7話
「……で?」
昼休憩。
LIVENTO事務所。
共有スペース。
天音ルナが机に頬杖をつきながら、こちらを見ていた。
「昨日、そのままクロの家泊まったの?」
「泊まりました」
真琴が普通に答える。
「即答なんだ」
「終電無かったので」
「いやまあ分かるけど」
ルナが微妙な顔をした。
俺は隣で缶コーヒーを開ける。
「何か問題あります?」
「いや、問題っていうか……」
ルナが言葉を探す。
その向かいでは、星宮アリスと白雪ミオが完全に聞く体勢に入っていた。
嫌な予感しかしない。
「クロさんの家って……普通に真琴さん入るんですね……」
ミオが小声で言う。
「入りますよ」
「鍵も知ってますし」
「待って」
アリスが止まる。
「鍵知ってんの!?」
「緊急対応用です」
「言い方は仕事っぽいのに距離感おかしい!!」
なんでだ。
別に普通だと思うんだけど、会社近いし配信機材あるし緊急時呼ばれるし。
合理的だろう。
「いやでも」
ルナがこちらを見る。
「普通、担当マネージャーってそこまで演者の家行かないからね?」
「そうなんです?」
「そうだよ」
断言された。
俺と真琴は顔を見合わせる。
「……でも新人時代からですし」
真琴が言う。
「最初、伊織が配信機材壊して呼んだのが始まりでしたよね」
「あー……ありましたね」
懐かしい。
デビュー数ヶ月。
設定ミスで配信が全部落ちた。
その時、真琴が夜中に来たのだ。
そこから何故か普通に家へ来るようになった。
「いや待って」
アリスが頭を抱える。
「それを四年続けてんの!?」
「まあ」
「家族じゃん!」
「違います」
俺と真琴の声が綺麗に重なった。
一瞬静まる空気。
そして。
「うわぁ……」
ルナがなんとも言えない顔をした。
「無自覚だ」
「無自覚ですね……」
ミオまで頷いていた。
なんなんだ一体。
「でもさ」
アリスがニヤニヤし始める。
嫌な顔だ。
「クロの部屋ってどんな感じなの?」
「普通ですよ」
「生活感無いです」
真琴が即答した。
「え」
「最低限しか物無いです」
「うわクロっぽい」
「あと編集しないです」
「……それ言わなくて良くないです?」
「家だと絶対サボるので」
「そこまで把握してるの!?」
アリスのツッコミが止まらない。
いや、まあ実際その通りだから否定出来ない。
「伊織、自宅だとすぐベッド行くんですよ」
「やめてください」
「だから編集全部会社」
「クロってダメ人間寄りなんだ……」
失礼だな。
否定はしにくいけど。
「でも」
ルナが少し笑う。
「真琴居るとちゃんとしてるよね」
「……そうです?」
「配信後ちゃんと飯食うし」
「寝るし」
「働きすぎないし」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。
一人だと色々適当になる。
飯抜く、寝ない、作業し続ける。
配信始める。
終わり。
そこへ真琴が来ると、強制的に生活リズムが戻される。
「伊織、放置すると本当にダメなので」
「否定出来ない……」
真琴が淡々と言う。
周囲がまた微妙な顔になる。
「……なんかさぁ」
ルナが呟く。
「お前ら、付き合ってないの逆に怖いわ」
「違います」
「違いますよ」
また綺麗に被った。
「うわぁ」
「息ぴったり……」
アリス達が引いていた。
納得いかない。
その日の夜。
配信前。
俺は事務所の編集室に居た。
動画確認、サムネ修正、BGM調整。
「……終わらん」
小さく呟く。
すると編集室の扉が開いた。
「伊織」
真琴だった。
「配信準備出来てます?」
「あと少しです」
「晩御飯」
コンビニ袋を置かれる。
「ありがとうございます」
「今日も忘れてましたね?」
「……途中までは覚えてました」
「いつものです」
真琴が隣へ座る。
静かな編集室。
キーボード音だけが響く。
「伊織」
「はい?」
「今日、ルナさん達にかなり言われてましたね」
「あー……」
距離感問題。
正直、未だによく分かっていない。
「そんな変です?」
真琴は少し考え。
「……まあ、普通ではないかもですね」
「真琴さんまで」
「でも楽なので」
「それは分かります」
気を遣わない。
無理しない。
黙ってても平気。
四年一緒に居ると、そういう関係になる。
「……まあ」
真琴が小さく笑った。
「今更変える気も無いですけど」
その言葉に、俺も少しだけ笑った。
たぶんそれで良かった。
もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。




