52話
珍しく、本当に珍しく。
完全オフの日だった。
「……人多いですね」
駅前。
久瀬伊織は小さく呟く。
隣には七瀬真琴。
「休日ですから」
私服。
かなりラフ。
真琴はカジュアルなパーカー姿だった。
そして。
「クロさん!」
少し後ろから走ってくる声。
雨音しずく。
「すみません待ちました!?」
「いや今です」
「セーフ……!」
嬉しそうに笑う。
今日はただ遊びに行くだけ。
配信も無し。
企画も無し。
普通の休日、ただそれだけだった。
「で」
真琴が歩きながら聞く。
「どこ行くんです?」
「決めてません」
「えっ」
しずくが止まる。
「ノープランですか!?」
「まあ適当に」
「クロさんらしい……」
実際そうだった。
休日に細かく予定を立てるタイプではない。
「じゃあ買い物とか!」
「いいですよ」
「カフェも行きたいです!」
「はいはい」
かなり元気だなぁと思う。
その横で真琴が少し笑っていた。
「伊織、保護者みたいですね」
「なんで」
「面倒見良いので」
「最近ずっとそれ言われるんですよね」
しずくが頷く。
「実際そうですし」
「しずくまで……」
否定しにくいのが面倒だった。
ショッピングモール。
「うわぁ……!」
しずくが目を輝かせている。
「ほんと普通に遊び来た感じですね」
「普通ですから」
「クロさん休日何してるんです?」
「寝てます」
「終わってる」
真琴が即答した。
「ほんとに寝てるか編集してるかです」
「だから今日外出れて良かったですね」
「俺が引きこもりみたいな」
「違うんです?」
「……」
否定出来ない。
その時、しずくがふと立ち止まる。
「あ」
「?」
「これクロさんっぽい」
服屋の黒系パーカー。
「俺こんな感じです?」
「かなり」
真琴まで頷く。
「伊織、黒ばっかですし」
「VTuber名の影響です?」
「知らないうちに侵食されてるのでは」
「怖」
しずくが笑っていた。
その後、カフェに向かう。
かなり落ち着いた空気。
「なんか不思議です」
しずくがストローを触りながら言う。
「何がです?」
「クロさんと真琴さんと普通に遊んでるの」
「そんな変です?」
「だって配信者さんですよ!?」
「しずくもです」
「あっ」
一瞬止まる。
そして。
「……忘れてました」
「なんで」
通話してゲームして、遊んでその時間が多すぎてもう普通の友達みたいになっていた。
その時、真琴が少し笑う。
「でも伊織、かなり自然ですよね」
「何がです?」
「人と居る時」
「そうです?」
「昔よりずっと柔らかいです」
一瞬、少し静かになる。
デビュー当時はもっと閉じていた。
コラボも嫌。
人付き合いも少ない。
今も変わってない部分はある。
でも最近は確かに少し変わった気がしていた。
「……まあ」
俺はコーヒーを飲む。
「騒がしい人増えましたからね」
「誰の事ですか!?」
「自覚無いんですね」
真琴まで笑う。
しずくは少し不満そうだった。
でもその空気が妙に心地良かった。
もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。




