5話
『現在トップはルナチームー!』
『うるせぇぇぇ!!』
『アリス落ちるなw』
『蓮またズルしてる!』
3Dスタジオは、相変わらず騒がしかった。
《LIVENTO大運動会》
配信開始から既に二時間近い。
それでも勢いは落ちるどころか増していた。
コメント欄も爆速、同接二十五万超え。
大型企画としては大成功と言っていい。
「平和ですねぇ……」
俺は監視室でモニターを見ながら呟いた。
隣で真琴が資料を確認している。
「今のところは」
「その言い方やめてください不安になる」
3D企画は油断するとすぐ事故る。
だからこういう時ほど怖い。
今もモニターには、キャプチャー情報や音声波形が並んでいた。
その時。
『次の競技準備入りまーす!』
配信側で声が響く。
転換時間、Vtuber達が一旦ステージ裏へ移動する。
俺は軽く息を吐いて、コーヒーへ手を伸ばした。
――直後。
「クローーー!!」
「うおっ」
スタッフ席の扉が勢いよく開いた。
飛び込んできたのは、星宮アリス。
3Dキャプチャースーツ姿のまま。
息切れてる。
「……何してるんですか」
「また見に来た!」
「配信中ですよね?」
「今転換中!」
いやそうだけど、スタッフ席まで来るな。
「うわ、ほんとに監視室に居る……」
後ろから白雪ミオまで顔を出す。
お前も来たのか。
「おいおいおい!」
更に灰堂蓮。
「スタッフエリア侵入禁止だろ普通!」
お前が言うな。
一瞬で騒がしくなるスタッフ席。
周囲のスタッフ達も苦笑していた。
「だから言ったじゃん!」
アリスが俺を指差す。
「クロ本当に働いてるって!」
「いやまあ働いてますけど……」
「なんで!?」
「それ五回くらい聞かれてます」
蓮が俺の机を覗き込む。
「うわ、普通に監視画面だ」
「普通に仕事してる……」
ミオが呆然としていた。
すると。
「お前ら何してんの?」
今度は天音ルナ、ジュース片手。
完全に休憩テンション。
「クロ見学!」
「動物園みたいに言うな」
ルナが吹き出した。
「いやでも気になるでしょ。登録者百万人が監査室いるの」
「そう思います」
真琴が頷く。
味方が居なかった。
「クロさぁ」
アリスが俺の椅子の背に体重を掛ける。
「普段何してんの?」
「色々です」
「ざっくり!」
「機材見たり、編集したり、配信確認したり」
「なんで演者がやってんの……」
「成り行き?」
自分でもよく分からない。
ただ、気付いたらこうなっていた。
新人時代、少し手伝っただけだったはずなのに。
「伊織って断れないんですよね」
真琴が淡々と言う。
「頼まれると」
「否定は出来ない」
「あと配信周り好きすぎます」
「それはまあ」
否定しない。
配信文化そのものが好きだ。
機材も編集もコメント欄も配信前の空気も全部。
「……なんかさ」
ルナが少しだけ笑った。
「クロってVtuberってより、配信者って感じだよね」
一瞬、空気が静かになる。
その言葉は妙にしっくり来た。
たぶん俺自身もそう思っている。
アイドルになりたいわけじゃない。
有名になりたいわけでもない。
ただ、配信が好きだった。
だから今も続けている。
「というかクロ」
蓮が急にニヤついた。
「せっかくだし3D出ろよ」
「嫌です」
「即答!?」
「今スタッフなんで」
「いやその理論意味分かんねぇって!」
アリスも乗っかる。
「絶対面白いじゃん!」
「見たい!」
「コメント欄爆発するって!」
「だから嫌なんですよ……」
想像出来てしまう。
突然クロの3Dモデル登場。
コメント大荒れ、切り抜き乱舞。
面倒だ、非常に。
すると。
「お前ら」
低い声、振り向くと緒方玲だった。
イベントディレクター。
全員固まる。
「配信中」
「「「すみませんでした」」」
一斉に頭を下げるVtuber達。
完全に怒られる生徒である。
「次競技始まる。戻れ」
「はーい……」
アリス達が渋々戻っていく。
去り際、ルナがこちらを見た。
「クロ」
「はい?」
「やっぱあんた変な人だわ」
「よく言われます」
そして全員出て行く。
静かになる監視室。
数秒後。
「……嵐でしたね」
俺が呟く。
真琴が小さく笑った。
「人気者ですね」
「嫌な方向でです」
でも少しだけ楽しかった。
そんな自分に気付いて、俺は小さく息を吐いた。
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