ」
「マジで?」
「スタッフ作業分」
一瞬静寂。
「……は?」
ルナが固まる。
「いや待って」
アリスも止まる。
「クロって配信収益以外にも給料あるの!?」
「まあ」
「意味分かんないんだけど!?」
俺もたまにそう思う。
ただ、会社側からすると配信者目線を持った技術人員。
しかも機材理解あり。
編集出来る、配信経験豊富。
コメント文化理解済み。
……まあ便利らしい。
「伊織って、会社に飼われてません?」
真琴が横から言う。
「否定出来ないな……」
スタッフ側から笑いが起きる。
片付けが終わった頃には、日付も変わりかけていた。
Vtuber達はそれぞれ帰宅準備。
スタッフ達も撤収。
「クロー!」
帰り際、アリスが手を振る。
「今度ちゃんと3D出てよ!」
「嫌です」
「頑固!」
「またな伊織」
「お疲れ様です」
蓮達も帰っていく。
静かになったスタジオ。
残ったのは数人のスタッフだけだった。
俺は最後の機材チェックを終えて、軽く息を吐く。
「終わりました?」
後ろから真琴。
「今終わりました」
「お疲れ様です」
「そっちこそ」
真琴も今日はかなり動いていた。
ルナ担当だから、現場での仕事量も多い。
「……飯行きます?」
俺が聞くと、真琴は少し考え。
「行きます」
即決だった。
深夜一時。
駅前のラーメン屋。
この時間でも開いてる数少ない店だ。
「なんか久しぶりですね」
真琴が水を飲みながら言う。
「確かに」
最近は忙しかった。
配信、案件、編集、企画。
なんだかんだ休めていない。
「伊織」
「はい?」
「今日ちょっと楽しそうでした」
「……そう見えました?」
「見えました」
ラーメンが運ばれてくる。
湯気、深夜の匂い。
妙に落ち着く。
「まあ」
箸を割りながら、俺は少し考える。
「嫌いじゃないんですよね、ああいう空気」
「配信ですか?」
「配信もですけど」
スタジオ。
裏側、配信前。
トラブル。
騒がしい現場。
全部含めて。
「この業界そのもの、好きなんだと思います」
真琴が少しだけ目を細めた。
「知ってます」
「バレてました?」
「四年見てますから」
そう言って、真琴は小さく笑った。
その笑い方が妙に柔らかくて。
なんとなく、視線を逸らした。
「……なんですか」
「別に?」
「絶対何か思った顔ですよね」
「気のせいです」
「嘘だ」
そんなやり取りをしながら、深夜のラーメンを食べる。
配信は終わった、企画も終わった。
でもたぶんこういう時間が、一番落ち着いていた。
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