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Vtuberになったのに裏方をしてます  作者: 東海林


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38/56

38話

午前十時。

久瀬伊織宅。


「……」


「……」


結局、五分どころか三十分くらい経っていた。


「真琴」


「はい」


「そろそろ離れてください」


「嫌です」


「即答だなぁ……」


現在普通に抱きつかれたままである。

もう朝。完全に朝。


「会社行くんですよね?」


「行きます」


「じゃあ準備してください」


「真琴が離れれば出来ます」


数秒、真琴が少しだけ考える。

そして。


「……」


ぎゅ。


「なんで強くなるんです?」


「寒いので」


「便利ワードみたいに使うな」


でもようやく少しずつ離れる。

完全に猫だった。



一時間後、外。

事務所への道並んで歩く。

いつもの光景。


「伊織」


「はい?」


「今日、Re:Burstの練習と大会ですよね」


「昼からですね」


「しずくさん緊張してそう」


「してるでしょうね」


かなり分かりやすいタイプだからな。

その時、俺は少しだけ真琴を見る。


「……真琴」


「はい?」


「そろそろ誤解されますよ」


「何がです?」


「距離感」


朝のあれどう考えても終わってる。

真琴は少しだけ考えて。


「今更では?」


「……」


否定出来ない。

実際、周囲はもうかなり慣れていた。

新人時代から一緒。

家近い、泊まる、一緒に居る。


最近では普通に配信まで出た。


「でも」


俺は少しため息を吐く。


「前の配信とかで更に言われてるんですよ」


「夫婦とか?」


「やめてください」


真琴が少し笑う。


「伊織、ああいうの弱いですよね」


「面倒なんですよ」


「でも嫌そうではないです」


「……」


またそれだ。

この人、時々妙に鋭い。


「まあ」


真琴は静かな声で続ける。


「私は今のままで困ってないので」


「俺も別に困ってはないですけど」


「ならいいじゃないですか」


さらっと言う。

本当に自然だ。


だからこそ周囲も余計に疑うんだろうな。



事務所到着。

エレベーター。

そして。


「おはよーございま――」


星宮アリス。

止まる。


「……」


「……」


視線。

俺と真琴、並んでる。

同じタイミング出社。


完全に私服。


「……また一緒?」


「家近いんで」


「ほんとぉ?」


ニヤニヤしている。

面倒だな。


さらに後ろからルナ。


「おはよー……あ」


止まる。


「また?」


「またです」


もう否定も雑になる。

ルナが吹き出した。


「いやもう隠す気無いじゃん」


「隠すも何も」


「昨日も泊まってた?」


「はい」


真琴が普通に答える。

一瞬静かになる。


そして。


「「えっ」」


アリスとルナの声が揃った。


「いや普通に仕事遅かったので」


真琴は落ち着いている。


「ベッド足りなかったので一緒に寝ました」


「待って情報量」


「違います」


「何が!?」


アリスが爆笑していた。

ルナはもう肩震わせてる。


「クロ、もう諦めな?」


「だから違うんですよ」


「でもさぁ」


ルナが笑いながら言う。


「真琴さん、完全に彼女ムーブなんだよね」


「違います」


「違います」


また声が揃う。


『息ぴったり』


とかコメントされそうだなこれ。


俺は頭を抱えた。

その横で真琴だけは、少しだけ楽しそうに笑っていた。

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