47話
LIVENTO本社。
大型スタジオフロア。
箱イベント当日。
「……人多」
久瀬伊織は小さく呟いた。
廊下、スタッフ、機材、カメラ、配線。
そして3Dモーションキャプチャースーツを着たVtuber達。
普通に異様だった。
「おはよーございまーす!」
黒い全身スーツ。
顔だけ出ている星宮アリスが走っていく。
見た目が完全に変質者である。
「おはようございます」
その後ろ、ルナ、ミオなど全員同じ。
黒タイツ集団。
「……毎回思うんですけど」
俺は隣を見る。
「絵面終わってません?」
「終わってます」
七瀬真琴が即答した。
今日は二人とも完全私服。
仕事はほぼ終わっている。
イベント編集も準備済み。
だから今は普通に暇だった。
「伊織、飲みます?」
「ください」
真琴が缶コーヒーを渡してくる。
二人でスタジオ端のスタッフ席へ座る。
モニターにはイベント配信画面。
リハーサル映像。
そして黒タイツ姿のVtuber達。
「シュールですねぇ……」
「ですね」
その時。
「お疲れ様です」
別の声、振り向く。
他担当マネージャー。
白石蓮。
星宮アリス担当。
20代後半。
かなり疲れてる顔。
「どうも」
「クロさん今日珍しく完全オフですね」
「まあイベント出ないので」
「それなのに会社居るんですね」
「編集機材があるので」
真琴が代わりに答えた。
白石が苦笑する。
「クロさん、ほんと裏方慣れしてますよねぇ……」
「もう半分スタッフなんで」
「否定しないのか……」
その横、別マネージャー。
ルナ担当女性。
「でも今日くらい休めば良かったのに」
「家だと何もしないので」
「あー……」
全員納得。
真琴だけ少し笑っていた。
「伊織、家だと本当にだらけますから」
「人をダメ人間みたいに」
「事実です」
否定しにくい。
その時、スタジオ側。
「やばっ転ぶ!!」
ドンッ!!
アリスが3Dスーツ姿で転倒。
スタッフざわつく。
「大丈夫!?」
「いたぁい!!」
「……」
「……」
スタッフ席、全員無言。
シュールすぎる。
黒タイツ集団が騒いでいる。
「毎回思うんですけど」
白石が真顔で言う。
「夢無いですよね」
「かなり」
真琴が頷いた。
「リスナーには絶対見せられないです」
その時モニター側。
配信開始カウントダウン。
5:00
「始まりますね」
俺はコーヒーを飲みながら画面を見る。
今日は完全に観客、裏方でもない。
出演者でもない。
珍しく、本当にただ見ているだけだった。
「そういえば」
ルナ担当マネージャーがこちらを見る。
「クロさん、最近外部大会ばっかですね」
「……まあ」
「Re:Burstさんと仲良いですもんね」
「勝手に巻き込まれてるだけです」
「嘘だぁ」
白石が笑う。
「楽しそうじゃないですか最近」
「……」
最近、よく言われる。
その時隣。
真琴が小さく笑った。
「実際楽しそうですよ」
「真琴まで言う」
「事実なので」
否定しきれないのが面倒だった。
その時。
イベント開始
モニター切り替え。
画面の中ではキラキラしたVtuber達が笑っていた。
でも現実はスタジオ、黒タイツ集団。
「……」
「……」
スタッフ席全員、少しだけ笑ってしまった。
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